健康志向の高まり、タンパク質や糖類の消費に影響(米国)
近年、米国では国民の肥満率の継続的な上昇や、コロナ禍での外出機会の減少などによる慢性疾患の増加もあり、消費者の健康志向が徐々に高まっている。こうした中、生活習慣の改善の一環として、食事においてタンパク質の摂取を重視する消費者が増加している一方、糖類の消費については、米国連邦政府が掲げる政策も相まって減少傾向にある。
1 健康志向の高まりとタンパク質需要の増加
米国では、国民の健康志向の高まりにより、食事の傾向が変化している。食事の習慣を変化させている要因の1つには、2型糖尿病の治療薬であるGLP−1(注1)の存在がある。GLP−1は、2021年6月に肥満治療薬として承認を受けて以降、米国内の普及率が2023年の5.5%から24年に8.3%までに上昇していると推計されている。同治療薬の服用者は、筋肉量の維持などを目的としてタンパク質の摂取を好む傾向があり、米国におけるタンパク質需要の増加を後押ししているとされる。
こうした中、食肉大手のカーギル社が25年4月に公表した年次報告書「2025年タンパク質プロファイル」によると、24年に「タンパク質摂取量を増やした」と回答した消費者は61%にのぼり、19年の48%に比べて13ポイント増加した。消費者がタンパク質の摂取量を増やす傾向がみられる中、食肉などの畜産物に加え、シリアルや飲料などによる消費も期待されており、小売店では高タンパク質をうたう商品が多く販売されている(写真1)。
また、GLP−1の摂取により空腹感が緩和され、食事量が減少するため、食品・飲料への支出も減少する傾向が見られる。民間調査機関の推計によると、GLP−1の服用者の増加によって、34年までに米国全体の食品・飲料への年間支出額が約480億ドル(7兆1942億円:1米ドル=149.88円(注2))減少すると予測されている。一方で、GLP−1の服用者は食事の回数や量は減少するものの、1食当たりの支出額は増加する傾向があり、特にレストランでの高品質な食肉や、魚介類のメニューに対する支出額は増加するとされている。こうした傾向に呼応し、店舗側では、小量のメニューやよりプレミア感のあるメニューを提供する動きも始まっている。
(注1)グルカゴン様ペプチド薬として、インスリンの分泌を促進し血糖値を下げるとともに、満腹感を得て食欲自体を抑制する効果がある。米国内では、オンライン診療を活用した購入が可能であり、日本よりも購入しやすい医薬品となっている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年9月末TTS相場。
2 糖類消費への影響
一方で、健康志向の高まりにより、糖類の消費は減少傾向にある。肥満や慢性疾患の増加に伴い、消費者が糖類の過剰摂取を控える傾向が強まっているほか、GLP−1服用者が血糖値管理のため、糖分の少ない食事を選択することなども影響している。商品パッケージにも、糖類含有量を表記する商品が増加している(写真2)。米国国民の食事を通じた健康については、連邦政府の政策であるMAHA(注3)の取り組みの一環としても対策が講じられている。2025年の第二次トランプ政権発足以降設置されたMAHA委員会は、5月および9月に報告書を公表しており、いずれも糖類の過剰摂取と健康への影響などについて言及している。
これらの報告書に沿う形で、連邦政府の補助的栄養支援プログラム(通称:SNAP)から清涼飲料水などを除外する旨を検討・実施する州が増加しており(注4)、GLP−1の普及も相まって、食品・飲料などにおける糖類の需要は減少方向にある。
(注3)MAHAは、「Make America Healthy Again」(米国を再び健康にする)の略。
(注4)海外情報「米国6州、補助的栄養支援プログラムから清涼飲料水などを除外(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004141.html)も併せてご参照ください。
3 今後の見込みと業界の動き
米国では、消費者の食習慣の変化に加え、連邦政府や州政府による政策的な方向付けが行われている。特に25年は、「米国人のための食生活指針」の改定年(注5)にあたるため、MAHAレポートの内容が各プログラムに参照され、今後のSNAPなどを活用する米国内の消費者が購入する食品・飲料の数量にも影響を与えていくことが見込まれる。これに伴い、食品・飲料業界からのロビー活動が活発化していくと予想されており、既に米国内の大手企業が参画する新たな団体も設立されている。
(注5)海外情報「食生活指針諮問委員会、食肉および卵の摂取量を減らすよう提言(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004000.html)も併せてご参照ください。
【調査情報部 令和7年10月31日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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