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欧州委員会、若手農家の割合倍増を目標とした世代交代戦略を公表(EU)

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 欧州委員会は10月21日、「農業における世代交代戦略」を発表し、若手農家および新規就農者の農業従事者全体に占める割合を、2020年の12%から40年までに24%へ倍増させることを目標に掲げた。
 
 EUでは、農家の3分の1が65歳以上であり、農村地域に居住する若年層(15〜29歳)の人口も減少傾向にある。欧州委員会は、こうした状況を踏まえ、世代交代の促進には、EUおよび加盟国レベルでの取り組みが必要とし、各加盟国には28年までに世代交代に向けた国家戦略の策定を求めるとともに、農業支出の少なくとも6%以上(注1)を世代交代促進に投資することを推奨している。
 
(注1)現行の共通農業政策(CAP)における若手農業者・新規就農者支援(直接支払いの上乗せ措置である青年農業者所得支持および農村振興政策のうち青年・新規就農者支援)の設定は、加盟国の任意による。
 
 同戦略では、世代交代促進のために特に緊急の対応を要する事項を、1)資金調達・土地・技能・知識へのアクセス、2)農村地域における公正な生活水準の確保、3)円滑な継承・引退支援−とし、これらの解決に向けてEUおよび加盟国が以下のような取り組みを実施すべきとしている。
 
・EUの若手農家は、2022年時点で141億ユーロ(2兆4812億円、1ユーロ=175.97円(注2))の資金不足に直面しており、特に長期融資の確保が困難な状況にある。このため、若手農家向けに低金利、担保要件の緩和、据置期間の設定、返済期間の長期化などの措置を含めた融資・保証基金を提供。また、欧州投資銀行と連携した専用融資枠を設定。
 
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年9月末TTS相場。
 
・若手農家の農地取得支援のため、加盟国に対し、1)金融機関を通じた農地取得支援のための金融商品の提供、2)土地登記・取引コストの削減、3)引退する農家と新規参入者を結びつける土地マッチングサービス、4)土地配分における若年農家の優先、5)早期後継者育成のインセンティブ創出、6)投機抑制策の導入−などを要請。
 
・高齢農家に十分な退職保証を提供する年金改革などに加盟国が取り組むことで、適時な継承、農地流動性を促進。農地流動性をより高めるため、次期共通農業政策(CAP)では、32年までに年金受給者を直接支払い(農地面積に応じた支払い)の対象外とすることを提案。
 
・農村地域の生活を魅力的にするため、農業の枠を超えたインフラ整備や、次期CAPでは農家の休暇取得を支援する農作業代替支援サービスの導入を提案。また、炭素除去・カーボンファーミング認証制度(CRCF)の導入による追加的な収入源を提供。
 
・若手農家のニーズに応じた研究開発の提供や、若手農家向けにカスタマイズされた研修の実施。
図
 本戦略の特徴としては、農業の枠を超えて農村インフラの整備や年金制度改革に踏み込んだ点が挙げられる。EUレベルの農業部門での取り組みとしては、依然としてCAPが主な位置を占めるが、28年以降の次期CAPについては、予算面での結束政策(注3)との統合など、大幅な見直しが提案(注4)されており、この動向も本戦略の方向性に影響するものと考えられる。EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、本戦略について一定の評価を示しているものの、世代交代には農業部門の低所得水準の解決が必須であり、農業予算を他予算と統合する次期CAP提案は受け入れられないとしている。
 
(注3)EU内地域の発展レベルの格差軽減などを目的とする都市・地域振興政策
(注4)海外情報「欧州委員会、次期共通農業政策の大幅な見直しを提案(EU)」をご覧ください。
【調査情報部 令和7年10月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527