和牛需要の裾野拡大に向けた、ロイン系以外の利用方法普及の取り組み 〜ドイツ・イタリアでの実施事例〜 (EU)
令和7年5月に閣議決定された「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略〜輸出拡大等による「海外から稼ぐ力」の強化〜」において、米国およびEUでの和牛需要の裾野を広げる方策の一つとして、ロイン系の輸出拡大に加え、比較的単価の低いかた、ばら、ももなどを含めて余すことなく活用するための調理人などへの日本式のカットや利用法の教育の実施が掲げられているところである。
EU向けはセカンダリー部位の輸出拡大が課題
日本のEU向け牛肉輸出量は着実に増加しており、2024年は前年比31.6%増の745トンとなり、直近の25年1〜10月も前年同期比で約3割の伸びを見せている。24年の世界全体に占めるEU向けの割合は、数量ベースで7%、金額ベースで11%を占め、人口4億5000万人の市場として、今後さらなる拡大が期待されている。
他方、牛肉輸出の拡大には、上記閣議決定で指摘されているようにロイン以外の部位の販路開拓が重要となっている。輸出量に占めるロインの割合は、世界全体では20年の53%から24年の46%と低下傾向にあるものの、EU向けは依然として81%(24年)と高く、かた、うで、もも、ばらなどいわゆるセカンダリー部位の販路拡大が課題となっている。
セカンダリー部位の活用方法の普及は、これら部位の輸出促進に有効な手法の一つである。例えば、欧米ではステーキカットが好まれるためロインの需要が高いが、「かた」の「かたさんかく」を利用したステーキカットの紹介などにより、セカンダリー部位への現地業者の関心を得ることができる。
また、欧米の消費者は食材の背景にあるストーリーを重視する傾向があるため、歴史や飼養方法などの知識普及も和牛のブランド価値を高めるために重要となっている。
今回、公益社団法人全国食肉学校が一般社団法人日本畜産物輸出促進協会からの委託を受け、ドイツおよびイタリアで現地関係者の協力を得て実施したセカンダリー部位の需要拡大に向けた取り組みに参加する機会を得たので、以下に事例として紹介する。
ドイツ、アウグスブルグ食肉学校での授業 〜日本とドイツのカット比較を行い、理解をより促進〜
ドイツではアウグスブルグ食肉学校(注)を会場に、11月19日から21日までの3日間の日程で授業が行われた。食肉店経営者、シェフ、食肉関連教育機関、ホテル関係など約40名が参加した。ドイツ国内だけでなく、スイスやフィンランドなどからの参加もあった。
授業では、「和牛を正しく知る」をコンセプトに、小原学校長からの和牛の歴史や特長、飼養方法などの座学を行い、続いて底原講師による「かた」「かたロース」「しんたま」「らんいち」「うちもも」のカットの説明、実演を実施した(表)。カットの説明では、和牛と並行してドイツ産牛肉のドイツ式カットも行い、その違いを比較することで理解をより深めるよう工夫した。カットした和牛肉は現地料理風に調理し、試食を通じて実際の利用イメージをより具体的に把握できるようにした。
授業終了後には、講師に和牛の調達に関する具体的な相談があるなど、今回の授業が和牛への関心向上に寄与したことが伺えた。
(注)同校は1928年に創設され、世界で最も歴史のある食肉学校の一つ。ドイツでは、食肉店を開業するには食肉マイスター(Fleischer-meister)資格が必要であり、同校は資格取得に必要なコースを提供する職業学校。
イタリア、パドヴァ大学での授業 〜将来の畜産、食肉関係者に和牛を周知〜
11月26日にイタリアのパドヴァ大学では、動物医学・生産・衛生学部のAntonella Dalle Zotte教授と企画し、和牛の歴史や特徴、飼養方法やカットの説明を行った。参加者は、同大学のAgripolisキャンパスで動物科学、獣医学、農業科学、食品科学、ガストロノミー(食文化科学)などを専攻する学生のほか、同大学や調査研究機関の職員など約90名である。学生にはこれまで和牛を食べたことのない者も多く、新たな食材に高い関心を示していた。
学生に対する授業は、輸州拡大に即座に直結するものではないが、将来的な現地における和牛の理解者、顧客や取扱い業者の開拓につながる有効な取り組みの一つとして考えられる。
今後もこうした輸出促進に向けた取り組みに期待したい。
【調査情報部 令和7年12月18日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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