欧州委員会と米国政府は2025年8月21日、EUと米国の通商協議を通じた合意に関する共同声明を発表した。これによると、EUは、すべての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、かつ一部の米国産農水産品に対する市場アクセス改善を提供する一方、米国はEU原産品(鉄鋼・アルミニウムなどを除く)に対して、最恵国(MFN)税率かMFN税率と相互関税率の合計15%のいずれか高い関税率を適用する。また、同時に、合意の恩恵がEUと米国に及ぶよう原産地規則に関する協議や、非関税障壁に対処するために豚肉および乳製品に関する衛生証明書要件の合理化などに向けた協力を行う。なお、衛生証明書要件の合理化に関して欧州委員会は、EUのSPS(衛生植物検疫)措置や基準について交渉するものではないとしている。
この共同声明発表後の8月28日、欧州委員会は米国製工業製品に対する関税撤廃と農水産品に対する市場アクセス改善を実施するための法案を発表し、具体的な内容が明らかとなった。
法案によると、市場アクセス改善の対象となる米国産農水産品は、豚肉、バイソン肉、乳製品、穀物(ソルガム)、大豆油、海産物、ナッツ類、生鮮・加工果物、生鮮・加工野菜、加工食品などである。一方、牛肉、鶏肉、コメ、エタノールなどはセンシティブ品目として対象外となった。
畜産関係品目について見ると、(1)豚肉(豚肉(冷凍)、塩蔵・塩水漬け・乾燥・くん製した豚肉、豚肉調製品)2万5000トン、(2)バイソン肉3000トン、(3)チーズ(ロックフォールとゴルゴンゾーラなど一部は対象外)1万トン、(4)ミルク・クリーム(濃縮・乾燥していないもの)、デイリースプレッド、バターオイルや乳糖などの乳製品1万トン、(5)飼料用の調製品4万トンの枠内税率無税の関税割当が設定された。また、(6)育児用粉乳などを含む調製品・ベーカリー製品について、枠内税率を削減する5万トンの関税割当が設定された。そのほか、(7)原皮および革(第41類)、革製品(第42類)については、関税が撤廃された
(注1)。
なお、24年のEUの米国からの豚肉(冷凍)、塩蔵・塩水漬け・乾燥・くん製した豚肉、豚肉調製品
(注2)輸入量は約400トン、チーズ
(注2)輸入量は約500トン、ミルク・クリーム(濃縮・乾燥していないもの)、デイリースプレッド、バターオイルや乳糖などの乳製品の輸入量
(注2)は約3400トンとなっており、今回のこれら品目の関税割当数量は、実績と比較して大きな数値が設定されたと言える。
(注1)詳細な対象品目のHSコードなどについては、当該法案の
付属表をご確認ください。
(注2)当該品目に分類されるHSコードすべてを対象に集計したものであり、今回関税割当が設定されたHSコードはすべて含まれるが、同一ではないことに留意されたい。
法案には、米国が共同声明に記載された内容を実施しない場合や、EU域内の産業に重大な損害が生じた場合などに、今回の措置を一部または全部停止することができる旨も記載されている。法案は今後、EU理事会と欧州議会で審議される。
本協定について、欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、米国は新たな優位性を享受する一方で、EUは主要輸出品の関税が15%に引き上げられるという不利な条件を課され、互恵的ではないと批判している。また、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、今回の措置は米国のみに利益をもたらすものであり、WTO関連規定の遵守の観点から深刻な懸念が生じていると指摘している。