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ばれいしょソイルコンディショニング栽培体系について

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最終更新日:2010年6月3日

ばれいしょソイルコンディショニング栽培体系について

2010年6月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部

北見農業試験場 地域技術グループ 大波 正寿

 

1.はじめに

 北海道における生食・加工食品用ばれいしょ栽培では、総労働時間のうち半分近くを収穫作業に要していることから、作業能率の向上が大きな課題となっています。収穫時の作業速度や能率には、機上選別における緑化・変形など規格外いもや、土塊・石れきの量が大きく影響します。
 
 一般に、慣行栽培では、中耕、半培土および本培土作業によるタイヤ踏圧により、培土内に土塊が形成されやすく、収穫速度を上げるとハーベスタ内に入る土塊や石れきが多くなります。これが、選別作業能率の低下や、傷・打撲による生産物の歩留まり低下を招いています。
 
 これらの問題点を解決するとともに、加工原料としての高品質化が期待できるソイルコンディショニング栽培が注目されています。
 
 本報告では、まず、平成17〜20年に加工用品種を用いて行った大規模実証試験の結果を報告し、その後にでん粉原料用栽培への適用の可能性について記載します。
 

2.ソイルコンディショニング栽培の作業工程

 この栽培法は、播種前にばれいしょ植付列の土塊や石れきを除去したのち高畦の播種床を造成し、播種作業と同時に培土を行うのが特徴です。具体的な作業工程は、「土寄せ」→「土塊・石れき除去」→「播種・同時培土」となります(図1)。
 
 
 土寄せ作業はベッドフォーマ(図2)で行います。この工程は効率的に土塊・石れき除去作業を行うための準備作業で、耕起作業を兼ねています。2畦分の作土を土寄せして盛り土を造成し、標準的な作業速度は毎秒1.2メートル、所用動力は100馬力(73キロワット)以上です。
 
 
 
 土塊・石れき除去作業はセパレータ(図3)で行い、土寄せした盛り土をふるい分けし、直径約30ミリメートル以下の土粒子で膨軟な2畦分の高畦播種床を造成します。直径30ミリメートル以上の土塊や石れきは畦間に置くか、セパレータの機体後部に一時的に貯留したあとにほ場外へ排出します。また、伴走トレーラを用いてほ場外に石れきを搬出することも可能です。セパレータの標準的な作業速度は毎秒0.5メートル、所用動力は80馬力(60キロワット)以上です。
 
 
 播種作業は2畦用の深植えプランタを利用し、播種と同時にプランタ後方の成型板によって培土を完成させます。播種深は培土頂上から15センチ程度とします。
 
 播種後には除草剤を散布します。中耕・半培土作業が省略されるため、慣行栽培より雑草発生が多くなる場合があるためです。除草剤は効果の長い土壌処理剤が適し、萌芽直前に散布するのが効果的ですが、土壌の乾湿をみながら適切に処理時期を判断することが重要です。
 

3.新得町と津別町における大規模実証試験

 十勝農業試験場と北見農業試験場が、農林水産省のプロジェクト研究として、新得町と津別町で行った大規模実証試験の結果を紹介します。ソイルコンディショニング栽培体系(以後、ソイルコン体系)は前述の作業機を用いたほか、種いもは全粒植えとし、収穫機はオフセットハーベスタ(*1)を用いて労働時間の減少をねらいました。対照の慣行栽培体系(以後、慣行体系)および早期培土栽培体系では、半切種いもおよびインローポテトハーベスタ(*2)を用いました。

(3)−1 生産性および作業能率

 ソイルコン体系の規格内収量(*3)は、新得町、津別町ともほぼ慣行体系並で、播種時に深植えとなることによる生産力への影響はありませんでした(表1)。しかし、塊茎の緑化・変形および収穫時の打撲・損傷は慣行体系より少なく、品質向上効果が認められました。
 
 収穫作業能率はソイルコン体系で高く、収穫作業の投下労働時間は慣行体系より約4割減少しました(表2)。栽培期間の合計でみると、慣行体系の場合、新得町で約140時間、津別町で約170時間であったものが、ソイルコン体系では新得町で93時間(慣行体系比67%)、津別町で116時間(同・68%)となりました。このように、ソイルコン体系では、大幅に省力化できることが実証できました。
 
