豪政府、バイオ燃料産業への大型投資を発表、製糖業界は熱視線(豪州)
最終更新日:2025年10月1日
豪州連邦政府は2025年9月17日のメディアリリースで、国内における低炭素液体燃料(LCLF)(注1)の生産支援策「クリーン燃料プログラム」を通じ、今後10年間で11億豪ドル(1099億円:1ドル=99.98円(注2))拠出することを発表した。同プログラムは、フューチャー・メード・イン・オーストラリア革新基金(注3)などを通じ、国内のLCLF生産者に対し助成金を提供する内容となっており、菜種やサトウキビなどの資源作物、廃棄物由来の再生可能ディーゼル燃料(RD)、持続可能な航空燃料(SAF)の生産を促進し、貨物・航空業界の脱炭素化を進める狙いがある。コリンズ農林水産大臣は、「この投資は、農業部門が原料供給による新たな成長機会を確実に捉えることができるよう、現在策定を進めている『国家バイオエネルギー原料戦略』を補完するものだ」と述べている。
(注1)バイオマス資源を活用したバイオマス燃料、再エネ由来の水素と回収したCO2から製造する合成燃料など、従来の液体燃料と比べ炭素排出の少ない燃料を指す。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年9月末TTS相場。
(注3)2024/25年度(7月〜翌6月)連邦予算で設立された再生可能エネルギーおよび低排出技術におけるイノベーションの促進を支援する基金。豪州再生可能エネルギー庁(ARENA)が本基金の管理母体となっている。
サトウキビ産業の収入源の多様化
この発表を受け、サトウキビの生産者団体であるサトウキビ生産者連合(CANEGROWERS)と豪州砂糖製造者協会(ASM)は共同声明を発表し、クイーンズランド(QLD)州の砂糖産業は、鉄道網などのインフラ面や業界主導の品質保証プログラムの導入による持続可能性の面で優位性があり、バイオ燃料産業の適地であることを強調した。折しも、QLD州議会の第一次産業・資源委員会は、2025年4月からサトウキビ由来のバイオエネルギーの可能性に関する調査を進めており、州政府と連邦政府の意向が合致する形で業界全体の議論は活気を帯びている状況にある。
QLD州は国内の砂糖生産量の95%を占めるサトウキビ産地であり、バイオエネルギー産業向けの原料供給サプライチェーン構築による収入源の多様化は、業界にとって長年の悲願とも言える。生産された砂糖の約8割を輸出する同州では、生産者受け取り価格は粗糖の国際相場に基づくサトウキビ価格算定式によって算出されているが、糖蜜やバガスなどの副産物からの潜在的な収益は考慮されていない(図1)。国際相場の変動が激しく、生産コストとは無関係に収入が決定される厳しい環境下で、サトウキビの作付面積は、生産者の事業判断によるマカダミアナッツやアボカドなど果樹栽培への転換や都市化の影響により、この10年で約15%減少して いる(図2)。
現在、QLD州で唯一サトウキビ由来のバイオエタノールを精製している業界最大手のウィルマー社は、年間6000万リットルの生産能力を有しているとされているが、第一次産業・資源委員会の調査では、いまだに同州のサトウキビ産業の総収入の90%は砂糖販売に依存していると推定されている。また、同調査では、同じサトウキビ生産国であるブラジルの砂糖収入の割合が48%、タイが64%である点にも触れ、適切な政策支援によって民間投資が喚起されれば、QLD州のバイオエネルギー産業の発展の余地は大きいと分析されている。
今回の連邦政府の方針発表により、サトウキビ由来のエタノール生産に追い風が吹いている一方で、同調査のヒアリングの場では、これまでこの分野の発展が立ち遅れていた要因については、さらなる検証が必要という意見が挙がるなど、政策支援の在り方については結論が出ておらず、今後のQLD州政府の動向に注目が集まっている。
【調査情報部 令和7年10月1日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4389