中国食肉業界が牛肉、家きん肉産業の現状と今後を語る(中国)
中国の食肉関係業界団体である中国肉類協会は2025年9月13日と14日、福建(ふっけん)省厦門(あもい)市で「肉類産業刷新発展大会2025」と題する政府関係者および業界関係者による講演会を開催した(写真)
(注1)。
同大会では、食肉の種類ごとに分科会が設置され、各分科会の会長から業界の現状と発展の方向性が示された。以下に、中国肉類協会の陳会長による全体発言と、牛羊肉および家きん肉分科会の会長による発言概要を紹介する(各分科会の会長は、いずれもその業界の有力企業の社長が務めている)
(注2)。
また、肉類協会は同大会の開催に併せて、中国で流通する和牛肉
(注3)の規格化
(注4)などに取り組む「和牛産業工作委員会」を新たに設立した。陳会長は全体発言の中で、「和牛は牛肉産業の発展をリードする重要な品目である」とし、同委員会の設立の意義を訴えた
(注5)。
(注1)昨年の肉類産業刷新発展大会については海外情報『中国肉類協会、食肉に関する政府関係者などによる講演会を開催(中国)』(令和6年9月27日発)をご参照ください。
(注2)加工製品や加工機械など食肉関連業界の分科会会長の主な発言については海外情報『中国食肉関連業界、加工施設や包装材、食品添加物業界の現状と今後を語る(中国)』(令和7年9月25日発)をご参照ください。
(注3)中国では、「和牛肉」は日本でいう「和牛肉」や「Wagyu肉」ではなく「高級牛肉」一般を指すものとして使用される。
(注4)同協会による高級牛肉の規格化の取り組みについては海外情報『中国畜産団体が牛肉の品質などに関する団体基準の策定に着手(中国)』(令和6年5月28日発)をご参照ください。
(注5)和牛産業工作委員会の設立大会では、中国肉類協会が策定する団体基準の案として『雪花牛肉品質分類』(中国語では「雪花牛肉质量分级」)および『国産和牛牛肉品質分類』(中国語では「国产和牛牛肉质量分级」)の案が紹介され、同基準の策定に参加を表明する法人の募集と、これらの案に対する意見の公募が行われた。
食肉業界全体について(中国肉類協会陳会長)
この大会は、食肉産業界として十四五期間(注6)の成果を取りまとめ、次の十五五期間に向けた意見交換、方向性の提示をしていく上で重要な機会である。食肉業界全体が共通して直面する課題・挑戦は、1)より一層の食品安全の確保、2)生産・加工各工程における技術の開発、例えばコスト削減に資する技術、3)経営規模の拡大、4)国内外の市場の一層の開拓−である。経営規模の小さい経営主体が多いということは、業界全体で見れば問題の発生率が高いということであり、例えば食品安全の徹底に対しては好ましくない状況となる。市場開拓については、国内については消費者ニーズへの対応を、国外については輸出量の拡大を行うことが求められる。輸出の拡大は政府も注目している。現在、中国は国内市場の消費力が振わないが、これらの課題に対して業界が力を合わせ、継続的な発展を目指したい。
(注6)中国は5カ年毎に計画を策定しており、2021年から25年までが第14次5カ年計画期間で、略して「十四五期間」と言われている。
牛肉市場の現状と今後の産業の発展方向(牛羊分科会会長)
2025年の上半期の食肉供給状況を見ると、牛肉は引き続き生産量も輸入量も拡大傾向にあるものの、羊肉ではいずれも減少傾向となった。生産量を見れば、牛肉は23年の752.7万トンから24年は779.1万トンに3.5%増加したが、一方で羊肉は23年の531.3万トンから24年は517.8万トンに2.5%減少した。これは初めてのマイナス成長であり、羊肉の輸入量も24年は前年より減少した。牛肉の供給量が増えて羊肉の供給量が減るという傾向は今後も継続するとみられる。
中国の消費は健康ブームが来ていると言える状況にあり、牛肉は良質なたんぱく質として注目され、消費が伸びている。しかしながら、国産、外国産を合わせた牛肉の供給量の増大に見合うだけ消費量が増えているということではないため、供給過多による価格競争に陥っており、市場競争が激化している。牛肉は量の拡大から質の向上への転換が求められており、業界規模での構造改革が必要となっている。
食肉業界はいずれもデジタル化、環境保全、高付加価値化を強く求められているが、特に牛肉業界が求められていることは市場ニーズへの対応である。そのための取り組み方向は、1)新たな商品の開発、2)食品安全の一層の追求、3)販売方法や販路の改善−である。1)の商品開発とは、具体的には、冷凍食品や効能の高い商品(良質なたんぱく質であることをアピールするような商品)の開発であり、2)の食品安全の一層の追求とは、従来のようにサプライチェーンの各部分でそれぞれの主体が安全性を追求するのではなく、チェーン全体で安全性を向上すべく協力していくことであり、3)の販売方法や販路の改善とは、ブランドをきちんと確立することや、多様な販売形態に即した商品の提供、そのための流通の見直しを行うこと、そして販路開拓、具体的には輸出を拡大することである。
これら市場ニーズへの対応に加え、生産現場の改善も引き続き重要である。政府は生産能力の調整に対して継続的に注目しており、牛肉業界としても生産能力の低い繁殖雌牛の淘汰(とうた)などを一層推し進め、供給構造の変革に取り組むことが必要である。
家きん肉市場の現状と今後の産業の発展方向(家きん肉分科会会長)
中国の家きん肉業界は大きく三つの矛盾を抱えている。
一つ目は生産量である。政府統計によれば家きん肉の生産量は24年が2660万トンであったが、業界の感覚からはかけ離れており、実態は4000万トンに近いと感じている。加えて、生産量は急激に拡大しているものの消費量がそれに見合うほど伸びている訳ではないため、生産量の拡大が業界に混乱をもたらしている。
二つ目は生産要素である。既に量の拡大を追求する段階ではないにも関わらず、生産コストの増加は家きん肉の品質の向上につながっていない。
三つ目は経営規模である。加工企業数の多さが家きん肉の消費量の増加に貢献していない。加工企業は零細なところが多過ぎるため、業界として家きん肉の品質が確保できていない。
これらの矛盾に対して行うべき取組は、まずは消費量、販路の維持である。むやみに量の拡大をするということではない。次に企業の技術力・管理能力の向上である。厳しい業界環境、市場状況にもかかわらず、聖農(注7)のように利益を出している企業がある。同社のように新たな需要を掘り起こすことのできる商品の開発や、新たな鶏種の開発に力を入れなければならない。
とはいえ、中国の家きん肉の生産・加工技術が世界で劣っているということではない。東南アジアや中東に比べれば技術力は優れており、これらの国への輸出も考える必要がある。10年、20年経ってもすべての家きん肉企業が聖農のようになれる訳ではない。業界全体で構造変化をもたらせるよう相互に協力していきたい。
(注7)「聖農」(中国語で「圣农」、正式名称は福建聖農発展股份有限公司)は中国最大の白羽鶏(ブロイラー)生産企業で、今年の肉類産業刷新発展大会の共催会社である。25年上半期の販売実績は鶏肉で66万トン、鶏肉加工品で17.5万トンに上る。
【調査情報部 令和7年9月25日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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