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中国農業農村部、中央一号文件について解説(中国)

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 中国農業農村部が監修する中国農村雑誌主催のWeChat公式ページ「ミクロ三農」(「三農」は農業、農村、農民のこと)は2025年2月28日、「中央一号文件(注1)の精神を学び、貫徹する」シリーズの一つとして、同部畜牧獣医局の黄保続局長名で「畜牧業の安定発展を推進する」との記事を掲載した。
 この中で黄局長は、まず24年の畜産政策の成果を振り返り、その後、「今年は『十四五』計画(注2)の仕上げの年であるとともに、『十五五』計画を策定する要の年でもある」として、今年の取り組みが特に重要となることを示した。また、畜産物に関し「政府の要求と業界からの期待の双方に応え、畜産物の生産能力と供給の安定化を確実に行わなければならない」とした。さらに、25年は安定の中にも発展を求め、また、発展することで安定も促すことにより、(1)生産能力を極力安定化させ(2)疾病を予防し(3)安全を維持し(4)産業転換を促し(5)重要な畜産品への需要を均衡的にコントロールし(6)産業リスクを解消し、もって、畜産品の安定的な供給能力を向上させるとした25年に実施する政策の方向性を紹介した。
 その主な内容は以下の通り。

 (注1)2025年の一号文件中畜産業に関する内容については海外情報「中国が今年の一号文件を発表、初めて肉牛に言及、養豚は安定化へ(中国)」をご参照ください。
 (注2)2021〜25年の畜産業に関する5カ年計画である「<十四五>全国畜牧獣医行業発展規画」を指す。

24年の畜産政策の成果

 中央・地方政府それぞれの畜産部門が協力し、重要な任務と政策を着実かつ適時に実施したことで、一年を通じて畜産業は規模化、基準化、施設化、環境保全化に関して穏やかな発展を遂げ、さらに、産業の転換・レベルアップにも進展が見られた。これらの成果は次の通りである。

(1)基礎的な生産能力は安定
 2024年は、母豚の飼育頭数目標を4100万頭から3900万頭へと果断に調整したことにより、養豚業は赤字から黒字に転換し、生体豚価格は合理的な水準を保ち、年間平均で1頭当たり出荷利益額は約210元(約4368円)(注3)を確保した。これにより、養豚業では長期にわたって続いていた豚価低迷による経営圧力と金融リスクが解消され、畜産業全体の情勢を安定化させる重石となることができた。また、肉牛、乳牛が直面する困難な局面に対しては、生産能力の安定化とコスト削減、効率化と増収などを一体的に実現できる施策を展開し、全国で約67億元(約1394億円)の政府資金を投入して飼養農家を支援した。これにより、肉牛飼養農家と酪農家の赤字幅は、それぞれ15%、5%ずつ縮減された。

 (注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年2月末日TTS相場である1元=20.80円を使用した。

(2)疾病は全体的に低位で推移
 動物検疫監督注力行動を展開したことで、アフリカ豚熱に対してより的確な防疫を推進した。また、高病原性鳥インフルエンザ、口蹄疫、ブルセラ症などの重大動物疾病および重点人畜共通感染症に対して、春と秋に集中予防を展開し、免疫抗体合格率を90%以上に保った。全国的には高病原性鳥インフルエンザ3件、口蹄疫3件、小反芻(すう)獣疫1件が発生したものの、疾病観測地点の陽性率は低い水準を保ち、区域をまたいで重大疾病を発生させないとの最低限のラインを堅守した。また、家畜間でのブルセラ症の発生率を前年比で22%抑制し、さらに、人間への感染はここ数年で初めて減少し、「疾病を根本的にコントロールする」政策の効果が見られた。

(3)環境保全型畜産業への転換が加速
 飼料用大豆かすの減量・代替行動の実施により、全国の飼料企業による大豆かす利用量は2023年比で206万トン減、割合では4.7%減となった。また、配合飼料中の大豆かす利用割合も13.6%となり、同じく0.3ポイント減少した。環境保全に関しては、全国130カ所の家畜ふん尿処理・資源化推進プロジェクトの進展によって、家畜ふん尿の総合利用率は79.4%に達し、前年比で1.1ポイント上昇した。

(4)畜産物の品質・安全性は高い水準を維持
 2024年に「肉類産品の違法犯罪特化取締りプロジェクト」を実施したことにより、畜産物に対する犯罪行為がその発端にさかのぼって掘り下げられ、違法なと畜、加工、販売の取締りが進んだ。肉牛、肉羊の大規模生産省、県(基層行政区)では、特に違法なものを畜産物に添加する行為を取り締まった。また、家畜・家きん用の医薬品に対する取締り活動も行い、畜産物の獣医用薬品の残留リスクを低減した。生乳の生産・流通・加工と、と畜段階での食肉の品質監督も高い水準を保ち、国民の「舌の上の安全」を守った。

25年の畜産政策の成果

 中央一号文件の精神に則り、以下の方策を進める。

(1)養豚の生産能力に対する監督とコントロールを適切に行う
  豚生産能力管理調整方策を着実に実施し、母豚の飼育頭数を適切に押さえ、生体豚の生産能力を合理的な範囲に維持する。主要なメディア、WeChatグループ、公益性のある動画などを活用し、多様な生産主体に対する啓発を強化する。飼育主体に対して産出能力の優良化を促し、価格が下落すると見込まれるときには肉付きの良い豚は出荷しつつ産出能力の低い母豚や弱った子豚の淘汰(とうた)を進めるなどにより出荷総量は押さえ、市場情勢に反した盲目的な生産能力の拡大を抑制する。大養豚企業の金融リスクを常に注視し、その経営や負債の状況を緊密に捕捉することでリスク予測を強化し、企業が立地する地域の政府が責任を負う属地責任を徹底し、負債率が高い企業に対しては個別指導を行うなどにより、金融リスクの解消を図る。

