中国における食糧の政府備蓄と流通の今を担当局長が語る(中国)
中国は五カ年計画制度を採用している。今年は十四五計画(14回目の5カ年計画で、2021−25年が対象期間)の最終年であり、次の十五五計画策定に向けた主要政策の総括が進められている。中国の穀物輸入の動向は日本にも影響を与える中、国務院新聞弁公室がメディア向けに主催する十四五計画期間政策成果発表会において25年10月12日、中国国家食糧および備蓄局(以下「食糧備蓄局」という)の局長(日本の副大臣級に相当)が中国における食糧の政府備蓄と流通(注1)(以下「食糧流通」という)について語った主な内容を紹介する。
(注1)中国語では「食糧流通」とされているが、市場における食糧流通だけでなく、政府による備蓄米の買い入れや備蓄制度全般を含む概念として使用されている。内容の紹介に当たっては、原文で「食糧流通」が使用されている箇所はそのままとした。なお「食糧」とは一般的に小麦、米、トウモロコシ、大豆および雑穀を指す。
十四五期間の食糧流通改革の成果
「十四五期間の食糧流通改革の成果」との副題で行われた成果発表会の冒頭で、食糧備蓄局局長は主な成果として次の4項目を紹介した。
(1)食糧市場への供給を十分に行い、市場を安定的に運営したこと。
この5年間、政策目標として掲げた食糧年間生産量である1兆3000億斤(6億5000万トン)を安定的に達成し、2024年には初めて年間1兆4000億斤(7億トン)の大台に達した。一人当たりの年間食糧保有量は250キログラムと、国際的に食糧安全保障の観点から必要とされている200キログラムを超え、「穀物は基本的に自給し、人が食べる穀物については絶対の安全性を確保する」(中国語では「谷物基本自給、口糧絶対安全」)を達成した。政府による食糧の年間買い入れ量も4億トン以上となり、備蓄米在庫は充足し、市場は安定した。
(2)食糧の買い入れと備蓄制度の改革が一層進んだこと。
中央政府による食糧備蓄は規模と食糧庫の配置などで改善が進み、地方政府による食糧備蓄はより理想的な規模となった。また、最低買い入れ価格制度などによって各地方政府がコントロールできる食糧資源は充足した。政府による備蓄米の倉庫管理、在庫検査、食糧関係企業の社会的信用度の監督などの関連制度の完備が進み、食糧備蓄関係企業においても内部管理が強化された。
(3)食糧流通保障が大幅に強化されたこと。
備蓄・輸送に関するプロジェクトが進展し、所定の備蓄基準を満たす全国の倉庫では合計で7億3000万トン以上の食糧が備蓄できるようになり、前五カ年期間末に比べて5800万トン増加した。そのうち低温または準低温で備蓄可能な倉庫の合計容量は2億2000万トンに達し、同じく前期末比で7000万トン増加した。食糧産業についてみればサプライチェーン全体の優良化が必要であるが、それについては全国規模の中国食糧交易大会や地区ごとの食糧経済貿易フォーラム活動などの場を活用することで、生産関係者と販売関係者がより円滑に連携できるようにした。また、災害の緊急時に食糧が必要となる場合の対応についても、食糧の輸送企業、加工企業および配送センターと全国各地の供給地点などで構成される緊急時保障体制をより一層完備した。
(4)食糧管理、備蓄管理の方式を大幅に改善したこと。
食糧流通について法令とデジタル技術による全面的な監督管理、という新たな管理の段階に突入した。まず、2024年に食糧安全保障法が正式に施行された。同法は食糧の領域における最初の基盤的かつ統一的(中国語では「基礎性、統領性」)な法律である。同法の制定により地方の食糧安全保障条例も次々に公布、施行され、食糧安全に関する法体系が整備された。食糧流通管理条例(日本の政令に相当)も改正され、食糧の買い入れ、備蓄、加工、販売などの工程のほか、品質・安全、食糧損失の抑制などの面において規範化が進んだ。
なお、今の5カ年計画の一年目である21年以降、当局と財務部は優良食糧プロジェクトを推進し、環境配慮型備蓄倉庫の整備、備蓄対象とする食糧の品種、ブランドの優良化、品質のトレーサビリティ機能の強化、施設機器の優良化、緊急時対応能力の強化、食糧の節約・損失抑制と健康的な消費という6つの方面で取り組みを行ってきた。25年9月末時点で、これらの取り組みのために実際に投入した政府資金は462億元(約1兆150億円、1元=21.97円(注2))、それによってもたらされた社会投資は840億元(約1兆8455億円)以上、実施されたプロジェクトは8400件以上で、制定された優良食糧に関する民間団体基準や地方政府が定める地方基準は合計286本であった。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年10月末日TTS相場を使用した。
