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主産地の酪農家組合、経営の苦境を国内の同業者に呼びかけ(中国)

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 中国では近年、生乳の過剰生産に伴う価格低迷と酪農家の経営悪化が大きな問題となっている。このことについて、今般、山東省の乳牛農民合作社(注1)の代表が「酪農家への公開レター」と題する文書を発表した(2023年の同省の生乳生産量は318.1万トンと全国第5位である)。
 この文書は、店頭で製造され、提供される飲料への生乳の使用を制限する規程(日本の条例に相当)を7月に同省政府が制定し、9月1日から施行することとしたことを受けて発表されたものであり、酪農家の苦境と地方政府への対応の在り方とを伺うことができる内容となっている。以下、文書の主な内容を紹介する。

 (注1)合作社とは、同様の産品を生産する農家、農業経営者などが協力して経済活動を営むために組織する互助性の組合で、全国に220万社以上ある。

酪農家の苦境について

 この2年間、中国の酪農業は2008年の「メラミン混入事件」(注2)以来、最も困難な時期にある。酪農家と乳製品メーカーの間の利益配分が上手く機能せず、酪農家は常に赤字状態にある。生乳を販売する酪農家と生乳を仲介する商人との関係も長らく安定しておらず、酪農家は劣勢を強いられ、発言権が与えられていない。最近では酪農家や飼育農民合作社の数が大幅に減少し、ある県(県は日本の町に相当)では、酪農家戸数が最盛期の40数戸から4戸にまで減少し、生乳生産量も1日当たり200トン余りから20トン余りにまで減少した。酪農家が「0戸」となった県もある。生乳仲介商人から「予定外」とみなされた量の生乳の買取り価格は1キログラム当たり1.2〜1.5元(25.1〜31.4円、1中国元=20.93円(注3))であり、500mlペットボトルのミネラルウォーター1本分の値段にもならない。買い取りの量や価格の抑制もしばしば発生し、酪農家が置かれた環境は極めて苦しくなっている。24年の山東省の乳牛飼育頭数は65.9万頭と前年比で20%減少したが、その多くが酪農家や農民合作社であった。

 (注2)中国では2008年、牛乳にメラミンが混入する事件が発生し、1万人を超える乳幼児が入院する事態となった。これが直接の契機となって09年に食品安全法が制定された。
 (注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年8月末日TTS相場を使用した。

中央政府の政策について

 このような状況に対して、2年連続で一号文件(注4)に酪農業支援についての記載がなされたほか、2024年には「肉牛生産の安定化に関する通知」(注5)に基づく措置が行われ、25年3月には国家基準「全国食品安全基準のうち牛乳(滅菌乳)」が改正され、9月からは滅菌乳(常温保存牛乳)の原料として生乳のみが認められ、全粉乳などの使用は認められないこととなった。この基準改正は、中国酪農業の発展の阻害要因を根本的に解決するものであり、全粉乳の輸入の減少と生乳使用の拡大による国内の酪農家の利益確保、ひいては酪農業の安定的な発展に極めて重要な措置である。

 (注4)中国政府が毎年公表する文書で、旧暦の元旦後に公表されている。その年に最も重視する政治課題が取り上げられるとされ、2004年からは毎年「三農」(農業、農村、農民)が主題とされてきた。25年の一号文件の内容については海外情報『中国が今年の一号文件を発表、初めて肉牛に言及、養豚は安定化へ(中国)』(令和7年3月7日発)をご参照ください。
 (注5)「肉牛生産の安定化に関する通知」については海外情報『中国農業農村部、肉牛生産の安定化に関する通知を公表(中国)』(令和6年7月31日発)をご参照ください。

地方政府の取り組みについて

 わが山東省は中国の一大酪農省である。2025年4月には副省長が主催する研究会が開催され、酪農業と特色ある畜産業の発展が議題として取り上げられ、新たな乳製品の開発・販売、酪農業における飼育と加工の一体化(より一層の連携)などが話し合われた。
 目下、最も急を要することは、あらゆる手段を講じて生乳利用の拡大や、生乳消費を拡大することであり、過剰生産がもたらす価格下落圧力を緩和させることである。酪農業における生産、加工および販売の一体化を体現した「牛乳スタンド」の先駆けは、09年の山東省である。この新しいビジネスモデルは当時、同省政府や中国乳業協会などから重視され、省の食品安全部門など7部門が協力して牛乳スタンドの定義や規格を定めたほか、中国農業部(現農村農業部)や国家食品薬品監督局などが関連通知を出して規範化するなどの支援もあった。その結果、山東省だけでも多いときには3000軒以上の牛乳スタンドが誕生した。その後、15年の歳月を掛けて大規模化、ブランド化などが進み、他方で、一度も食品安全に関わる中毒事件などの発生はなく、消費者からも歓迎され、地域によって業態を変えながら今でも全国で3000軒以上の牛乳スタンドが経営を続けている。
 牛乳スタンドの発展は、乳製品の消費を拡大し、酪農業の発展を促し、酪農家の収入を増加させ、農村での就業機会を増加させるなどの効果を発揮した。現在も経営が維持できている酪農家や乳業農民合作社の多くは、このような飼育と加工の一体化経営モデルから利益を得てきたのである。

「同業者に告ぐ」

 同業者の皆さん、わが省の各行政レベルの畜産部門、酪農協会は、酪農家や乳業農民合作社が酪農業の発展に占める位置付け、機能を十分に重視しており、酪農家が陥っている苦境も十分に理解している。その上で一号文件を積極的に推進し、酪農家や乳業農民合作社を主体とする生産・加工のより一層の一体化を積極的に支持している。これらのことに深い謝意を表したい。
 同業者の皆さん。今年7月、山東省市場監督管理局は新たな規程を定め、「その場(店頭)で製造する各種飲料品(アイスクリームを含む)は、蒸留または発酵させた自家醸造酒(ビールを除く)を含んではならず、また、生乳を原料とする加工品を製造してはならない」ことを規定した。現下の厳しい情勢において、このような規程は極めて大きな負の効果をもたらす。まず、山東省の酪農経営を牽引してきた牛乳スタンドがすべて消滅することとなる。次に、牛乳スタンドによって経営を維持してきた酪農家の収入確保の道が完全に絶たれることとなる。さらに、酪農家や乳業農民合作社の経営が一層厳しくなることで、酪農業の経営基盤が弱まることとなる。われわれ酪農家は、酪農業のみで収益を確保したいという夢の実現もさらに遠のくこととなる。ここ数日、われわれは省の担当部門幹部と意思疎通を続けており、合理的な解決が得られるよう鋭意努力を重ねている。
 同業者の皆さん、信念をもって積極的に努力し、力を合わせて困難を克服し、中央政府および各レベルの政府からの呼びかけ、施策に応え、酪農における生産と加工の一体化を一層促進し、酪農業を安定的に発展させていくため、引き続き努力して貢献していきましょう。
【調査情報部 令和7年9月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530