(2)肉牛、酪農への支援を促進する
  2024年に7部門が共同で発出した「肉牛乳牛生産の安定化に関する通知」をさらに一歩推し進め、財政的、金融的措置による支援を強化し、飼養農家が困難な時期を乗り越えられるよう支援する。母牛群の拡張と品質向上を図る政策を推進し、また、細やかな対応により飼養農家に可能な限り迅速に資金が届くように務めることで生産基盤の優良化、安定化を図る。さらに、金融部門と協力し、肉牛や乳牛、畜舎などを動産担保とすることや、貸付期間の延長、継続貸付の実施などにより、当面の経営困難を乗り切れるよう支援し、地方政府による利子補給を奨励する。牛肉の輸入と生産が協調する仕組みを整え、商務部が主導している輸入牛肉に対するセーフガード調査(注4)に協力する。牛肉の品質に関する基準を策定し、生鮮牛肉、生乳についての消費宣伝を強化し、品質の向上と価格の適正化を促す。

 (注4)海外情報「中国商務部、輸入牛肉に対するセーフガード措置実施の調査を開始(中国)」(令和7年1月28日発)をご参照ください。

(3)乳業における生産と加工の一体化を進める
  滅菌(殺菌)乳に関する新たな国家基準についての解説・宣伝を強化し、また、還元乳に関する基準・標識調査を展開するとともに、滅菌乳の新国家基準の着実な実施を加速する。さらに、乳業における生産と加工の一体化を推進する政策通知の発出を進め、酪農・乳業に対する政策を着実に実施することにより、乳業各社が原料となる生乳を安定的に調整できる比率を高めるとともに、条件が合う場合には酪農場の近隣で加工を行うことも推奨し、酪農家の収入増の可能性を広げる。乳業生産能力向上推進などのプロジェクトにより、家庭牧場や酪農合作社(組合)などの新しい経営主体を育成し、乳業の産業チェーン全体の協調的な発展を促進する。

(4)違法な豚と畜行為などに対する厳格な取り締まりを実施する
  豚と畜産業の秩序だった発展を促し、法に基づかないと畜を厳格に取り締まる。行政区域の境目、既に取り締まったことのある小規模と畜場や違法と畜場密集地点など、生体豚の仲介所となりやすい区域を対象に、定期的に網の目方式の調査を実施し、不適切なと畜、不適切な薬品の添加、病死した家畜の食用加工といった行為を厳格に取り締まり、行政罰と刑事罰を厳密に組み合わせる。また、政府関係の獣医チームの育成を適切に行い、職務履行能力を向上する。さらに、検疫制度の実施を着実に行い、監督業務におけるデジタル技術の導入を加速し、年内に動物検疫に関する証書のペーパーレス化を進め、関係データの相互利用を強化し、行政による監督機能の向上を図る。

(5)疾病管理を強化する
  アフリカ豚熱のような重大動物疾病に対する的確な防疫、ブルセラ症のような人畜共通感染症への発生源からの防疫、また、野生動物に対する疾病コントロールなどにより、区域をまたぐ重大動物疾病の発生を確実に予防する。疾病に関する報告制度をより確実なものとし、村全体、飼養場全体を対象とする調査や飼育場入口などでの抽出調査を着実に実施する。疾病の発生状況について、速報、週報および月報で提供する。疾病発生時の対応体制を改善する。清浄地区、無疾病地区などを設定し、また、疾病の追跡と動態管理を強化する。区域によって異なる防疫措置を取り、大区画内における防疫、検疫、流通管理、と畜管理などの相互連携を推進する。

(6)草原型畜牧業のレベルアップを加速する
  畜産業における飼料節約プロジェクトをさらに推進する。「飼料作物の高品質発展(注5)を進めることに関する意見」(注6)を着実に実施し、各地域における耕作地、草原などの土地資源の合理的な利用を進め、飼料作物の生産を積極的に展開する。アルカリ性土壌の草地化を進め、安定的な飼料作物生産地を造成する。食糧利用から飼料利用への転換や「暖かな季節は適度に放牧し、寒い季節には畜舎や半畜舎で飼養する」などの生産モデルを推進する。飼料作物についても観測の仕組みに組み込み、健全な飼料統計観測・調査の仕組みを整備する。草原型畜牧業のレベルアップ・プロジェクトを推進し、他地域でも展開・推奨可能な経営モデルを作り、収集する。草原に関する補助・奨励政策を着実に実施し、環境保全との協調的発展を図る。

 (注5)中国政府が進めるすべての政策は基本となる5か年の方針または計画に基づく。現在の5カ年期間である21年から25年までの政策スローガンの一つに「高品質発展」があり、あらゆる産業の量から質への転換を目指すとの意味が込められている。
 (注6)2024年10月、国家発展改革委員会、農業農村部および国家林業草原局が連名で発出した文書。30年までに優良な飼料作物の生産面積は1.35億ムー(900万ヘクタール)、生産量は1.3億トンとし、牛と羊の優良飼料需要の85%を満たす、とした。
【調査情報部 令和7年3月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530