紙は主に木材パルプ(繊維)が絡み合ってシートを形成しています。繊維が短いと絡み合う場所が少なく、すぐに解けてしまいます。その絡みの手助けにでん粉を紙料に添加して用います。ただし、紙はパルプを水に懸濁させてから脱水して紙のシートになるので、普通(未加工)のでん粉を用いると水に溶けるでん粉の大半は水と共に流れてしまい、紙に残らなくなります。
そこでパルプとでん粉を結び付きやすくするために、パルプがマイナスの電荷を帯びている性質を利用して、あらかじめプラスの電荷を帯びているでん粉を使用します。普通のでん粉はマイナスの電荷を帯びているので、カチオン基と呼ばれるプラスの電荷を帯びた物質をでん粉に反応させてでん粉をプラスの電荷にします。
現在内添用でん粉によく用いられているカチオン基は4級アンモニウム(R3N+-;Nは窒素、Rは炭化水素)と呼ばれるもので、窒素原子がプラスに大きく帯電しています(5)。このカチオン基が付いているでん粉を一般にカチオンでん粉と呼びます。カチオンでん粉は電荷の偏りが大きく、水中で不安定(水のpHの変化で凝集する事がある)になりやすいので、カルボキシ基(―COOH)やリン酸基(―H2PO3)といったアニオン基(大きなマイナスの電荷を持つ)をカチオンでん粉に少量導入する事で、電荷の偏りが小さくなりでん粉が水中で安定的に存在します(ただし、カチオン基の量がアニオン基よりも多くなっているので、でん粉全体としてはプラスの電荷を帯び、パルプに付きやすくなっています)。これを一般的に両性でん粉と呼び、現在ではこの2種類のでん粉が内添でん粉としてよく用いられています。
紙にはパルプ以外にも炭酸カルシウム、タルク(滑石という鉱石を微粉砕した粉末)、クレー(粘土)などといった填料(紙の平滑度、印刷適性などを高めるため、パルプを添加する無機顔料(鉱物))も多く含まれていますが、内添でん粉にはパルプの接着以外にも填料をより多く紙中に取り込む役割もあります。
実際の紙の作り方は、水に懸濁させたパルプに填料やでん粉の糊液(あらかじめでん粉の懸濁液を加熱して糊にしたものを使用)、その他の薬品を加え、この懸濁液を目の細かいワイヤー(網)上に流し込んで脱水し、ワイヤー上に形成されたシートを乾燥させて紙となります。填料はパルプが絡み合った空間に取り込まれて紙に留まるため、パルプの絡みが多いと紙をすいた時の填料の取り込みも多くなります。
内添でん粉を用いるとパルプの絡みが多く、パルプが織り成す網目も小さくなる為、脱水時に水と共に抜ける填料が少なくなり、紙中に留まる填料が多くなります。さらに、パルプ同士がより接近し、パルプが抱えていた水を排出させる作用もあるため、脱水しやすくなります。このため、脱水した時のパルプシートの水分が低くなり、その後の乾燥負荷を軽減する効果もあります(6)。