欧州委員会、2015/16年度以降砂糖の生産割当制度廃止を提案
最終更新日:2011年10月20日
欧州委員会は10月12日、2013年以降の共通農業政策(CAP)改革案を公表した。同改革案のなかで、欧州委員会は砂糖部門について現行の生産割当制度の適用期間(2014/15年度末まで)終了後、同制度を廃止することを提案した。
注:年度はEU砂糖年度(10月〜翌9月)
欧州委員会、砂糖制度の方針を大きく転換
EUは、2006/07年度から2009/10年度にかけて砂糖制度改革を実施し、各加盟国の生産割当数量を合計1760万トンから1330万トンに削減した。この背景には、WTO裁定による輸出量の制限(年間137.4万トン)と、ACP諸国(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国)およびLDC諸国(後発開発途上国)からの輸入増加でEU域内の砂糖供給が過剰となることを防ぐ目的があった。制度改革によりEUは世界有数の砂糖輸出地域から純輸入地域に転じた。このことは世界の砂糖需給にも大きく影響し、2009年以降の国際砂糖価格上昇の一因ともされる(なお、制度改革の詳細については
砂糖類情報2009年5月号調査・報告「EUの糖業事情(1)〜砂糖制度改革とその影響について〜」を参照されたい。
今回の欧州委員会による生産割当制度廃止の提案は、割当数量の削減により域内における砂糖生産の規模縮小を図った前回の改革から大きく方針転換するものといえる。欧州委員会は生産割当制度の廃止を提案する理由として、砂糖業界の長期的な事業継続のために輸出の拡大が必要であることを挙げている。WTO規則上、生産割当制度により国内市場の安定を図る国の輸出は間接的な補助金付き輸出とみなされる。このため、現在、EUの砂糖輸出量はWTOにより制限されている。また、近年問題となった域内における砂糖需給のひっ迫も、生産割当制度の廃止を提案した背景の一つと考えられる(関連記事:
砂糖類情報2011年6月号需給レポート「EUにおける最近の砂糖需給動向」)。
生産割当制度廃止で増産と価格下落が予測される
欧州委員会は、今回のCAP改革案について影響評価レポートを公表した。これによると、砂糖の生産割当制度を2015/16年度以降廃止した場合、2020/21年度のてん菜作付面積は180万ヘクタールと、同制度を廃止しない場合と比べ1.9%増加の見通しである。同様に、てん菜生産量は1.7%増加の1億1690万トン、砂糖生産量は1.7%増加の1780万トンと予測されている。増産により、てん菜価格は8.2%安の1トン当たり23.5ユーロ、砂糖価格は3.5%安の同389ユーロに下落すると見込まれている。
ユーザーは賛成の一方、生産者は強く反発
生産割当制度の廃止案に対する関係者の反応は様々である。欧州の大口砂糖ユーザー団体である砂糖需要者委員会(CIUS)は、生産割当制度の廃止を域内の砂糖需給ひっ迫問題の解決につながるとして歓迎している。
一方、欧州てん菜生産者連盟(CIBE)は、同制度の廃止はてん菜産業にとって大きな打撃になると激しく非難した。前述の影響評価レポートについても不適切とし、生産割当制度を廃止すれば、価格下落による収益性の低下でてん菜生産は減少するとの見方を示した。欧州砂糖製造者協会(CEFS)も、影響評価レポートについてCIBEと同様の意見を表明し、域内砂糖供給の安定のために生産割当制度を継続するべきとしている。
また、EUの主要な砂糖輸入先であるACP/LDC諸国は、同制度の廃止によるEUの砂糖生産拡大は、貧しい国々の砂糖産業に打撃を与え、EUへの輸出を見込んだ産業への投資を無駄にすると批判している。
欧州委員会によるCAP改革案は、今後、欧州議会および農相理事会での審議を経た上で2014年1月に施行される予定である。前述の通り、砂糖の生産割当制度の廃止については各方面から様々な意見が出ており、今後の議論の行方が注目される。
【日高 千絵子 平成23年10月20日発】
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