牛肉価格の上昇、食品の中でも顕著(米国)
米国は世界最大級の食肉生産国であるが、2022年に発生した大規模な干ばつの影響により肉用牛の飼養頭数が減少した後、牛群の再構築は進んでおらず
(注1)、牛肉の生産量は減少傾向が続いている。このような中、牛肉の価格は上昇傾向にあり、食品の中でも特に顕著となっている。
(注1)米国における牛飼養頭数は、1951年以来の最低水準となっている。一方で、直近では繁殖雌牛保留の動きもみられている。詳細は海外情報「牛群再構築の遅れから牛飼養頭数の減少止まらず(米国)」および畜産の情報2025年10月号「25年7月の牛総飼養頭数はわずかに減少も、繁殖雌牛保留の兆し」をご参照ください。
1 牛肉価格の上昇
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、25年の米国における牛肉生産量は1171万4000トンと予測されており、前年の1224万0000トンから4.3%減少すると見込まれている。
生産量が減少する中でも需要が堅調であることから、肥育牛価格および牛肉卸売価格は上昇傾向にあり、25年8月の牛肉卸売価格(カットアウトバリュー(注2))は、100ポンド当たり389.50米ドル(1キログラム当たり1287円:1米ドル=149.88円(注3)、前年同月比23.9%高)と前年同月を大幅に上回っている。部位別に見ると、リブ(バラ肉)はクリスマスなど年末年始に、ブリスケット(肩バラ肉)やロインは7月から9月までのバーベキューシーズン(注4)に特に消費されるが、いずれも季節的な変動はありながらも、価格は上昇傾向にある(図)。
これらの価格上昇は消費者が購入する牛肉価格にも影響を及ぼしている。25年9月11日に発表された8月の米国内の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.9%の上昇となっており、このうち食品全体では3.2%の上昇となっている。牛肉においては、前年同月比でCPIおよび食品全体を大きく上回る13.9%の上昇となった。
(注2)各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構築した卸売指標価格。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年9月末TTS相場。
(注4)米国では特に7月4日の米国独立記念日や9月1日の労働者の日などの連休を活用し、各家庭でバーベキューを実施するのが定番となっている。
2 消費動向の変化
牛肉の消費動向にも変化がみられる。USDA/ERSによると、2025年の1人当たり牛肉消費量(製品重量ベース)は、前年比1.0%減の26.5キログラム、26年は25年と比較して2.6%減の25.9キログラムと予測されている。消費者の購買傾向については、北米食肉協会(NAMI)と食品産業協会(FMI) が25年3月末、調査報告書「パワー・オブ・ミート2025」を公表している。同報告書によると、消費者の94%は生活費の高騰を懸念して外食を控え、家庭内での夕食の機会が増加する傾向にあり、食肉を購入する頻度の上昇と大容量パッケージの普及につながっているとされている。また、24年の小売における生鮮カテゴリー別の売上高において、安価なひき肉の増加率が首位となっている。
また、消費者の半数以上が精肉や加工済みの肉を購入し、自宅で調理をしている状況であり、米国内の食肉製造事業者の間では、ひき肉やバーガー用のパティなどの製造が増加している。米国食肉加工業者協会(AAMP)によれば、コロナ禍以降、特に中小規模の事業者の食肉加工技術などをテーマとする展示会・会合への参加が急速に増加しており、業界として関心が高まっている。
3 今後の生産見通し
今後の見通しとして、牛肉の生産量回復には時間を要する見込みである。USDA/ERSによると、2026年の米国における牛肉生産量は1156万2000トンと予測されており、25年の生産量から約1.3%減少すると見込まれている。牛群再構築については、業界関係者によると早くとも27年以降と予測されているが、正確に予測することは困難とされている。
また、肥育牛価格の高騰が続く中、酪農家の間では、乳牛とアンガス種などの肉用牛との交雑種の生産が拡大している。現在、酪農場の乳用牛由来の肥育牛の出荷は年間400万頭前後で推移しているが、そのうちの200万頭以上は交雑種で占められているとされ、今後も拡大していくとみられている。これらの交雑種の増加は、米国内における牛肉供給に一定の寄与をしていくと考えられる。
【調査情報部 令和7年10月9日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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