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米国はメキシコからの生体牛の輸入を再度停止(米国)

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 米国農務省動植物衛生検査局(USDA/APHIS)は2025年5月11日、メキシコからの生体牛の輸入を再度停止することを発表した。今回の輸入停止についてUSDAは、メキシコ国内におけるラセンウジバエ(NWS)の発生エリアの拡大を受けたものとしている。輸入停止の対象には、メキシコを原産地とする生体牛のほか、メキシコを経由する生体牛も含まれており、牛以外にもバイソンと馬も含まれている。なお、USDAによれば、この輸入停止は、月単位で見直す可能性があるとされている。

1.USDAによる生体牛の輸入停止措置の概要

 これまでのメキシコからの生体牛の輸入については、2024年11月にメキシコ南部の牛からNWSが検出されたことを受け停止していたが、25年2月には、両国当局間で合意したプロトコルに従って、指定された施設からの輸入が再開していた(注1)

(注1)詳細は「【海外情報】米国農務省、メキシコからの生体牛輸入の再開を発表(米国)(令和7年2月4日発)」をご参照ください。
 
 米国およびメキシコはNWSを根絶した実績があり、メキシコ国内での拡大の阻止と根絶に向け、当時の取り組みとして有効性が確認されている不妊バエの放飼などを再度実施している(注2)。両国は、本取り組みに対して協力することとされていたが、不妊バエの空中散布を行うべく米国側が契約した航空会社に対し、メキシコ側がメキシコ国内での航空機運用を制限し、散布作業に必要な航空機の部品、散布装置、殺虫剤に関税を課すなど、米国側が妨害を受けている状況であるとし、USDAは4月26日付けでメキシコ当局に対して改善を要求する書簡を発出した。米国側は、4月30日までに状況が改善されない場合、メキシコからの生体牛などの輸入を停止することとしていたが、メキシコ当局により状況の改善が見られたとし、輸入は継続していた。

(注2)NWSは、体表に寄生し牛の商品価値を下げ、場合によって牛に致死的な症状を示す。対策として、不妊バエをメキシコ南部や中央アメリカ全域で、空中散布と地上散布を組み合わせ戦略的に放飼している。
 
今般、両国の協力関係は継続している状況ではあるが、メキシコ国内でのNWS検出エリアが徐々に北上していることを受け、メキシコとの国境沿いにある米国南部の指定係留施設における生体の輸入を5月11日付けで停止した(注3)。この輸入停止措置は、NWSの封じ込めが十分に達成されるまで、月単位で継続されることとなる。メキシコ農業・農村開発省は、米国政府と協力し防疫対策を強化しているとし、その中でメキシコ南部の空港で新たに不妊バエを放つ施設を25年11月から稼働できるよう建設を進めることとしている。
 
(注3)メキシコにおける最新のNWS検出状況については、USDA/APHISのウェブページ(https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/cattle/ticks/screwworm/outbreak-central-america)をご参照ください。

2.米国における牛肉生産への影響、業界の反応

 現在、米国で牛群の再構築が進んでおらず、2025年に新たに出生する子牛は24年より減少すると見込まれている。米国にとって、生体牛の輸入先はメキシコとカナダである。23年には198万頭、24年には204万頭が両国から輸入されていた(注4)。特にメキシコからの輸入は、24年11月から約3か月間停止していたにもかかわらず、24年4月から25年3月末までの生体牛輸入頭数(約102.4万頭)は、カナダからの輸入頭数(約86.5万頭)を上回っている。このため、輸入停止が長期化した場合、米国内でのさらなる肥育牛価格の高騰につながると予測されている。
 
(注4)23年(1〜12月)についてはメキシコから124.7万頭、カナダから73.4万頭を、24年(1〜12月)についてはメキシコから124.9万頭、カナダから79.3万頭をそれぞれ輸入している。
図 メキシコおよびカナダからの米国への生体牛の輸入頭数
 このような状況の中で、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、USDAによるメキシコからの生体牛の輸入停止を支持している。25年5月11日に公表された声明では、NCBAはUSDAと緊密に連携して状況を監視しており、メキシコ政府に対し、より積極的な介入によるNWSの拡大防止措置を要請してきたとしており、今回のNWSの検出エリア拡大はメキシコ政府の硬直的な対応によるものだと非難した。なお、今般の生体牛の輸入停止により米国内の農家に対して経済的損失や混乱が生じることは認識しているものの、NWSが万が一米国内に侵入した際のコストと比較してはるかに少ないとしている。また、25年5月14日には、テキサス州選出連邦議員を中心とした超党派グループによりNWSの拡散対策法案が提出された。この法案には、新たな不妊バエ生産施設を建設するための資金提供などが含まれている。
【調査情報部 令和7年5月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533