米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS、以下AMS)は、1999年家畜義務報告法(Livestock Mandatory Reporting Act of 1999)に基づき、2001年4月から家畜義務報告プログラムを実施し、毎日の家畜・食肉取引価格をとりまとめ公表しているが、この法律は豚肉の卸売価格を含んでいなかった。このため、これまで豚肉については、パッカーによる任意報告を公表価格の基礎としていた。家畜義務報告プログラムは、2006年に5年間延長されたが、この時も豚肉については義務化に盛り込まれなかった。しかしながら、任意報告では情報量が少ない上、減少傾向にあったことや、近年の豚肉市場の実態に合わなくなっていた。このため、2010年9月に1999年家畜義務報告法が期限切れとなり、2010年義務価格報告法(Mandatory Price Reporting Act of 2010)が同法の内容を引き継ぐこととなった際、農務長官は豚肉の卸売価格の報告を義務化するルール作りを命ぜられることとなった。
米国農務省(以下USDA)は修正法に基づき、省内にルール作成委員会を設置して義務報告の内容を検討していた。その後、同委員会の報告に基づく最終案について関連業界との間で調整を経て、2012年8月に最終規則が公布された。最終規則の中では、報告義務は、直近の過去5年間における:(1)年間と畜頭数が10万頭以上のと畜場、(2)と畜頭数が20万頭以上のと畜場を併設するパッカー、または(3)豚のと畜実績はないが、農務長官が食肉処理能力を備えたパッカーと認めた者、について定められており、2013年1月7日から施行されることとなっている。AMSは、2010年の実績に基づき、報告義務の対象となる施設を36パッカーが所有する56処理施設になると見込んでいる(表1)。北米産業分類システム(NAICS)によれば、対象となる36パッカーのうち、24パッカーは中小企業に分類され、これらの会社が所有する処理場は27カ所にのぼる。報告義務の対象となる施設は、連邦検査対象の豚肉処理施設(611施設)の9.2%に当たり、年間総処理頭数の98%を占める。このような規定により、米国内のほとんどの零細規模の処理施設は報告義務を免れることになるが、これは報告に係る付加的コストが零細規模では過重となることを回避しつつ、できるだけ多くの価格データを確保しようとした結果といえる。
なお、報告対象は部位別の取引価格、数量、取引形態(包装形態や国内向けか海外向けかなど)となっている。報告価格は、簡便性と監査報告の利便性の観点から、従来どおり、豚の主要生産地に隣接したネブラスカ州オマハにおける積み荷渡し条件の仮想価格として公表される。
USDAは、報告の義務化により、国内における取引価格の透明性が確保できる他、(1)価格情報が市場で取引実態を反映しやすくなり、単なる示唆的情報からより現実的なものになる(2)任意報告による価格情報操作の懸念が払拭される(3)大手情報の公開により、業者数では多数を占める零細業者がより公平な競争の機会を獲得できるようになるとしている。