豪州における野菜の消費拡大の取り組み(豪州)
最終更新日:2025年6月30日
豪州園芸産業の主要な業界団体であるオースベジ(AUSVEG)は、2025年6月5〜7日にクイーンズランド(QLD)州ブリスベンで開催された南半球最大の園芸業界カンファレンス・見本市HortConnections2025に登壇し、昨年末から開始した業界の大規模プロジェクトである「Plus One Serve of Vegetables(野菜をもう一皿食べよう) by 2030 program(以下「新戦略」という)」の全容を発表した。新戦略は、豪州国民の1人1日当たりの野菜摂取量を増やすことを目的としており、消費者の行動変容を促すための科学的根拠の創出などに取り組む内容となっている。
以下に、豪州の野菜消費の実態や新戦略のアプローチ方法、期待される効果などについて紹介する。
豪州の野菜消費
豪州では、連邦政府機関である国立保健医療研究評議会(NHMRC)が2013年に食事ガイドラインを公表しており、その中で成人は野菜を1日当たり平均5皿(375グラム:1皿=75グラム)摂取することが推奨されている(表1)。
一方で、豪州統計局(ABS)が22年に公表している最新の国民健康調査の結果によると、18歳以上の男女の1日平均野菜摂取量は2.5皿(187.5グラム)と推奨値を大きく下回っている状況にある。また、新戦略に基づく研究開発を主導する非営利研究開発法人ホート・イノベーション(Hort Innovation)が昨年行った調査では、当該結果は自己申告式のデータに基づくため過大に推計されており、業界統計に基づく野菜の供給量から推計した実際の野菜摂取量は1.8皿(140.4グラム)と報告されている(図)。
新戦略の概要
2030年までに豪州国民の1人1日当たり野菜消費量をもう一皿(75グラム)増やすことを目指す同戦略は、ホート・イノベーションの精緻な予備調査に基づき、その基準が定められている。第一に、過去文献のレビューや広範な利害関係者との協議を踏まえ、野菜の消費拡大のための行動変容プログラムを実施する場面を5つ(就学前教育、初等教育、中等・高等教育、家庭、小売)設定しており、特に家庭と小売における取り組みが消費拡大に効果的と分析している。また、野菜消費促進に向けた政府と民間からの投資額は年間1億0150万豪ドル(95億9987万円:1ドル=94.58円(注))にとどまる中、目標達成のためには今後6年間で合計11億6800万豪ドル(1104億6944万円)の追加投資が必要と試算している(表2)。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年5月末TTS相場。
これらの予算は、業界に導入されている課徴金(チェックオフ)制度や民間パートナーシップからの拠出が原資となるが、オースベジは連邦政府に対して年間2500万豪ドル(23億6450万円)、5年間で1億2500万豪ドル(118億2250万円)の予算措置を要請している状況にある。
本目標の達成により、心血管疾患やがんのリスク低減による医療費の削減や、供給増によるサプライチェーンの拡大により、46億8000万豪ドル(4426億3440万円)の利益が生まれると試算されている。
今後の見通
オースベジの担当者に伺ったところ、現在、場面別に応募のあったプロジェクトの精査・選定を終え、契約の第一段階に入っているとしており、新戦略に基づく具体的なプロジェクトは順次発表されていくとみられる。同担当は、「これまで豪州でもさまざまな野菜消費拡大キャンペーンが行われてきたが、持続的な効果には繋がらなかった。消費者の行動変容を促すためには、各場面における野菜消費の障壁と動機付けの要因を正確に把握し、効果的な介入策を継続的に実施していく必要がある」と述べており、今後の野菜消費の拡大につながるものと期待される。
【調査情報部 令和7年6月30日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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