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中国政府関係者が畜産業の現状と課題を総括する(中国)

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 中国の食肉関係業界団体である中国肉類協会は2025年9月14日、福建(ふっけん)省厦門(あもい)市において「2025第1回グローバル肉類産業サービス貿易発展大会」と題し、政府関係者および業界関係者による講演会を開催した。同協会がサービス貿易を打ち出して大会を開催した背景には、1)景気後退を受けて中国国内市場の消費が冷え込んでいること、2)計画経済制度を採用し続ける中国において、現五カ年計画期間(21年から25年まで)の総括および次の計画期間(26年から30年まで)に向けた計画策定準備が進んでいること、3)このような状況を受けて今後の食肉業界の方向性を考えたとき、自分たち食肉産業は食肉を提供するだけの産業から食肉に関するサービス全般を提供できる産業へと転換する必要がある−とのメッセージが込められている。
 同大会には、中国商務部、世界食肉事務局、カナダ、ニュージランド、フランスおよびウルグアイのほか、世界自然保護基金(WWF)北京事務所、北京市最大の消費地市場を運営する新発地農産品股份有限公司およびグローバルサービス貿易連盟の代表者が参加し、それぞれの取り組みを紹介した。
 同大会が開催されるに至った中国畜産業の現状、課題および政府支援の概況について、同大会の前日に開催された「肉類産業刷新発展大会2025」(注1)における元中国農業農村部副部長の発言概要を紹介する。

 (注1)肉類産業刷新発展大会の概要については海外情報『中国食肉業界が牛肉、家きん肉産業の現状と今後を語る(中国)』(令和7年9月25日発)および『中国食肉関連業界、加工施設や包装材、食品添加物業界の現状と今後を語る(中国)』(令和7年9月25日発)およびをご参照ください。

中国の畜産業の現状と課題

 中国の畜産業の現状は次のように総括できる。

(1)生産量と消費量

 中国の食肉総生産量は2024年に9780万トンに達し、全世界の食肉生産量の4分の1を占めるに至った。1人当たり平均食肉消費量では69キログラムとなり、15年比で9%増加し、国民のたんぱく質、鉄分、亜鉛などの需要に応えるだけでなく、生活の質の向上にも貢献している。国民の食事に占める食肉の割合も上昇しており、15年の21.7%から24年には26%に増加した。また、オンライン消費(販売)の割合も増えており、15年の5%から24年には22%となった。コロナ禍や自然災害などが発生した間も安定的な供給が行われたことは、食肉が国民生活を保障する上で重要な役割を果たしていることを示したものと言えるだろう。
 消費については、24年の1人当たり平均食肉消費量が23年に比べ微減し、そのために低級品の在庫量が増え、他方で高級品については供給不足という需給のミスマッチが生じたことが挙げられる。所得に対する国民の将来への不安、健康志向の高まり、飲食業の経営状況の不安定さなどが重なったことで、食肉企業の過剰在庫と資金不足への圧力が高まっている。

(2)産業規模など

 産業規模として畜産業は、2024年に2.8兆元(59兆円、1中国元=20.93円(注2))となり、農業生産額の18%、食品加工業産出額の12%を占めるほか、飼料、動物用薬品、包装、機械などの関連産業を合わせた額は5兆元(105兆円)に達している。産業として国内経済循環において極めて重要な役割を果たしている。規模化が進んだだけではなく廃棄物処理に関する環境保全対策も進んでいる。同時に飼料効率性も上昇しており、豚肉と飼料の対比2.8:1は国際的にも先進的な基準となっている。
 畜産業は就労機会の提供にも貢献している。生産における直接雇用は5000万人に上り、うち養豚が35%を占めている。と畜、輸送、加工などの川下では800万の雇用を生み出し、うち加工だけで120万人となっている。

(3)24年に直面した課題

 飼育コストの60〜70%を占める飼料コストが上昇したことで中小の飼育企業およびと畜企業の利益率が縮小したこと、また、国産食肉のブランド力の弱さなどから輸入需要が減らないこと、技術などの貿易障壁により国際貿易の障がいが一層高まったことが2024年に直面した課題として挙げられる。 

