VIC州議会、農場内の無断撮影・映像公開の厳罰化に対応示さず(豪州)
豪州ビクトリア(VIC)州議会のインフラ・経済委員会(注1)は2025年5月、24年5月に議会から付託されていた「職場活動の監視に関する調査」の報告書を公表した。同調査は、職場の監視データの保存・利用状況やプライバシー保護に関する実態を調査することを目的としており、報告書には主要な法規制である「監視デバイス法1999」の改善点などについてさまざまな提言が盛り込まれた。
(注1)立法議会の常任議事規則に基づいて設置されている委員会。教育省、雇用・技能・産業・地域省、運輸・企画省、財務省およびこれらの関連機関に関連するあらゆる事項や問題を調査する権限を持つ。
一方、ビクトリア州農民連盟(VFF)は、同調査に対して「動物愛護活動家などが無断で農場に侵入し、映像を撮影・公開する行為が監視デバイス法1999では公益条項(注2)により違法とならない可能性がある点について是正を求める」旨の意見書を提出していたが、報告書では特段の対応が示されることはなかった。そればかりではなく、提言の一つには「雇用主は従業員の同意なしに第三者が就業中の従業員を監視する行為を防止するため、あらゆる合理的な措置を講じること」とあり、雇用者の責任として対応が求められる可能性が示された。
(注2)通常であれば違法とされる行為であっても、その目的や結果が社会全体の利益(ここでいえばアニマルウェルフェアの改善)に資すると認められる場合に限り、その違法性を免除または軽減することができるとする法的規定。
動物愛護活動家の不法侵入に対する連邦政府・州政府の対応
近年、豪州では動物愛護活動家が畜産施設や食肉加工施設に無断で侵入し、動物虐待の実態と称するものを盗撮して公表する事例が頻発し、社会問題として認識されるようになっている。2019年に動物愛護団体の一つであるFarm Transparency Project(旧称:Aussie Farms)が全国の畜産施設の所在地リストを公開した事案は大きな論争を呼び、政治的な対応を求める声が高まったことから、連邦政府・州政府はこれまで法規制の強化を進めてきた。
連邦政府は、州政府に農場への不法侵入に対する罰則を強化することを求めるとともに、19年に連邦刑法を改正し、ウェブサイトやSNSなどの通信サービスを用いて他者に農場への侵入を促すことなどに対し、最長5年の禁固刑を科している。また、各州政府もこの動きに同調し、不法侵入を防止するための法改正や新たな規制の導入を順次進めてきた(表)。
動物愛護活動家の戦術と法の抜け穴
このような厳しい法規制にもかかわらず、動物愛護活動家はさまざまな戦術で活動を継続している。例えば、Farm Transparency Projectは自らのウェブサイト上で畜産施設の位置情報の公開を続けており、注釈で「この情報を不法侵入などの不法行為に用いることは決して推奨しない」と記載することで、改正された連邦刑法に抵触しないと主張している。また、上述するようにVIC州では農場内の様子を無断撮影・映像公開する行為自体は法的に違法とならない可能性がある。加えて、活動家自身が撮影した映像を公開するのではなく、メディアや政府当局に映像を提供して社会的議論を喚起することで、報道の自由や動物虐待の実態を後ろ盾に法的措置から逃れているとされている。
【調査情報部 令和7年6月10日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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