フィリピン大統領府は4月7日、アフリカ豚熱の影響による深刻な豚肉不足に対処するため、農務省を通じて国家経済開発庁から勧告のあった豚肉輸入関税の一時的な引き下げについて、同日付けで施行したことを発表した。
これによると、1年間の限定措置として4月7日よりWTO協定に基づく豚肉のミニマム・アクセス数量(MAV)の輸入枠内税率30%を、当初3カ月は5%、その後9カ月の間は10%に引き下げるとしている。また、MAVを超える輸入数量についても、輸入税率40%を当初3カ月間は15%、その後9カ月間は20%に引き下げるとしている。生鮮、冷蔵、冷凍いずれの豚肉も対象となる。ただし、最終的にはその後の議会上院との協議により枠内税率を当初3カ月は10%、その後9カ月は15%、枠外を同20%、同25%と、それぞれ5%ずつ引き上げる修正を行うことで妥結した。
また、2021年のMAVについて輸入税率の引き下げに併せた数量の見直しも行われている。フィリピン統計局によると、アフリカ豚熱の感染拡大に伴い同国の豚飼養頭数は2020年1月の1280万頭から2021年1月には310万頭減の970万頭になった。このため、2021年の総需要量161万8355トンに対し供給量が122万9702トンと見込まれたことで、およそ38万9000トンの不足が懸念されていた。これを受けて同国政府は、当初、MAV輸入枠を現行の5万4000トンから40万4000トンに引き上げることを検討していたが、議会上院との協議により、最終的に25万4210トンで決着した。
同国のドゥテルテ大統領は今年に入り、国内におけるアフリカ豚熱発生への対策を講じてきた。
今年2月1日には、アフリカ豚熱の感染拡大に伴う豚肉や代替需要としての鶏肉の価格が上昇したことで、マニラ首都圏での豚肉と鶏肉の小売価格に上限を設ける大統領令に署名していた。しかし、供給不足などを理由に卸売価格が小売価格の上限を上回るなどの事態が生じたため、当初の期間とされた60日後の4月8日に同大統領令は廃止されている。その後、鶏肉価格は落ち着きを見せたものの、豚肉価格は依然として高止まりで推移した。
さらに同大統領は5月10日、アフリカ豚熱の感染拡大を防ぐため、国内全域を対象に非常事態を宣言した。この宣言では豚肉供給不足への対処や小売価格の引き下げに加え、養豚業復興の促進を目的に、アフリカ豚熱のさらなるまん延を防ぐべく、政府機関や自治体が緊急かつ適切な措置を速やかに講じるよう、必要な資源を動員し全面的な支援および相互協力を行うことが求められている。
2021年のフィリピンの豚肉輸入量が増加傾向にある中で(図)、米国食肉輸出連合会(USMEF)の分析報告によると、2021年第1四半期(1~3月)の米国産豚肉のフィリピン向け輸出量は、前年同期比3倍の2万5000トンに達したとされている。また、このような状況についてUSMEFは、フィリピン市場ではEUやカナダ産豚肉との輸出競合の激化が予想されるものの、輸入関税が引き下げられたことで、引き続き同国向け輸出の伸びが期待できるとしている。
図 フィリピンの豚肉輸入量の推移(2019~21年)