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でん粉の食品新素材への利用拡大に向けて

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最終更新日:2010年12月2日

でん粉の食品新素材への利用拡大に向けて

2010年12月

社団法人 菓子・食品新素材技術センター 理事長 小林 昭一

はじめに

 食品には栄養素としての働き(一次機能)や嗜好面での働き(二次機能)があるほか、近年では健康の維持・増進や生活習慣病の予防など(生体調節機能=三次機能)に役立つ成分が多く含まれていることが明らかになってきた。これらは食品新素材として各種の加工食品に利用されている。本稿では、でん粉を原料とした食品新素材の開発状況と、今後の展望などについて紹介する。
 
 なお、「でん粉」の用語については、澱粉、デンプンがあり、学術界では主としてデンプン、業界では澱粉、行政界ではでん粉が使用されているようである。本文ではでん粉を使用させて頂くが、図中では、「澱粉」の使用をお許し頂きたい。
 
 

食品新素材とは

 食品新素材とは、正に読んで字のごとしで、農林水産省では、三次機能を生み出す食品成分、またはこれらの成分を含む素材を「食品新素材」と定義し、食品新素材およびこれらを利用した食品の適正な普及を目指した施策を進めてきた。既に施策から20年以上にもなり食品新素材という用語は一般用語化している感がある。これまでに利用されていなかったものを食品素材化したもの、これまでの食品素材であっても、本素材にこれまでに知られていなかった新しい機能が見出され、この機能を食品に利用できれば、食品新素材と呼称できるものと筆者は理解している。
 
 消費者が食品新素材に求める特性は、いわゆる、健康機能が主体で、これに、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を満たす特性、物性が付与されていれば、ニーズは高くなる。勿論、食品素材としての基本的な特性を備えていることは必須である。言い換えれば、食品新素材の健康機能は独立したものではありえない。
 
 食品新素材の食品全体での位置は、付加的なものであり、主素材ではなく副素材ということになる。また、食品原材料に混合し、食品製造に利用する場合、機能性素材の機能がそのまま、または相乗的に発揮され、なおかつ、食品品質を劣化させないことは必須である。その需要量は、機能性の大きさによるが、10%から100ppmオーダー程度と考えられ、食品主原料の需要量が百万トン〜数十万トンオーダーであるから、最大でも10万トン、少ない場合は数キログラム程度であろう。
 

でん粉系新素材の種類・製法・用途

 でん粉は食品原料として優れた素材であり、経済性、貯蔵性、加工性、利用性などの面から大量に用いられている。ごく最近では、でん粉をわずかに加工して機能性を持たせ、食品原料としての使い方もできる素材も開発されている。
 
 でん粉から製造された食品新素材については、これまでに開発実用化された127種類の素材の中で、「良くわかる食品新素材」早川幸男氏他監修、(社)菓子・食品新素材技術センター食品新素材事業部幹事会編集、叶H品科学新聞社、2010年5月10日発行に、製法、規格、諸性質、安全性、および利用法について分かり易く解説されている。
 
 でん粉系素材の開発方向は、筆者の見たところ、精力的に物性、機能性に向かっているようである。加工・化工して乳化性にしたり、でん粉粒が各種成分を吸着する性質を利用した素材組合せ製品などである。物性変換ではでん粉に各種置換基を導入した、食品添加物として指定されている11種の加工でん粉が注目されている。
 
 加工でん粉は、室温では溶解しない、糊化温度が高く、加熱溶解時粘性が不安定、保存時離水などの、でん粉の欠点を改良するために、でん粉に物理・化学的、生物化学的(酵素作用)処理をしたものである。乾燥、加熱、攪拌等の処理、α-アミラーゼなどでの酵素処理、化学的加工は各種の化学物質を用いてでん粉のグルコース残基に各種の官能基を結合させたり、または、でん粉分子間、分子内架橋したもの、酸化処理をしたものである。
 
 糖質系の素材には図1のように各種のものがあり、用途は、糊料、乳化剤、増粘安定剤などである。例えば、ヘミセルロース系には増粘多糖類が多種あり、乳化安定、コク味付与などに利用されている。製品価格と利用価値のバランスで、でん粉系、ヘミセルロース系の選択が異なるであろう。図中、澱粉→1は、でん粉を原料として用い、各種素材との組合せ、加工技術ででん粉複合体を生産する方向、スクロース→2は、ショ糖を原料として用い、各種素材と組合せ、ショ糖複合体を生産する方向を示したものである。
 
