(1)−2害虫対策の進捗状況
タイでは苗を浸すための薬剤の使用は奨励しているものの、一斉散布などについては特に推奨していない。薬剤の使用を控える方針をとったのは、環境面および生産者の健康面への配慮、そして生産コストの上昇を防ぐためである。このように、生物的防除、すなわち天敵と害虫を共存させ、キャッサバに害がでない水準に抑えることに主力を置くことを選択したことになる。
まず、タイ政府は、前述のアおよびウの農家段階における対策を周知・徹底させるための費用として、2009年度に約6500万バーツ(約1億8000万円)の予算を計上した。一部の農家が対応を怠ってしまうと、その畑が害虫の避難場所となり、対策の効果が薄れるため、各地で説明会を開催するなどして対策の実施を呼び掛けた。また、2010年8月には8〜10月の活動のための資金として新たに2000万バーツ(約5600万円)の予算を要求した。
天敵の寄生バチの普及も進んでいる。すでに実用化の段階にあり、7月17日にはコンケン県において20万対の寄生バチがほ場に放たれた。政府だけでなく、でん粉工場など民間レベルやタピオカ開発機構(Thai Tapioca Development Institute)など関係団体でもこの天敵の普及に取り組んでおり、今後は全国各地で寄生バチの放出が行われる予定である。
さらにこの寄生バチの増殖については、専門機関だけでなく、農家レベルでも実施できる方法が確立されている(囲み記事参照)。これまでに、ボランティアなどで構成される簡易センターが全国に572カ所設置され、寄生バチの増殖や農家の相談窓口業務を行っており、来年度には約2倍となる1150カ所に増設する計画である。また、2011年には、清浄な苗を供給するため、育苗センターへの予算措置も予定されている。
2月末に調査した際は、害虫被害をコントロールできるまでの必要年数の見込みは、関係者によって意見が異なり、なかには1年以内に解決するといった楽観的なものもあった。しかしながら、今回の調査では、2〜3年ほどでコントロールできるようになるのでは、という意見でほぼ一致していた。このことからも害虫に対する知識が浸透しつつあり、タイが一体となってこの問題に取り組んでいる姿勢が感じられた。
なお、調査を行った8月時点で、タイは雨季に入り、当初の期待どおりコナカイガラムシの生息数は減少している。ナコンラーチャーシーマー県を例に挙げると、キャッサバの総作付面積185万ライ(29.6万ヘクタール)のうち、2月には約2割となる35万ライ(5.6万ヘクタール)で害虫が確認されたが、8月末時点では1%以下の1万4000ライで(2240ヘクタール)確認されるのみとなっている。
しかしながら11月以降の乾季になれば再び発生することが危ぐされており、それまでにどの程度対策を進めることができるかが重要である、と関係者は口を揃えていた。
農家レベルで推奨されている寄生バチの増殖方法
(1)細かい網目の箱にキャッサバ(かぼちゃでも可)、コナカイガラムシとともに寄生バチを入れて繁殖させる。