中国のと畜産業について政府関係者が現状と今後を語る(中国)
中国動物伝染病予防制御センター(中国農業農村部と畜技術センターに同じ)は2025年8月28日、国家基準委員会などが公表した「国家基準の普及の徹底および経営主体の高質量発展への支援を強化することに関する通知」を受け、と畜の品質管理について「基準を知り、基準を使用し、基準を遵守する」運動を今後五カ年程度実施することを公表した。
これを受け、中国の食肉関係業界団体である中国肉類協会は9月に開催した「肉類産業刷新発展大会2025」
(注1)において、同活動に全面的に協力することを宣言するとともに、会員企業に対し同活動への積極的な参加を呼びかけた(写真)。
この呼びかけに先立ち、農業農村部畜牧獣医局と畜産業課長が同大会において中国のと畜産業およびと畜行政の概要について講演したことから、その主な内容を紹介する。
(注1)肉類産業刷新発展大会の概要については海外情報『中国食肉業界が牛肉、家きん肉産業の現状と今後を語る(中国)』(令和7年9月25日発)および『中国食肉関連業界、加工施設や包装材、食品添加物業界の現状と今後を語る(中国)』(令和7年9月25日発)およびをご参照ください。
中国のと畜産業と行政の現状
(1)業界の現状
農業農村部に、と畜を専門に扱う部署が編成されたのは2013年のことである。これまでの間、と畜企業数は14年の1万4000社程度から24年の5609社に減少し、3分の1程度となった(図)。業界の規模化(規模拡大)が推進されてきたと言えるだろう。と畜産業における「規模化企業」とは、豚であれば年間と畜数が2万頭以上の企業を指し、その数も24年末には2543社と、全体の45%を占めるまでになった。豚のと畜頭数に占める割合で言えば、規模化企業によると畜頭数は95%にも上る。と畜関連の法令、通知、基準なども既にある程度完備された。政府は相応の監視活動を行っていることから、規模化企業が処理した食肉は品質、安全性が保障されており、政府内にと畜部署が設立されたこの十年で、国民に対し安全が確保された食肉を提供できるようになった。
(2)課題
このように、これまでの取り組みによりと畜産業の規模化、規範化(関係法令、関係基準などの整備やその普及)はある程度進んだものの、目下、と畜産業は主に次の3つの課題を抱えている。
1)豚以外の畜種における規範化の遅れ
中国のと畜行政は豚を中心に整備・運用されてきた。法令、通知などは既にある程度完備しているとはいえ、中央政府が定めると畜基準は豚についてだけであり、牛、羊および家きんについての基準(地方が定めるもの。日本の条例に相当。)の策定は各省・自治区に委ねられている。それらをまだ策定していない省があり、業界の規範化が進んでいない地方がある。
2)設備更新の遅れ
特に規模化していない企業では施設・設備の更新が進まず、いまだに衛生基準に満たない古い設備などを使用している例が見られる。使用例の中には食の安全の確保の観点から望ましくない例が見られ、違法な食肉の提供につながっている場合もあり、問題である。
3)違法な食肉がいまだに流通していること
残念なことに、いまだに違法な食肉が市場から無くならない。農業農村部は2024年、市場管理監督総局などと協力して違法食肉僕滅運動を実施した。食品安全法など食の安全に関わる法令に違反する犯罪者の手段は巧妙化しており、食肉に含まれてはいけない物質を直接肉に注入するといった伝統的な、単純なやり口だけではなくなっている。食の安全の確保は極めて重要な課題であり、引き続き対策を講じていく。
今後の中国と畜行政の方向
引き続きと畜の規範化を進めていく。具体的には、例えば次のような取り組みを進めていく。
(1)新しいと畜基準への適切な対応
農業農村部は2023年9月、全工程で品質・衛生管理を求める新たなと畜基準「豚と畜品質管理規則」を制定
(注2)し、経過措置として、それまでに認定を受けていたと畜企業約3600社に対し25年末までに新基準に対応するように求めた。まもなくこの経過措置の期限を迎えることから、対象企業において確実に新制度への対応が終了することを確認していく。
なお、新基準はと畜場を小規模とそれ以外の規模の2つの類型に分けている。小規模の条件を満たさないと畜場には全工程で品質・衛生管理を求め、他方で交通が不便な場所にあるなどの条件を満たす小規模と畜場に対しては営業範囲をその地方に限定する代わりに施設整備、と畜要員、検査要員、消毒手順などの要点に限って管理基準に従うことを認める、といったような違いである。今後も各類型に応じて適切な監督を行っていく。
(注2)豚と畜品質管理規則の概要については海外情報『家畜で初となる、豚のと畜工程の品質管理に関する規則を公布(中国)』(令和5年10月31日発)をご参照ください。
(2)肉牛・羊のと畜への対応の強化
各省・自治区に対して、肉牛と羊両方のと畜基準(条例や弁法)の制定を求めていく。また、肉牛および羊についても全工程管理を進めるべく、政府が中心となって品質・衛生管理基準の策定に着手する。牛肉については等級管理基準の完備も目指し、関連の国家基準、業界基準および団体基準を制定していく。
(3)統計情報の完備
と畜産業については企業数などについてとりまとめた年刊を発行しているが、例えば豚のと畜企業数は概ね正しく把握できているものの、養豚企業が自ら行うと畜頭数については把握しきれていないなどの課題がある。牛および羊のと畜頭数についても同様のため、両畜種について統計を取り直しているところである。現状を正しく把握し、より適切な対策を講じていく。
農業農村部は2014年以降、毎年なんらかの違法食肉に対する対策、キャンペーンなどを講じてきた。以上のような取り組みと同時に、違法食肉対策も手を緩めることなく実施していく。
【調査情報部 令和7年9月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530