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家畜の飼養に関するアニマルウェルフェア関係法令の見直しに向けた手続きが開始(EU)

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 欧州委員会は6月18日、家畜の飼養に関するアニマルウェルフェア(AW)関係法令の見直しに向け、市民や関係者などから広く根拠に基づいた情報を求める意見募集(Call for evidence)を開始した。同委員会によると、集まった意見をもとに法令改正の影響評価を行うとしている。

見直しの目的と手法

 欧州委員会によると、この見直しの目的は、AWの基準に関する域内単一市場の機能性の確保(注1)、既存法令の近代化および欧州市民イニシアチブ(注2)「ケージ時代の終わり(End the Cage Age)」への対応であるとされている。
 
(注1)現在、AW関連規制は加盟国間での運用が異なっている部分があり、このことが、EU単一市場という面において同一の競争条件の担保を阻害しているとの指摘がある。
(注2)最低7カ国の加盟国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度。

 
目的達成のため、当該資料で欧州委員会が提示している手法は次の4つである。

(1)ケージ飼養の段階的廃止
 ケージによる飼養の段階的廃止のための適切な移行期間と、ケージフリーシステムに関する技術的要件を設定する。検討対象となる可能性のある畜種は、採卵鶏、肉用鶏、豚、子牛、ウサギ、アヒル、ガチョウおよびウズラである。
 また、段階的廃止の影響を緩和するための財政支援を行う。
 
(2)指標とデジタル化
 AW指標とその測定方法を設定する。効果的で透明性の高い監視と行政負担の軽減のため、デジタルツールの活用も検討する。検討対象となる可能性のある畜種は、家きん、豚、牛およびウサギである。
 
(3)輸入要件(注3)
 家畜および家畜由来製品の輸入に対して、AW基準をどの程度適用すべきかを決定する。検討対象となる可能性のある畜種は、家きん、豚、子牛およびウサギである。
 
(4)1日齢雄ヒナの殺処分の段階的廃止
 採卵鶏部門において慣行的に行われている1日齢雄ヒナの殺処分を段階的に廃止し、適切な移行期間と例外措置を設定する。
 
(注3)2025年2月に公表された「農業と食のビジョン」の中で、EU域内の生産品競争力強化のため、輸入品へのAW基準などの適用厳格化の方針が言及されていた。詳細は海外情報「欧州委員会、EU農業の指針を発表(その2:貿易関係〜輸入品へのEU基準の適用を強化へ〜)(EU)」をご参照ください。

今後の流れ

 今回のCall for evidenceは7月16日まで行われた後、パブリックコメントが2025年第3四半期に予定されている。これらの結果と関係者との協議、社会経済的影響や実現可能性などを評価した上で、26年第4四半期に欧州委員会は法令案を提示するとしている。
 欧州委員会はAW関係法令の見直しを順次行っている(注4)。23年12月には「動物輸送に関するAW規則の改正案(注5)」を提示しており、今回の飼養に関する見直しはそれに続くものとなる。なお、動物輸送に関するAW規則の改正案は、欧州議会とEU理事会で議論がなされているが、輸送時間の上限設定や温度管理の面などで調整が難航している。
 
(注4)現行のAW関係法令については、「畜産の情報」25年3月号「EUのアニマルウェルフェア関連規制の現状と見直しの方向性」をご参照ください。
(注5)改正案の内容は、「畜産の情報」24年6月号「動物輸送に関するEUのアニマルウェルフェア規則の改正案について」をご参照ください。
【調査情報部 令和7年6月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527