 また、○は環状糖質の存在を示している。  機能性の面では、肥満が多くの疾病発症、疾病進行に関与すると言われる状況から、抗肥満素材の開発が進められてきた。でん粉系では、加工でん粉は勿論のこと、難消化性のアミロース含有率の高いアミロメイズを用いた難消化性でん粉製品、湿熱処理してでん粉を難消化性にしたもの、酸処理をした後、でん粉分解酵素で分解性部分を除去して難消化性としたものなど、多彩である。
 
 
 
 
 でん粉からの各種糖質の生産についての全体像は図2に示した。でん粉系素材の種類は、開発が進めば進むだけ多くなり際限はないが、競争素材とのバランスで、実用化は制限を受ける。最近では、酵素を用いたでん粉系素材の改質が見られ、例えば、でん粉にα-グルコシダーゼとCGTaseの2種の酵素を作用させ、グルコース数2〜35個のマルトデキストリンの非還元末端にα-1,3の分岐構造をもつ「分岐メガロ糖シロップ」が上市されている。トランスグルタミナーゼとα-グルコシダーゼを組合せてでん粉を改質したとする例もある。さらに、食感を改良して脂肪代替素材としている例もある。
 
 でん粉粒はでん粉の種類によりサイズ、形態が異なる。例えば、ばれいしょでん粉は写真(偏光顕微鏡による)のようにしっかりした結晶構造をもち、通常のでん粉分解酵素では作用を受けにくいが、ある酵素では、でん粉粒に極めて細かくて深い穴を開けることができ、この穴の中に、油脂、不安定性素材・成分などを封じ込めて利用する方法もある。
 
 筆者らは、これらでん粉粒を卵白で被覆した後、各種酵素を結合させて可食性の「固定化酵素」を調製し利用している。でん粉分解物はグルコースの重合体で、マルトオリゴ糖としての利用の他、完全分解すればグルコースとなり、グルコース自体が甘味料ともなり、さらに、グルコースを原料として用い、より有用な製品とした例もある。ポリデキストロースがその一つで、米国の製薬会社が開発した溶解性食物繊維であり、グルコース,ソルビトール,クエン酸をほぼ89:10:1の割合で混合し,高温高圧のもとで重合させた、難消化性低エネルギー素材である。すでに大量長期間に飲料などで利用されてきた。製造企業によると、日本では1983年に食品として認可されたという。
 
 
 
 

(社)菓子・食品新素材技術センターの役割

 (社)菓子・食品新素材技術センターには食品新素材事業部があり、食品新素材メーカーが開発された素材の普及を主目的とした活動で、全国各地で講演会を開催し、各種素材の特性とその利用方法などを広報している。同時に各種の情報を共有し、食品素材、新素材の開発の推進に貢献し、消費者への安全・安心の発信として試験検査事業部では、各種検査事業、認証事業としてSQマークの普及も行っている。
 
 最近の食品業界では、気候変動、原料不足、経済活動による価格高騰、消費者の生活様式・嗜好の変化などにより、消費者が求める新しいタイプの食品の開発、さらには、その素材の開発が求められているようである。
 
 食品素材メーカーが求める食品素材を、メーカーの要望に応じて(社)菓子・食品新素材技術センター・食品新素材事業部で開発し、開発素材を試験検査事業部が評価して、商品化できるように努めている。また、従来の素材についても、用途を拡大できる可能性があるものについて検討し、その結果を食品素材メーカーに提案している。(社)菓子・食品新素材技術センターのさらなるご活用をお待ちしている。
 
 

おわりに

 食品新素材という用語は1960年代にすでに注目されはじめていたが、その普及利用は遅れていたようである。その後1980年代に菓子総合技術センターによる菓子用新素材などの利用技術マニュアルの作成、90年代には食品新素材協議会の設立による素材メーカー間の開発協力、2006年には両者の合流による、現在の(社)菓子・食品新素材技術センターの誕生と、食品新素材の開発が活発に進み、これらの菓子への利用が加速されるよう関係者が努力しているところである。
 
 その成果は極めて大きなものであり、実用化からすでに10年以上を経ている商品も多い。でん粉を原料とした食品新素材の開発は、今後もさらに進んでいくと思われる。関係者としては、健康機能を有する新素材を求める際に消費者が負うリスクをできる限り少なくし、新素材を供給する側として信頼されるよう、さらに努力したいと考えている。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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