連邦議会にて、学校給食における全乳使用に関する法案が可決(米国)
米国連邦議会上院にて2025年11月20日、連邦政府のプログラムに基づく学校給食において成分無調整牛乳(全乳)および2%の乳脂肪分を含む成分調整牛乳(2%牛乳)の使用を認める法案「健康な子供のための全乳法案」(Whole Milk for Healthy Kids Act)が可決された。これは学校給食において無脂肪牛乳または1%以下の乳脂肪分を含む低脂肪牛乳(1%牛乳)の使用に限定した12年の規制を転換するものである。本法案は25年12月15日に下院でも可決されたため、早ければ26年初頭までに成立・施行する見込みである。
(注1)米国では、牛乳(Milk)と表記されている場合、生乳を100%使用したものや乳脂肪分や水分を減らして成分を調整したものに加え、ビタミンDやカルシウムを加えたものを指す場合もある。米国では、全乳および無脂肪牛乳に加え、2%牛乳および1%牛乳の4種類が一般的であり、更に乳糖を分解・除去してあるような商品も広く販売されている。
1.これまでの経緯
米国では2012年以降、「健康で飢餓のない子供のための法律」(the Healthy, Hunger-Free Kids Act)に基づき、米国農務省(USDA)は、子供の肥満抑制策の一環として連邦政府の学校給食プログラムに基づき提供される飲用乳について無脂肪牛乳または低脂肪牛乳(乳脂肪分1%以下)に限定した(無脂肪牛乳または1%牛乳にフレーバーをつけることは可能)。
今般上院および下院で可決された「健康な子供のための全乳法案」は、連邦政府の学校給食プログラムで提供できる飲用乳の要件を改正するものである。本法案では、学校給食において、全乳、2%牛乳、1%牛乳、無脂肪牛乳(フレーバーをつけたものも含む)が使用可能となり、連邦プログラムにおいてUSDAからの費用支出対象となる。プログラムの対象となる公立学校などにとっては法案成立後、使用できる飲用乳の選択肢が増加することになり、地域や学校による嗜好や予算に応じて切り替えが行われる。
米国では乳牛飼養頭数の増加および1頭当たりの生乳生産量の増加によって生乳生産量が増加している。25年の生乳生産量は、2月を除き前年同月をそれぞれ上回っており、USDA農業マーケティング局(AMS)の報告書によると、主要24州における1〜10月の生乳生産量は合計8417万9033トン(前年同期比2.3%増)となった。米国では消費者によるたんぱく質需要によりホエイパウダーの需要も堅調である一方で、バターについては供給過多となっており価格は下落傾向で推移している。バターの卸売価格は、25年8月に4年ぶりの安値を記録した後も下落しており、同年12月1〜5日の平均価格は1ポンド当たり1.46米ドル(1キログラム当たり507円:1米ドル=157.63円(注2))となっている(図1)。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年11月末TTS相場。
米国農業局連盟(AFBF)によれば、連邦政府の学校給食プログラムにおいて毎日約3000万人の生徒に対して給食が提供され、飲用乳の売り上げ量の約7.5%に相当するとしており、仮にこれまで無脂肪牛乳や1%牛乳を給食として使用してきた学校のうち25%が全乳に切り替わった場合、バター換算で約5900〜8200トン相当の乳脂肪分の需要拡大につながるとしている。
2.業界の反応
乳脂肪分に対しては、全米生乳生産者連盟(NMPF)や国際乳食品協会(IDFA)などの酪農業界団体による栄養学的な調査や消費者などに向けた情報発信が継続してなされており、消費の拡大に向けたプロモーションやロビー活動などが行われてきた。また、2025年11月の酪農業界の会合において、USDAのロリンズ長官は「健康な子供のための全乳法案」の必要性に触れた上で、酪農業界を支援するため、1)同年12月または1月上旬に予定されている「米国人のための食生活指針」の改正を通じた消費の奨励、2)生乳生産コスト削減、3)牛乳生産・加工施設への投資促進、4)牛乳・乳製品の市場拡大に対して優先的に取り組んでいく旨を述べた。
今般の本法案可決に対して、AFBFは賛同する声明を発表し、「これは子どもと酪農家双方にとっての勝利である。全乳の栄養的利点は今や広く認知されている。学校における全乳および2%牛乳の制限を解除することで、子供たちは重要なたんぱく質、カルシウム、ビタミンをより多く摂取できる。学校給食の牛乳は飲用乳需要の約8%を占めるため、重要な市場牽引役でもある。」とした。
IDFAも「上院通過は、子供の健康と、全乳および2%牛乳の学校給食復帰を数十年にわたり訴えてきた酪農家、加工業者、保護者、栄養支援者にとって画期的な瞬間だ。」と賛同を示している。NMPFも本法案の上院および下院での可決に対して賛同を示すとともに、12年と24年の飲用乳の消費割合を比較し、全乳の市場シェアが拡大しているのに対し、無脂肪牛乳および1%牛乳は減少していることを根拠に、米国においてはより多くの消費者が全乳を選択し消費していることを強調した(図2)。
【調査情報部 令和7年12月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532