年間4億トン以上もの食糧の政府買い入れを支える仕組み
記者からの質問を受けた同局局長の主な回答内容は次のとおり。
大規模な食糧の政府買い入れには、市場と政府が協力して力を発揮することが肝要である。近年、政府関係部門は食糧管理の市場化と農民の利益保護をともに重視する姿勢を堅持しており、価格形成機構を絶えず改善するだけでなく、市場の活性化を促し、食糧資源の配置の適正化においては市場が決定的な役割を果たすよう促している。これらの取り組みによって市場での備蓄米買い入れが全体の9割を占めるまでになっており、まさにこのような実績が「買い入れの市場化と政策的な備蓄」という政策方針が国情に適ったものであることを証明していると考える。
買い入れ時に行うべき点、行っている点には次のようなものがある。
(1)各地の食糧買い取り企業に対して、農民の食糧販売の意向に基づいて適切に買い取り拠点を設け、買い取り工程を優良化し、作業効率を上げるよう指導すること。
(2)買い入れ対象となる農民への支援サービスを継続的に優良化すること。具体的には、各地の食糧買い取り企業が買い取り、生産後(脱穀など)などの各場面で主体的に農民に対して相談対応などの各種支援を提供し、オンライン・オフライン両方のルートを一体的に活用・運用することで食糧販売主体が列に並ばなくてもよいようにして販売工程を迅速化する、あるいは、天候などで食糧の品質が悪影響を受けないよう食糧生産・収穫後における乾燥支援などのサービスを優良化する、食糧の保管技術を指導することで食糧の損失を最小限に抑えるようにする、などを行うようにしている。
(3)秩序ある買い入れを維持すること。食糧市場の観測を強化し、市場の価格動向、品物の動きなどをよく監視することで適切な時期に政府米の買い入れ進度やその価格などを公開することによって、関連する市場関係者が合理的に食糧の売買が行えるようにしている。
食糧流通における損失の抑制に向けた取り組み
記者からの質問を受けた同局副局長の主な回答内容は次のとおり。
各地、各関係者の協力によって、顕著な成果を挙げてきたと考えている。当局が行った調査によれば、この3年間、食糧の備蓄、加工、輸送工程における食糧の損失は当該年の流通量の約2%であった。たとえば、備蓄では農民による食糧備蓄の損失率が3%となり、10年前と比較して5ポイント減少した。また、備蓄期間内における損失は1%以下に抑制されている。備蓄期間は3年から5年であり、損失の原因は水分量の変化や品質の劣化など自然的なものである。輸送、加工工程についてみれば、損失率はいずれも0.8%にまで低下した。
食糧流通における損失抑制の改善は主に次のような取り組みによる。
(1)食品ロスの削減が進んだこと。「食糧節約行動方案」「食糧節約および食品ロス反対運動方案」という2つの行動方案のほか、「食糧の節約・損失抑制に関する指導意見」「食糧生産度の節約・損失抑制行動方案」といった具体的な政策を発出することで、関係する中央・地方の政府機関による取り組みが進んだ。
(2)食糧備蓄の損失抑制が改善したこと。例えば、農民による食糧保管について主要な食糧生産地に食糧生産後サービスセンターを設置し、各地の食糧や農民の実情に応じた技術指導を強化した。具体的には、倉庫内の食糧状況のモニタリング、機械化通風、循環型くん蒸、適切な冷却という「4つセット保管技術」を普及することで、気密性、断熱性といった倉庫の主要指標の数値を向上させた。このような取り組みによって、わが国の食糧備蓄管理は食糧の安全、環境負荷の低減、より質も鮮度も良い食糧の供給という点においても質的に向上していることを示している。
(3)食糧資源の利用が進んだこと。小麦、コメ、菜種油などに関する国家基準を改正することで企業の加工精度や搾油効率を高め、過度な精練・精油、粉砕、あるいは過度な白さの追求を抑制するとともに、製油企業によるぬかや皮、豆粕などの副産物の総合利用を推奨するなどによって、食糧資源の総合的な利用効率を引き上げた。
【調査情報部 令和7年11月5日発】
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農畜産業振興機構 国際調査グループ (担当:調査情報部)
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