(*1)オフセットハーベスタは、トラクタが収穫畦を走ることがないため、タイヤで畦を崩したり、塊茎を踏みつけたりする心配がありません。
(*2)インローハーベスタは、現在主力のタイプで、収穫畦をトラクタのタイヤが走行します。収穫機のセッティングの不具合や土壌条件によって、踏圧による土塊形成や塊茎損傷が懸念される場合があります。
(*3)規格内収量は1個が60〜339グラムの範囲のいも重で、緑化・変形などの外観異常を除きます。
 
 
 
 
 
 

(3)−2 国産セパレータの性能

 国産セパレータは、輸入セパレータの改良(構造の簡素化など)により、低価格化を図ったもので、独立行政法人生物系特定産業技術研究センターが開発した機種です(図4)。国産セパレータの性能は、砕土性、土壌硬度およびばれいしょ収量・品質の面からみて、いずれも輸入セパレータと同程度であったことから、輸入セパレータと同等といえます(表3)。ソイルコン体系では、播種床造成において複数の作業機械を組み合わせて使用しますが、低価格な国産セパレータの開発により、導入コストの低下が期待できます。
 
 
 
 

(3)−3 機械利用経費と導入場面

 実証試験結果から、ソイルコン体系の機械利用経費を試算しました。新得町では、利用面積が収穫機1台で収穫可能な16ヘクタール以下のとき、慣行体系の機械利用経費が低くなりました。
 
 一方、収穫機が2台必要となる17ヘクタールから、オフセットハーベスタ1台で収穫可能な26ヘクタールまでの利用面積のとき、国産セパレータを用いたソイルコン体系が慣行体系より低くなりました(図5)。同様に、津別町では、13〜21ヘクタールの利用面積のとき、機械利用経費は慣行体系より低い結果となりました。
 
 
 このように、慣行体系で収穫機が2台必要となる利用面積になると、国産セパレータを用いたソイルコン体系が慣行体系より安価となる、つまり経済的に成り立つことが示されました。
 

(4)−4 まとめ

 ソイルコンディショニング栽培では、導入時の初期コストが慣行栽培よりかなり多くかかります。今回の実証試験によって、ソイルコン体系の品質向上・省力効果、さらに国産セパレータを用いたソイルコン体系の経済的な導入場面が明らかになりました。特に、石れきの多いほ場で品質向上効果が大きく認められますので、大規模加工用ばれいしょ栽培の高品質化と省力化をめざす場合に有効な栽培法といえます。

4.でん粉原料用栽培への適応性

 でん粉原料用栽培において、ソイルコンディショニング栽培を導入することにより、次の効果が期待されます。

(4)−1 土塊・石れきの減少

 培土作業回数が減少するので、畦間のタイヤ踏圧や土塊形成を軽減できます。また、石れきを積極的に培土内から取り除くことから、収穫タンクに混入する土塊・石れきが減少します。収穫物に土塊・石れきが多いと、生産者・工場の両者にとってデメリットとなります。

(4)−2 収穫作業の効率化・省力化

 でん粉原料用の収穫作業は、生食・加工食品用より作業速度が速いですが、土塊・石れき除去によりハーベスタに負荷がかかりにくくなり、作業速度の向上が期待できます。
 

(4)−3根域確保と収量の安定化

 膨軟で大きな培土が形成されることから、慣行栽培より根圏が大きく確保できます。また、ロータリ硬盤やタイヤ踏圧ができにくいことから、慣行栽培よりほ場内の排水性の低下を防ぐことができます。
 
 一方、ソイルコンディショニング栽培では、導入時の初期コストが多くかかります。上記のメリットはありますが、慣行栽培と同等となる利用面積は加工用品種よりかなり大きいと推測されるため、加工用品種で先行してソイルコンディショニング栽培の作業機が導入されている地域での利用、または営農集団やコントラクターでの利用が望ましいと考えられます。
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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