豪州産牛肉に対し、米国は10%の相互関税を導入(豪州)
豪州時間4月3日の早朝、米国のドナルド・トランプ大統領はホワイトハウスで演説を行い、貿易相手国の関税率や非関税障壁を踏まえて自国の関税を引き上げる「相互関税」として、豪州からの全輸出品目に10%の関税を課すことを発表した。豪州の米国向け輸出品目の中で最大のカテゴリは牛肉となっており(図1)、2024年には約40万トンが輸出されている(図2)。主に低価格帯の加工用トリミングミート(注1)を無税(注2)で輸出しており、相互関税による価格競争力の低下から業界への影響が懸念されている。
(注1)肉の各部位をトリミング(余分な脂肪や組織を取り除き整形する工程)した際に発生する肉をまとめたもの。主にネックや前バラから多く発生する。
(注2)GATTおよび豪州・米国自由貿易協定(AUSFTA)の無関税枠を利用して輸出されていたが、2023年にAUSFTAの移行期間が完了し、数量制限が撤廃されている。
豪州政府の反応
連邦政府のアルバニージー首相は、米国側の発表直後に記者会見を行い、この関税措置は完全に不当なものであると断じた上で、関税撤廃に向けて働きかけを強めていくことを表明した。加えて、報復関税を行う予定はなく、米国側が非関税障壁として批判を強めている豪州のバイオセキュリティシステムについても、交渉のテーブルに乗せるつもりはないと強調した。
また、連邦政府は同日付で国内産業を守るための新たな公約を発表した(表)。公約の履行は5月に控える連邦総選挙の結果次第となるが、野党からもさまざまな対応案が出てきており、選挙の主要な争点となる可能性がある。
業界の反応
主要生産者団体である全国農民連盟(NFF)は、「豪州と米国はゼロ関税を適用しているAUSFTAにより深い関係を築いてきたが、今回の決定は両国および世界経済にとって大きな後退である」と深い失望を表明した。今後は豪州政府と緊密に連携し、適切な解決策を模索していくとしている。
また、肉用牛生産者の主要業界団体であるキャトル・オーストラリアは、「既に米国は豪州・NZ食品基準機関(FSANZ)の調査でBSEリスクステータスが低い国と評価されており、検疫上の要件を満たせば豪州への輸出が可能となっている」として、豪州の検疫要件が米国産牛肉の輸出を阻害するとした米国側の主張を否定した。これらの要件は米国で出産、肥育、と畜された牛に適用されているが、米国側はメキシコやカナダで生まれ、米国で肥育、と畜された牛から生産された牛肉の輸出も求めており、そのリスク評価が長期化しているという現状にある。
豪州産牛肉の最大の輸出先は米国であるものの、全体に占める割合は約3割と、輸出先の多様化は一定程度進んでいる。また、米国市場での競合相手とされるブラジル産牛肉(注3)にも同様に10%の関税が課されることから、競争環境への影響は軽微であるという意見も聞かれる。加えて、農畜産物の市場アクセスの面で一度交渉が決裂しているEUとの自由貿易協定に関して、今回EUが20%の関税が課されたことを契機として、交渉を再開しようとする動きもみられる。これらの要素を踏まえれば、今後の牛肉需給への影響は現時点で不確実であり、引き続き動向が注視されている。
(注3)日本を含む複数国が分け合う米国の低関税枠6万5005トン(税率4.4セント/キログラム)を優先して利用しており、枠消化後は26.4%の関税が課されている。2024年は約31万トンを米国に輸出している。
【調査情報部 令和7年4月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4389