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アルゼンチン産牛肉の輸入拡大の意向と牛肉産業強化計画を発表(米国)

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 米国では、2022年に発生した大規模な干ばつや、メキシコでのラセンウジバエの確認に伴う生体牛の輸入停止などの影響により、牛飼養頭数が減少し、牛肉生産量も減少している。これに伴い米国産牛肉の価格が高止まりする中、25年4月以降に講じられた相互関税および追加関税も、主に挽き材として使用される輸入牛肉価格の高騰につながっている。このため、牛肉卸売価格は今年8月に調査開始以来の最高額を記録し、バーベキューシーズンの終了後も、引き続き昨年を上回って推移している(注)。牛肉生産量の減少や牛肉価格の高騰については、米国の現地報道において多く取り上げられ、国民の関心も高まりつつある。このような状況の中、トランプ大統領は25年10月19日、アルゼンチン産牛肉の輸入を拡大する旨の発言をした。また、同月22日、米国農務省(USDA)は、米国国内の牛肉生産量の回復を促進するため、牛肉産業強化計画を発表した。

(注)米国の牛肉価格の上昇についての詳細は、「牛肉価格の上昇、食品の中でも顕著(米国)|農畜産業振興機構」および「25年8月の牛肉生産量はかなり大きく減少、卸売価格は大幅に上昇|農畜産業振興機構」をご参照ください。
 

1.アルゼンチン産牛肉輸入拡大の意向を発表

 トランプ大統領は25年10月19日、アルゼンチン産牛肉を追加輸入する可能性に言及し、同23日にアルゼンチン産牛肉の関税割当量を現行の2万トンから8万トンに引き上げるとの意向を示した。米国における24年のアルゼンチン産牛肉の輸入実績は、関税割当量を超える4万4900トンとなり、総輸入量(210万2600トン)の2.1%を占めた。関税割当量が拡大され、同国からの輸入量が8万トンに達した場合、これは24年の総輸入量の3.8%に相当する。なお、これらの発表はトランプ大統領の発言を取り上げる報道機関のニュースによるものであり、11月13日にホワイトハウスからアルゼンチンとの新たな通商・投資協定についての枠組み合意が発表されたことから、詳細については今後明らかになるものと見られる。

2.USDAによる牛肉産業強化計画の発表

 25年10月22日、ロリンズUSDA長官、バーガム内務省(DOI)長官、ケネディ保健福祉庁長官、レフラー中小企業庁(SBA)長官は共同で米国牛肉産業強化計画を発表した。本計画は(1)畜産経営保護と経営環境の改善、(2)食肉加工能力の拡充、消費者への透明性確保および市場アクセスの改善、(3)国内供給に見合う需要の創出―という3つの優先事項から成り立っている(図)。
図 USDAが公表した牛肉の生産拡大計画のイメージ
 当計画は、既存支援メニューおよび今後取り組む政策を組み合わせたパッケージとなっており、その対策項目の概要は以下の通りである。

(1)畜産経営保護と経営環境の改善
・USDAおよびDOIが管理する国有地内の放牧・牧草地へのアクセス改善
・捕食動物の管理方法と種の保存法の改正
・災害対策(家畜損害賠償プログラム(LIP)や家畜牧草地災害プログラム(LFP)の改善)および捕食動物被害対策の強化
・リスク管理局(RMA)が提供する保険プログラムの費用負担軽減および新規畜産経営者への優先的な支援
・農業参入支援プログラムによる退役軍人からの申請の優遇措置
(2)食肉加工能力の拡充、消費者への透明性確保、市場アクセスの拡大
・消費者にとって目視しやすく正確なラベル表示を通じた米国産牛肉の保護と促進
・公正かつ透明性のある牛肉取引の促進
・遠隔格付システム等の利用など、中小規模の食肉加工業者のための技術革新とコスト削減
・中小規模の食肉加工業者が活用するUSDA検査官の時間外および休日検査料の削減
・地元の食肉加工施設整備による地域内マーケティング機会の拡大
・LiDAR技術(レーザー光照射による測定技術)を用い肥育もと牛を評価する新技術の試験導入
・水質浄化法に基づく規制の緩和
(3)国内供給と並行した需要の創出
・児童栄養プログラム(CNP)による地元で生産された牛肉の提供促進
・科学的根拠に基づく「米国人のための食生活指針」の策定

3.業界の反応

 アルゼンチン産牛肉の輸入拡大に関する今回の発言について、米国肉牛生産者協会(USCA)はいち早く反応し、「米国畜産業の基盤と農村部の基幹産業を危険にさらす」と強く反発した。全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は「消費者向け価格引き下げを目的とした追加輸入は、業界に混乱を生むだけで効果は全くない」と懸念を表明し、アルゼンチンにおける口蹄疫の発生歴も指摘した上で、米国の畜産業を保護するよう求めた。米国農業局連盟(AFBF)は、「輸入拡大は牛群再構築を判断する農家に不安定さと不確実性をもたらし、米国の食料自給能力にも影響を及ぼす」とし、慎重な対応を要請した。
 一方、USDAが発表した牛肉の生産拡大計画について、USCAは、「米国人のための食生活指針におけるタンパク質の役割の認識、中小規模加工施設への支援、ラベル表示規定の厳格な執行などは業界の懸念に寄り添うものである」と評価した。米国食肉加工業者協会(AAMP)も「助成金の提供、遠隔の等級格付けシステムの拡大、中小規模の食肉加工業者に対する検査費用削減などの支援策を歓迎する」とし、同国の食肉加工強化・支援に期待を示した。
【調査情報部 令和7年11月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805