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EUメルコスール貿易協定、5月1日から暫定適用開始(EU)

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 欧州委員会は2026年3月23日、メルコスールとの暫定貿易協定(iTA)の暫定適用に向けた手続きが完了し、5月1日から暫定適用されると公表した。これにより、EU内で批准手続きが行われている包括的パートナーシップ協定(EMPA)のうち、関税削減や投資促進などに関する通商部分が先行して適用されることとなる(注1)
 
(注1)iTAは、関税削減、市場アクセス、投資促進などに関する規定を含む暫定的なもので、EMPA発効まで単独協定として機能する。EMPAの発効には、全てのEUおよびメルコスール加盟各国の批准が必要だが、iTAは、EU側ではEU理事会と欧州議会の同意で発効できる。なお、メルコスール4カ国の批准手続きは2026年3月までに完了済。

暫定適用までの同協定を巡る動向

 EUとメルコスール間の協定締結は24年12月に合意され(注2)、EU農業部門からの強い反発を受ける中、26年1月17日にEMPAとiTAの署名がなされた。署名後の1月21日、欧州議会はiTAとEU条約との適合性の審査をEU司法裁判所に求め、その結果が出るまでiTA同意に係る採決を延期するとした。EU司法裁判所での審査には通常、1年半から2年程度を要するため、適用開始の遅延が懸念されていたが、今回、欧州委員会は欧州議会の同意を待たず、暫定適用の開始に踏み切った(注3)。この背景には、地政学的な不確実性が高まる中で、早期に貿易やサプライチェーンの多角化などを図りたいとの思惑があるとみられる。
 
(注2)詳細は、海外情報「EUとメルコスール間のFTAが最終合意、市場拡大に期待も生産者団体は反発(EU)」をご参照ください。
(注3)欧州委員会は、通商協定の「発効」には欧州議会の同意が必要であるが、「暫定適用」には必ずしも必要ないとの見解を示している。

農畜産物に関する協定の内容

 EUは、両協定において、牛肉、豚肉、家きん肉、砂糖などをセンシティブ品目とし、市場開放を限定的とした。牛肉、豚肉(加工品含む)、家きん肉(加工品含む)については下表のとおり低関税または無税の割当数量を設定する。欧州委員会は、今回設定された関税割当数量は24年のメルコスールからの輸入量を下回る水準であるとしている。牛肉の関税割当数量9万9000トンは、24年の輸入量20万6000トン(枝肉重量ベース)の約2分の1、家きん肉(加工品含む)の関税割当数量18万トンは、同29万3000トンの約6割の水準である。
表
 協定により関税削減の対象となった製品についてはセーフガードの対象となるが、センシティブ品目に関しては、次のような厳密なセーフガード発動条件が設定される。メルコスール産品の輸入価格がEUの同一または競合製品と比較して少なくとも5%低く、かつ(1)メルコスール産品の特恵条件による輸入量が3年平均から5%以上増加した場合、または(2)同条件下でのメルコスール産品の輸入価格が3年平均から5%以上下落した場合に、セーフガード措置の発動が必要か調査を開始する。なお、この発動基準は、農業部門からの反発に配慮し、当初提案から引き下げられた。また、センシティブ品目に関しては、調査開始から21日以内に暫定セーフガード措置がとられる。他方、両協定による農業部門のメリットとしては、(1)メルコスール向けの輸出手続きの簡素化、(2)オリーブオイル、ワイン、チョコレートなどのEU製品の関税撤廃や一部の乳製品(チーズ3万トン・粉乳1万トンなど)の無税枠設定による輸出拡大、(3)EUの地理的表示(GI)の保護によるメルコスール市場での模倣品流通の防止、が挙げられている。

関係団体の反応

 欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、今回の暫定適用について、農業部門の長年の懸念を無視するものと非難した。同団体は、「メルコスール諸国は、EU域内のアニマルウェルフェアや持続可能性の生産基準を満たしておらず、労働・安全基準も低く低コストでの生産が可能となっており、EUの生産者にとって不公平な競争となる」と、当初から同協定に強く反発している。EU家きん加工業者・貿易協会(AVEC)は、1月9日のEU理事会による署名承認時に声明を発し、すでにEUで消費される鶏むね肉の25%が域外産であり、同協定による関税割当の設定はEUの鶏肉産業に悪影響を及ぼすとしている。一方、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、今回の暫定適用を「開放的でルールに基づく貿易を支持する強力なメッセージ」と歓迎し、「乳製品業界にとって新たな機会を創出するもの」と評価した。
【調査情報部 令和8年4月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:調査情報部)
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