英国の食品基準庁(Food Standards Agency:FSA)をはじめ同国の食肉産業界を代表する13の組織は4月14日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下にある英国食肉産業界の総合的な対応などについて、共同声明を発表した。
英国食肉業界の代表者らは4月9日に会議を開催し、COVID-19の感染拡大によって生じた業界の課題に対する総合的な対応の把握などを行なった。
共同声明では、COVID-19が英国民の日常生活に前例のないほどの影響を与え、食肉業界も大きな影響を受けているとし、日々変化する状況に対処していく緊急事態の中にあって、食肉業界にもたらされる深刻な問題や不確実性を認識しているとした。
また、特に食料関係従事者に言及し、多くのそれら関係者が食料供給の維持のために、毎日最前線で無私無欲で働き続けていることに感謝を示した。そして、業界として、この重要な役割のため、関係者の安全を確保するために可能な限りの措置を講じているとした。
さらに、規制当局および業界団体として共通の目的を共有しているとし、業界として、安全な食品生産、消費者保護、高いレベルのアニマルウェルフェア(動物福祉)の確保に取り組んでいるとした。
声明の最後には、大小問わず様々な関係者の協力に謝意を示すと同時に、今後も数週間、数カ月間、にわたって間違いなく直面する更なる困難を克服するための協力継続を決意し、英国全土における安全な食料供給の維持に対し、柔軟かつ実用的で、即応性のある方法を業界で協力して対応することを約束するとした。なお、13の組織は以下のとおり(共同声明原文掲載順)。
英国食肉供給者協会(Association of Independent Meat Suppliers:AIMS)
英国食肉加工協会(British Meat Processors Association:BMPA)
英国家きん協議会(British Poultry Council:BPC)
英国食品基準局(Food Standards Agency:FSA)
スコットランド食品基準庁(Food Standards Scotland)
ミートプロモーションウェールズ(Hybu Cig Cymru – Meat Promotion Wales:HCC)
国際食肉輸出入協会(The International Meat Trade Association: IMTA)
全国食肉販売事業者組合(National Craft Butchers)
全国農業者連合(National Farmers Union)
北アイルランド食肉輸出協会(Northern Ireland Meat Exporters Association: NIMEA)
食料輸出入連盟(Provision Trade Federation)
スコットランド食肉卸売業協会(Scottish Association of Meat Wholesalers :SAMW)
食肉輸出入協会スコットランド連盟(Scottish Federation of Meat Traders Association)
上記の組織の一つである英国食肉加工協会(BMPA:British Meat Processors Association)は4月7日、CEO(最高経営責任者)であるニック・アレン氏によるCOVID-19の畜産物価格への影響などについての報告を、同協会のホームページにて発表した。
調査会社のデータによると、3月22日までの4週間で消費者の買いだめによって牛ひき肉販売量が前年同期比45%増加し、主要な小売を通じて販売された全牛肉の60%超がひき肉を含む低価格帯の製品だったという。
また、小売が通常時にひき肉とステーキなどのカットを組み合わせて発注することに代えて、今回の需要に合わせて、ひき肉およびその他の低価格帯のものを集中的に大量に発注している現状、さらに、政府がCOVID-19対策として外食を閉鎖したことや、外出禁止令などによりイースター(キリスト教の復活祭)やラマダン(イスラム教の断食)のための家族の集まりなどはなくなり、消費者の高級部位の購買機会が失われている現状が取り上げられている。
さらに、パニック的な買いだめの結果、家庭在庫が十分にあるためにしばらくは小売需要が落ち込むとみている。また、従業員が不足することに伴う食肉加工ラインの遅延のため、食肉処理場の労働能力が20%近く失われ、搬入する家畜の数も減少し始めているという。
畜産物価格は、現状ではあらゆる品目で下落を示している。例えばひき肉は、通常時のバランスのとれた市場では枝肉の約40%だが、加工業者によってゼロまたはゼロに近い利幅で販売されることが多く、その増加は枝肉全体の価値が低下することを意味する。牛枝肉の約3.5%を占める比較的低価格帯部位であるブリスケット(肩ばら)をひき肉にすると、枝肉の全体的な価値は1キログラム当たり0.14ポンド(19円:1ポンド=139円)下落する。食肉が冷蔵販売ではなく、冷凍された場合も同様の下落が起こり、ヒレは通常同20ポンド(2780円)で販売されているものの、冷凍すると価格は何分の一かに低下するという。
同氏は報告の最後で、今までは加工業者がこうした影響を吸収してきたが、いずれは食品産業の自助努力だけでは生産者価格の低下を防ぐことはできなくなることから、英国の食料安全保障の維持するためには、危機が継続する間、生産者を支援するための政府による介入を行うか、そうでなければ、小売業界が高級部位を含む多様な部位も仕入れて販売促進を行い、消費者に多様な選択肢を示すことが必要かもしれないと言及した。
なお、FSAの業務部門責任者であるマーティン・エバンス氏に直近の英国食肉業界の状況について照会したところ、最大の懸念のひとつとして輸出市場の停滞があるという。高級部位の主要な輸出先であった欧州大陸でも英国と同様の需要の低迷がある中、特に高級部位の輸出量は一気に減少しており、英国内で在庫が積み上がっているという。現在の先の見えない混乱の中、英国食肉業界は業界のさらなる結束を強めて、共同声明のとおり引き続き対応を模索するとのことである。
・欧州委員会、追加支援措置を採択。新型コロナウイルスの影響下にある生産者のキャッシュフローの改善など(海外情報(令和2年4月21日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002681.html
・アイルランド生産者団体、肉用牛農家への緊急支援の即時実施を要請。新型コロナウイルスによる影響に対応(海外情報(令和2年4月21日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002680.html
・EU農業生産者団体、新型コロナウイルスによる市場急落に対し緊急支援策を要求(海外情報(令和2年4月16日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002676.html
・欧州委員会、学校給食用果物・野菜・牛乳供給事業に2億5000万ユーロを措置。新型コロナウイルスによる影響への対応も(EU)(海外情報(令和2年4月10日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002672.html
・欧州委員会、新型コロナウイルス感染拡大に対応する農業・食品部門への支援策を準備(海外情報(令和2年4月8日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002669.html
・製糖関係団体、新型コロナウイルスの大流行を受けて欧州委員会に特別な措置を要請(EU)(海外情報(令和2年3月30日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002657.html
・欧州生鮮野菜生産協会、新型コロナウイルス発生下で供給力強化を推進(海外情報(令和2年3月27日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-y/joho02_000258.html
・欧州委員会、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、食品流通を含む国境管理措置に関するガイドラインを公表。欧州食品安全機関、食品を介した感染の証拠はないと報告(海外情報(令和2年3月19日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002646.html
・ドイツ政府機関、食品を介した新型コロナウイルス感染の証拠はないと報告(海外情報(令和2年3月10日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002666.html