 (注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年8月末日TTS相場を使用した。

中国の畜産行政の現状

 このような状況に対し、政府は以下の支援などを行った。

(1)遺伝資源

 家畜・家きん種苗振興行動(注3)を実施しており、2024年には50億元(1047億円)を投じて豚、鶏、肉牛、羊などの優良品種の育成を支援した。その結果、豚の優良品種の占有率が98%に達し、肉牛は75%に達した。

(2)環境保全

 「家畜・家きん環境保全飼育技術指南」を公表し、廃棄物の資源化利用の促進、畜産と農耕を組み合わせた循環型農業などを推し進めるとともに、20億元(419億円)を投じて環境配慮型飼育基地の整備を支援した。

(3)物流の整備

 食肉のコールドチェーンに関する施設整備として、2024年だけで30億元(628億円)を投じ、全国の食肉に関するコールドチェーン整備率を65%に引き上げた。これは15年比で40%の上昇率である。

(4)消費・輸出の拡大

 食肉の消費を拡大するため、2024年だけで中小畜産企業を対象にスーパーマーケットやオンライン・プラットフォームなど1000社以上の小売企業とのマッチング会を開催した。また、食肉を主題とする体験館、観光基地などの整備を進め、24年で50カ所を新たに整備し、観光消費の上昇に貢献した。
 輸出についても国内外の消費・貿易の一体化を進め、海外の食品展示イベントへの参加支援などにより、24年の畜産物輸出量を前年比で45.7%も拡大するとともに、輸入の規範化を進め、国内の食肉市場の安定化に努めた。
 また、品質安全管理にも取り組んでおり、24年に実施した「肉類産品の違法犯罪特化取締りプロジェクト」(注4)では、物にして9000トン余り、金額にして9.3億元(195億円)の不適切な食肉を取り締まり、罰金として計3.5億元(73億円)を科した。

(5)デジタル化の促進

 食肉産業のデジタル化を促進し、生産、と畜、流通および小売の全産業チェーンにおける情報の追跡を可能とするプラットフォームを実現し、既に規模化企業(注5)の80%が、政府が整備した農産品品質安全追跡プラットフォームに登録した。

 (注3)遺伝資源に関する中国政府の取り組みについては海外情報『中国農業農村部、畜種や野菜など種苗振興に関する政策の中間総括を実施(中国)』(令和6年7月9日発)を、肉牛に関する取り組みについては海外情報『中国農業農村部、高品質肉牛の品種改良支援に関する提言に回答(中国)』(令和6年9月3日発)をご参照ください。
 (注4)「肉類産品の違法犯罪特化取締りプロジェクト」については海外情報『中国国務院などが今年初の食品安全に関する取締りプロジェクトを公表(中国)』(令和6年4月23日発)をご参照ください。
 (注5)中国政府は畜産物の生産および加工における規模の拡大を推奨し、畜種事に一定の経営規模の基準を定めている。たとえば養豚であれば、2万頭以上飼育している企業が「規模化企業」に該当する。

今後の畜産業の方向性

 畜産業が産業として成長するためには以下の取り組みなどが求められる。

(1)消費促進に資する新たなビジネスモデルの創造

 例えば、複合モデルの成長・増加が必要である。畜産物の生産・加工と、文化・旅行業、オンライン産業、コミュニティ流通(住宅団地への直販などを指す)などとの融合・連携を一層深化させ、新たなビジネスモデルを構築しなければならない。今後も成長が見込まれるオンラインビジネスへの対応、多様化する消費形態などへの対応も必要である。特に飲食業、旅行業などを含めた食肉関連産業は8000億元(16兆7400億円)と見込まれており、これら周辺産業を適切に取り込んでいく必要がある。

(2)国際貿易の拡大

 食肉関連企業の海外進出を加速する必要がある。東南アジア、アフリカなどで生産基地や加工区などの整備を進め、食肉生産に占める国際市場の割合を増やしていかなければならない。併せて、良質な食肉を合理的な範囲で継続して輸入しつつ、国際協力を通じて先進的な技術、管理を導入し、国内産業の質的転換を達成しなければならない。
【調査情報部 令和7年9月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530