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欧州委員会、適用開始が迫ったEUDRの簡素化など見直しを提案(EU)

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 欧州委員会は2025年10月21日、適用開始が12月30日に迫る森林減少フリー製品規則(EUDR)(注1)について、制度の簡素化と移行期間を設定する規則改正を提案した。デューディリジェンス・ステートメント(DDS)の提出に使用されるITシステム(後述)へのデータ負荷や制度の実施コストを軽減し、制度の円滑な実施を目的としている。提案内容は次の3点である。

(1)EU市場に製品を直接上市またはEUから輸出する低リスク国(注2)の零細・小規模一次生産事業者(注3)は、DDSの提出に替えて、ITシステム上での簡易宣言の提出を認める。EUの農家・林業者のほぼ100%がこの零細・小規模一次生産事業者に該当する。なお、牛に関しては、条件を満たす場合、トレーサビリティシステムによる簡易宣言での代替も可能とする。

(2)バリューチェーン下流の事業者(downstream operator)および取引業者(trader)のDDSの確認や提出義務を廃止する。これにより、DDSの提出義務と責任は、製品を最初にEU市場に投入する事業者に集約される。カカオ豆を例とすると、EU市場にカカオ豆を上市する輸入者は引き続きDDS提出義務を負うが、その後のチョコレート製品製造事業者などは、現行規則で課されているDDSの確認や提出義務が免除される。

(3)零細・小規模企業への適用開始を26年12月30日まで6カ月延期する。中規模・大企業に対しては、当初通り25年12月30日からの適用とするが、26年6月30日までの6か月の間、当局による検査の実施を猶予する。 

 当該改正案が効力を持つには、12月30日の適用前にEU理事会と欧州議会での採択が必要となる。仮に適用開始までに採択がなされなかった場合、予定通り12月30日から適用されるが、欧州委員会は、その場合に向けた緊急対応計画を策定中としている。
 
(注1)EUDR(EU Deforestation Regulation)は、牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材の7品目およびその派生製品について、これらの生産が森林破壊(deforestation)を引き起こしていないことの調査と報告(デューデリジェンス)を義務付けるものである。事業者は、調査の結果、対象製品が森林破壊に該当しないことを証明できなければ、当該製品のEU域内での流通を認められない。
 
(注2)森林減少リスクに応じて、国別に「高リスク」、「標準リスク」、「低リスク」の3分類に区別される。日本は25年10月21日現在、「低リスク」に分類されている。
 
(注3)「零細・小規模一次生産事業者(micro small primary operator)」とは、低リスク国に所在し、零細事業者(micro-undertakings、貸借対照表総額35万ユーロ、純売上高70万ユーロ、会計年度中の平均従業員数10人の3つのうち少なくとも2つを超えない企業)または小規模事業者(small-undertakings、貸借対照表総額400万ユーロ、純売上高800万ユーロ、会計年度中の平均従業員数50人のうち、少なくとも2つを超えない企業)であって、みずから栽培、収穫、取得、または飼育したEUDR関連製品をEUに上市またはEUから輸出する者を指す。

牛肉・飼料関係団体など、議論の時間確保を要請

 欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)や欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)を含む20の関係団体(注4)は10月27日、共同で声明を発し、今回の提案された内容は重大な変更を伴うものであり、適用開始まで数週間に迫った中での対応は非現実的とした。声明では、現状について、十分な明確性と法的確実性が提供されていないと指摘し、欧州委員会に対し、適用を延期(Stop the clock)し、その間にEUDRの影響と実施状況を適切に評価して、真の簡素化措置を特定するよう要請した。

(注4)10月29日には新たにCopa Cogecaなど4団体が加わり、24団体に

1か月前の1年延期提案示唆から一転

 欧州委員会でEUDRを所管するロズウォール欧州委員は9月23日、「EUDRのITシステムのデータ容量・処理能力に不安があるため、適用開始の1年延期を提案したい」と会見で述べていたが、一転しての今回の提案となった。
 EUDRはすでに昨年、1年間の適用延期を行っており(注5)、再度の1年間延期提案に対しては、歓迎の声もあった一方で、実施に向けた投資や準備を終えた業界や環境団体からは、予定通りの実施を求めるなど、様々な反応が見られた。延期に歓迎の意を示した団体などからも、「簡素化が必要」との意見が上がっていた。
 
(注5)海外情報「EU理事会と欧州議会、森林減少フリー製品規則の1年延期で合意(EU)」をご参照ください。
 
 今後、EU理事会と欧州議会が、適用開始までの約2カ月という短期間でどういった対応を取るのか、採決の動向が注目される。
【調査情報部 令和7年10月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527