中国農業展望大会におけるトウモロコシおよび大豆フォーラム(中国)
中国農業農村部は2025年4月20日および21日に開催された中国農業展望大会においてテーマ別フォーラムを併催し、そのうちトウモロコシおよび大豆について、生産や市況などの講演概要を紹介する(注1)。
(注1)テーマ別フォーラムは、トウモロコシ、大豆、飼料のほか豚肉、牛羊肉、乳製品などの12品目および食料安全と消費構造の変化、デジタル農業、農産物貿易と生産調整などの6つの話題の合計18テーマについて開催された。
■中国のトウモロコシをめぐる状況
中糧貿易有限公司(注2)の馬副総経理から、当面のトウモロコシ市況などに関して、以下の講演が行われた。
- 中国産トウモロコシ価格は国際相場に近い水準にあるため、国内のトウモロコシ市場に対する国際価格の影響は少なく、市場の価格動向を左右するのは主に国内の生産状況となっている。
- 今回の米国産品への追加関税についてトウモロコシ輸入への影響は特段見込まれないが、その理由は、第一次中米貿易摩擦の経験を踏まえて、昨年の米国大統領選挙の前には国内の輸入業者は米国産への依存を弱め、南米、特にブラジルからの輸入を増やしていたことも関係している。ブラジル産の品質は既に米国産を上回っており、今後も米国産の輸入が大きく増えるということはないと見込まれる。輸入先の多元化の効果が見られた形であり、今後も引き続き多元化を図っていくことは有意義。
- 飼料穀物としてトウモロコシと大豆を合せても不足があるときは、一般的に代替穀物として供給過多にある小麦の利用が多くなる。このため、今年は飼料原料として小麦の利用が増える可能性もあると見込んでいる。
- トウモロコシの生産について、国内ではある程度の生産の集約化が進んでおり、生産量トップ10位の企業で国内生産量の45%を賄っている。食肉価格が下落すると零細な飼育農家は豚や牛の飼育を止めてしまうが、これらのトウモロコシ生産企業では豚や牛などの飼育部門なども有しており、企業内での需給調整が行われるため、トウモロコシ生産の集約化と飼育部門を有するなどの多角経営化はトウモロコシ供給の安定化に資するため、今後も進む可能性がある。
- 穀物を輸入するということは、輸入先国の物流も利用し、経費も払うということである。仮にトウモロコシの需要を国内産ですべて賄おうとすれば、トウモロコシやその代替が期待できる小麦の有力産地となってきた地域、たとえば新彊ウイグル自治区のような小麦の品質が向上した産地からの輸送についても、問題なく行えるよう新たなインフラの整備が必要となる。国内産の調達割合を高めるとした場合、インフラ整備の遅れが課題の一つとなる。
(注2)中国最大の食品企業グループである中糧集団有限公司(COFCO)傘下の食糧貿易企業であり、小麦やトウモロコシの買い入れ、輸送などを行っている。
■中国の大豆をめぐる状況
フォーラムの冒頭、司会者(中国農業農村部市場予測・警告専門家委員会の武委員)から「大豆は中国の飼料の安全保障、つまりは、たんぱく質の安全保障を左右する穀物である」との発言があった。また講演後にも、中国で流通する大豆について、従来は(1)遺伝子組み換えではない国産食用大豆、(2)遺伝子組み換えの輸入「圧搾用
」(油糧用と飼料用)大豆、(3)遺伝子組み換えではない輸入大豆、というおおむね3種類の大豆に分けた需給動向の分析が必要であったが、今後は(4)遺伝子組み換え国産大豆、も追加した4種類の大豆について、分析する必要性が高まっているとの発言があった。
ア 中国農業科学院作物科学研究所の呉研究院から、大豆産業全般について、以下の講演が行われた。
- 大豆の消費は圧搾用(9200万トン)、すなわち油糧用と飼料用が85%に上り、食用(1600万トン)は15%に過ぎない。なお、わが国の食用油のうち、50%近くは油糧用の大豆を原料としたものである。また、飼料穀物のうち7500万トンが圧搾用から産出された大豆油かす由来であるため、大豆油かすは飼料の安全保障上、極めて重要である。国産大豆は主に食用に向けられるが、2024年は400万トンの余剰が出たため、これが圧搾用に向けられた。
- 大豆圧搾産業の集約化が進んでおり、約60%の生産施設が沿海地区に所在している。生産地、加工地および家きん飼育地が近隣にある米国やブラジルとは異なり、中国はこれらの地域が必ずしも近隣にないが、圧搾産業を中国企業が担っていることは本産業における利点である。
- 食用加工について、中国の大豆は歴史的に大豆加工品としての消費が消費量全体の半数を占める。量にしておおむね毎年880万トンから900万トンである。このうち豆腐系が約75%、発酵製品が約15%、大豆飲料が約6%となる。
- 大豆輸入の最大の問題は、輸入先が偏っていることである。米国産の依存度が減少した代わりにブラジル産が輸入量全体の70%を超えており、今後、輸入先の多元化が必要である。輸入については、世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年に中国の大豆市場を開放するとして採用した関税制度(税率は3%、輸入割当制度なし)も問題であり、これによって輸入が進みやすいという状況があり、制度の見直しが求められる。ただし、大豆輸入に関してABCDと呼ばれる穀物メジャー大手4社の取扱比率は約30%に留まっており、大豆輸入の主導権は中国にあるのが救いと言える。
- 中国の大豆生産は世界全体の生産量の5%に満たないが、消費量では3割を占めている。これは、単収の違い(中国大豆の単収は世界平均の70%程度に留まる)、栽培面積を増やしがたいこと(中国の農用地は十分ではない)などが要因としてある。単収を増やす必要があり、品種、苗の栽培密度、生産コストの低減なども改善する必要がある。
- 大豆生産について生産者からは、省力化への期待が高まっている。省力化のポイントは除草であり、除草剤の利用以外にも遺伝子組み換え大豆の利用拡大が見込まれる。
イ 中糧貿易有限公司大豆センターの蘇副総経理から、当面の大豆の市況などについて、以下の講演が行われた。
- 国産大豆への需要が高まっている。国産大豆は余剰感があり、また、国内外の大豆価格差も縮まっていることから、今年の1月から3月までの間でも輸入圧搾用大豆に代わって国内産大豆の購入が進んだ。
- 地方で備蓄されていた国産大豆の市場放出が始まり、今後の需要動向によっては23/24年産、22/23年産大豆だけではなく、21/22年産大豆も市場に出回る、ということが考えられる。主産地の黒竜江省では、3月中旬以降、既に34回、累計45万トンの備蓄大豆が市場に放出されており、同省の備蓄大豆の放出はほぼ終了となったため、今後は内モンゴル自治区での備蓄大豆の放出が求められている。
【調査情報部 令和7年5月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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