でん粉は食品原料として優れた素材であり、経済性、貯蔵性、加工性、利用性などの面から大量に用いられている。ごく最近では、でん粉をわずかに加工して機能性を持たせ、食品原料としての使い方もできる素材も開発されている。
でん粉から製造された食品新素材については、これまでに開発実用化された127種類の素材の中で、「良くわかる食品新素材」早川幸男氏他監修、(社)菓子・食品新素材技術センター食品新素材事業部幹事会編集、叶H品科学新聞社、2010年5月10日発行に、製法、規格、諸性質、安全性、および利用法について分かり易く解説されている。
でん粉系素材の開発方向は、筆者の見たところ、精力的に物性、機能性に向かっているようである。加工・化工して乳化性にしたり、でん粉粒が各種成分を吸着する性質を利用した素材組合せ製品などである。物性変換ではでん粉に各種置換基を導入した、食品添加物として指定されている11種の加工でん粉が注目されている。
加工でん粉は、室温では溶解しない、糊化温度が高く、加熱溶解時粘性が不安定、保存時離水などの、でん粉の欠点を改良するために、でん粉に物理・化学的、生物化学的(酵素作用)処理をしたものである。乾燥、加熱、攪拌等の処理、α-アミラーゼなどでの酵素処理、化学的加工は各種の化学物質を用いてでん粉のグルコース残基に各種の官能基を結合させたり、または、でん粉分子間、分子内架橋したもの、酸化処理をしたものである。
糖質系の素材には図1のように各種のものがあり、用途は、糊料、乳化剤、増粘安定剤などである。例えば、ヘミセルロース系には増粘多糖類が多種あり、乳化安定、コク味付与などに利用されている。製品価格と利用価値のバランスで、でん粉系、ヘミセルロース系の選択が異なるであろう。図中、澱粉→1は、でん粉を原料として用い、各種素材との組合せ、加工技術ででん粉複合体を生産する方向、スクロース→2は、ショ糖を原料として用い、各種素材と組合せ、ショ糖複合体を生産する方向を示したものである。
また、○は環状糖質の存在を示している。 機能性の面では、肥満が多くの疾病発症、疾病進行に関与すると言われる状況から、抗肥満素材の開発が進められてきた。でん粉系では、加工でん粉は勿論のこと、難消化性のアミロース含有率の高いアミロメイズを用いた難消化性でん粉製品、湿熱処理してでん粉を難消化性にしたもの、酸処理をした後、でん粉分解酵素で分解性部分を除去して難消化性としたものなど、多彩である。