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米中貿易摩擦による畜産業への影響は限定、飼料利用の改善などを公表(中国)

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 中国政府は、米国政府による貿易措置に対抗して2025年3月10日から、米国から輸入される鶏肉、小麦、トウモロコシなどに対し15%、大豆、こうりゃん(ソルガム)、豚肉、牛肉、乳製品などに対し10%、それぞれ追加関税を課している。また、その実施に先立ち、中国農業農村部は2024年12月31日、「養殖業飼料用食糧の節約行動に関する意見」を発出した。
 以下に、国内畜産業に対する追加関税措置の影響に関する現地報道と、中国農業農村部の発出した飼料政策に係る意見の概要を紹介する。

米国産農産物に対する追加関税措置の影響

(1)トウモロコシ
 中国はトウモロコシについて輸入関税割当制度を取っており、2025年の割当数量は720万トン、うち60%は国営企業による貿易向けであり、税率は1%である。24年の中国のトウモロコシ輸入量は1376万トンと、国内総需要量の4.4%に達した。うち米国産トウモロコシの輸入量は207万トンと、総輸入量の約15%を占めたが、国内総需要量に占める割合は0.7%に過ぎない。22年には、総輸入量に占める米国産トウモロコシの割合は72.1%に達したが、その後の割合は減少を続けており、今回の追加関税措置の影響は比較的小さいとみられる。

(2)大豆
 大豆もトウモロコシ同様、米国産への依存度が減少している。2024年の大豆輸入量に占める米国産の割合は20%程度に留まっており、ブラジル産が70%を占めている。中国の大規模牛飼養企業によれば、25年3月初旬時点で米国の旧穀大豆販売量は前年の90%を超える水準に留まり、在庫となる500万トンのうち、350万トンが中国向け輸出と見込まれる中で、今回の追加関税措置の影響を受けるのは150万トン程度と予想されている。今期はブラジル産大豆の豊作が見込まれていることから、短期では今回の措置の影響は少ないとみられる。しかし、今後大豆の国際価格が上昇するような状況となれば、国内の畜産業は一定の影響を受けるとみられる。

(3)こうりゃん
 中国が輸入する飼料穀物の中で、米国産の割合が比較的大きいものはトウモロコシ、大豆、こうりゃんである。今回の追加関税措置の影響を最も受けると見込まれるのはこうりゃんである。2024年に中国は866万トンのこうりゃんを輸入したが、その6割超が米国産であった。ただし、米国のこうりゃん輸出についても、その6割程度が中国向けであるため、今回の措置は米国国内のこうりゃん産業にも大きな影響を及ぼすとみられる。

(4)飼料原料の輸入依存度低減
 中国国内の飼料原料を見れば、輸入大豆、輸入アルファルファなどへの依存度は比較的高い。しかしながら、この2年間、養豚事業者、牛飼育農家などが豚肉や生乳などの価格変動に対抗するために主に実施してきた取り組みもまた、この飼料コストに関するものであった。飼料となる大豆かすなどは綿実かすやひまわり種かすなどへの代替が可能であり、そのような大豆かすから他の油糧種子かすへの代替は既に行われている。例えば養豚大手企業の牧原や畜産大手企業の新希望六和などは、原料配合に関するビッグデータバンクを整備し、大豆かすや菜種かすなどの輸入たんぱくの使用量を減らしている。
 農業農村部農産品市場分析予測チームの飼料首席分析師によれば、今回の追加関税措置以降は、米国産のトウモロコシやこうりゃんの輸入量は減り、飼料原料の輸入に関して種類や輸入先の調整が進むことで、ブラジル、アルゼンチン、豪州などからトウモロコシ、こうりゃん、大麦の輸入が増えると見込まれている。
 酪農への影響について中国乳牛専門雑誌「ホルスタイン」では、中国の乳牛の飼料は主にコーンサイレージ、大豆かすであるが、輸入アルファルファへの需要量も比較的大きく、かつ、2024年の輸入アルファルファの84.9%は米国産であるが、アルファルファは今回の追加関税措置の対象外であることから、影響は限定的と見込んでいる。

(5)国産畜産物への影響
 まず、乳製品について、2024年の乳製品輸入量は262万トン(前年比9%減)であった。このうち、輸入量が増えたのは比較的輸入量が少ないクリーム類、ヨーグルト類などであり、それ以外は軒並み減少した。輸入量が増えたクリーム類で見れば、24年の輸入量は14万トンで、主な輸入先はニュージーランド(NZ)(輸入量全体の84.2%)である。また、ヨーグルト類の輸入量は2万トンで、主な輸入先はEU(同92.4%)、さらに、チーズ類の輸入量は17万トンで、主な輸入先はNZ(同59.6%)、EU(同18.9%)であり、米国からの輸入量は同4.6%に過ぎない。食糧関係のメディアによれば、中国の乳製品消費に占める米国産の割合は同0.25〜0.5%に留まるとされている。
 次に豚肉について、24年の豚肉輸入量は107万トン(前年比30.8%減)であった。国内の豚肉供給量が充足しつつあり、輸入依存度は国内総供給量の1.8%に留まった。このうち、米国産豚肉は7万トンと、輸入量全体の0.1%に過ぎなかった。
 中国農業科学院北京畜牧獣医研究所研究員兼農業農村部豚肉全産業チェーン観測予報首席分析師は、米国産の乳製品や牛肉などに対して追加関税が課されることは国内産業にとって利点が大きく、国内畜産物の価格改善にも資するとしている。また、この2年間、畜産物は牛肉以外の豚肉と鶏肉の輸入量が減少しており、豚肉については生体豚飼養頭数が安定的に推移している中で、今回の措置は中国畜産業にとって科学的な判断が行われたものであるとしている。同氏によれば、現在、中国の畜産業はコスト低減を最も重視している。国内の畜種、飼料の栄養素などの分野に対する改良・改善の速度は速く、飼料配合の優良化、飼料原料の供給元の多様化などにより、今回の措置への対応は可能とされる。特に、大豆かすについては他原料への代替を国内企業が常に課題としてきたものであり、その成果が成熟しつつある今、今回の措置が中国の畜産業に対して大きな影響をもたらすことはないとしている。

「養殖業飼料用食糧の節約行動に関する意見」について

 国務院は「畜牧業の高品質発展に関する意見」を2020年9月に公表し、飼料配合の優良化を図り、他飼料によるトウモロコシ、大豆かすの代替を促す方針を明確にした。さらに22年9月、農業農村部は豆かす減量・代替行動プロジェクト視聴会を開催し、中国の食料安全において突出した矛盾は飼料原料にあると説明した。
 これらを踏まえ農業農村部は25年1月、24年12月31日付けで「養殖業飼料用食糧の節約行動に関する意見」を公表し、飼料の節約、新たな飼料原料の開拓、飼料配分の最適化、の3点について取り組むことを明確にした。これらの取り組みには、(1)飼育管理の精緻化、(2)適切な高効率飼養モデルの推進、(3)飼料資源に関するデータバンクの整備、(4)非飼料原料資源の活用、(5)農畜産副産物の加工利用の加速、(6)新たな飼料穀物に関する審査制度の完備、(7)飼料節約型の家きん生産の促進を含む飼養畜種の構造改善−などが含まれる。
【調査情報部 令和7年4月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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