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中国人民代表大会代表などによる国産牛肉の課題と提言(中国)

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 中国では、日本の国会に相当する中華人民共和国全国人民代表大会および中国人民政治協商会議(注1)が2025年3月第1週から開催されている(両方合わせて「両会」と呼ばれる)。同大会に出席した代表などに対し、中国農業農村部監修の媒体「中国三農」(「三農」は農業、農村、農民のこと)などのメディアが肉牛産業の今後などについて取材した。
 代表などの主な発言内容は以下の通りである。

 (注1)全国人民代表大会と合わせて「両会」と呼ばれる中国の最高意思決定機関の一つであり、中国共産党が標榜する多党協力と政治協商を体現する重要な会議。政治協商会議の全国委員が会議開催期間中に特定の行政分野に対して提言を行った場合、提言に関する分野の担当政府機関はその回答を公式ホームページ上で公開することとなっている。昨年度の提言の例については海外情報「中国農業農村部、家きん産業振興に対する委員からの提言に回答(中国)」(令和6年7月30日発)をご参照ください。
■ 全国政治協商委員会委員の林森氏(注2)
 近年、肉牛産業が直面する課題として、飼養農家と飼養企業の利益が圧迫されていることが挙げられる。輸入牛肉価格がより安価なことで、多くの肉牛飼養農家が規模を縮小し、食肉処理企業もと畜を止めて、より利益が得られる輸入牛肉の加工を行っている。国産牛は生産コストが比較的高いため、輸入牛肉と比べて競争優位性がない。また、牛肉の消費力が落ちていることも問題である。
 (中央一号文件(注3)に記載された)「肉牛および乳牛産業の困難を緩和」に対する提言として、今回の両会期間中に、畜牧産業におけるリスク予測とそのコントロールの強化について訴えることを考えている。目下の困難の緩和には多大な労力を伴うが、それでもなおそれと同時に肉牛産業と食肉の位置づけは何か、市場ニーズは何かといったことを俯瞰的かつ明確に把握し、対応していく必要がある。国産牛は中級・低級の牛肉需要にはおおむね対応することができ、一部の高級牛肉需要にも対応可能である。市場で不足しているのは高級牛肉であり、牛肉の輸入に対しては輸入割当を適切に運用する必要がある。
 また、これまでの各種措置の結果、2月の旧正月期間終了後、特に中央一号文件の公表以降、市場に自信が戻ったこともあり、多くの関係者が牛肉価格は上昇に転じたと感じている。地域によってはさらに良い反応が出ている。

 (注2)2018年に全国人民代表大会代表に選出され、23年からは全国政治協商委員会委員。中国の農学部系大学でもトップクラスの西北農林科技大学国家肉牛改良センター主任のほか、同大学牛業生物技術・応用国家地方連合工程研究センター、全国肉牛遺伝資源改良計画専門家指導チーム副チーム長、全国畜牧業標準化技術委員会副主任、国家家畜・家きん遺伝資源委員会顧問、農業農村部肉牛遺伝資源改良・生物技術育種刷新チーム首席専門家などを兼務する。
 (注3)2025年の中央一号文件中畜産業に関する内容については海外情報「中国が今年の一号文件を発表、初めて肉牛に言及、養豚は安定化へ(中国)」(令和7年3月7日発)をご参照ください。
■ 全国人民代表大会代表の高鵬凌氏
 四川省巴中市長である高氏は、市内の多数の飼養農家が要望していることとして、(1)飼養企業や飼養農家に対する金融支援や財政支援の実施、(2)牛肉備蓄制度の整備を検討、(3)産業動向に関する需給予測、(4)予測などの情報プラットフォームの整備、(5)適度な牛肉輸入量の制御と牛肉密輸に対する取り締まりの強化を挙げ、これらに関する提言を検討していると語った。
■ 全国人民代表大会代表の朱学良氏
 黒竜江省ドルボド・モンゴル族自治県の副書記兼県長である朱氏は、黒竜江省は農業大国であり、また、4700万トンもの茎系飼料(稲わらなど)資源と1000万ムー(66万6667ヘクタール、1ムー=0.0667ヘクタール)もの草原を有し、高級牛肉産業の発展に関して有利な状況にあるとした。しかし、高級牛肉産業について、「外形的には良い情勢しか見えないが、実際には難題が少なくない」とし、具体的に次の課題を掲げた。
 まず、問題になるのは遺伝資源である。主要な遺伝資源は長らく輸入に頼っており、国内の品種選別の仕組みは不十分で、繁殖コストが高止まりしている。また、牛肉の品質基準が混乱しており、市場では多数の基準が併存している。一部の不良店に至っては「雪花牛肉」や「和牛」といった虚偽宣伝(サシが入っていないにもかかわらず「霜降り牛肉(雪花牛肉)」と表示し、また、肉質が良くないにもかかわらず、肉質が良い牛肉に表示することが一般的な「和牛」との表示を行い、消費者を混乱させている)を行っている状況。産業チェーンも不健全であり、飼養コストが高く、疾病予防圧力も大きい。と畜加工企業の多くが低加工に留まり、高い水準の加工を行える企業の割合は全体の20%にも満たない。国産牛肉で全国規模のブランドになっているものはさらに少なく、総じてブランド力が弱い。
 その上で朱氏は、これら課題に対する提言として、次のように語った。
まず、遺伝資源については、高級肉牛育成繁殖システムの整備を重視し、国家が主導している種畜振興プロジェクトを重点研究の対象として研究費を増大することで研究機関を鼓舞する。加えて、研究機関と民間企業が連携してこの課題に取り組むことを促すとともに、肉牛の遺伝資源の適切な保護を図るべきである。「遺伝資源を自分の手でしっかり掌握してこそ、産業は長期的に発展することができる。」
 次に、牛肉の基準については、中国独自の高級牛肉の基準と認証制度を構築し、第三者認証機関を設立し、消費者が何を食べているのかわかるようにすべきであるとした。
 そして産業チェーンについては、(1)高級肉牛の生産農場について、養豚の主産地が実施している政策を政府が参考にして財政支援を行うこと、(2)特に飼養拠点への補助の程度を強化すること、(3)「戸繁企育」モデル(地元を代表する飼養企業が地域の飼養農家を牽引し、企業経営に基づいて飼養農家が育てたもと牛を買い取り、肥育、出荷すること)を広く進めること、(4)金融支援を強化して投資のハードルを下げることが必要とした。
【調査情報部 令和7年3月28日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530