平成22年の天候不順による北海道畑作への影響とその対策
最終更新日:2011年5月6日
平成22年の天候不順による北海道畑作への影響とその対策
2011年5月
北海道農政部食の安全推進局技術普及課 主査 久保 勝照
(現 北海道石狩振興局石狩農業改良普及センター 主任普及指導員)
はじめに
平成22年の北海道における気象は、6月以降の記録的な高温と7月・8月の多雨など不純な状況が続き、農作物も大きな被害を受けた。
本稿では天候不順によるてん菜およびばれいしょの低収要因を分析するとともに、今後の対策について検討を行う。
1 平成22年の気象経過
春(3〜5月)は寒気の影響で4月を中心に低温となり、低気圧や気圧の谷の影響で降水量が平年よりかなり多く、日照時間が平年よりかなり少なかった(低温・多雨・寡照)。
夏(6〜8月)の気温は平年よりかなり高く、降水量は平年よりかなり多く、特に7・8月は多かった。日照時間は平年並だったが、6月は多く、7月はかなり少なかった(高温・多雨・並照)。
秋(9〜11月)は概ね数日の周期で天気が変わった。夏に続いて暖かい空気に覆われ、気温は1946年以降で第2位の高温となった(高温・少雨・並照)。
2 畑作物の生育経過と作柄への影響要因
(1)てん菜
ア 生育経過
北海道全体のてん菜の生育状況について記す。
は種期は平年並であった。4月は低気圧や寒気の影響を受け、低温・多雨で推移したため、移植期はやや遅れ、特に十勝では遅れが大きかった。5月は中旬以降低温・多雨・寡照で推移し、生育はやや遅れた。6月の前半は曇天や多雨であったが、その後は晴れた日が多く、特に、下旬は高温となる日が多く、月平均気温は平年よりかなり(2.4℃)高かった。
降水量は平年並となり、遅れていた生育は平年並にまで回復した。7・8月は高温・多雨の状況下、草丈・葉数・根周ともほぼ平年並に推移した。9月も期間を通じて平均気温はかなり高かったものの降水量は少なく生育は平年並であった。10月15日現在の生育状況は、全道平均で平年に比べ3日遅れであった。
病害虫の発生状況についてみると、褐斑病の発生は早く、発病株率は8月4半旬*1以降急激に高まり(図2)、防除で抑えきれない地域も見られ、発生面積と被害面積は増加した(図3)。また、根腐病も発生が多く、特に上川・網走では発生面積が多かった(図4)。
ヨトウガの発生は、上川・十勝・オホーツクで多かった。一部地域ではシロオビノメイガも多発した(北海道病害虫防除所調べ)。
*1 半旬(ひと月を5日ごとに区切り、月初めから1半旬、2半旬と表現する)
イ 作柄への影響要因
イ−1 収量と根中糖分の低下要因
6月中旬以降の記録的な高温が収量に影響し、さらに7月以降の降雨が根腐病の発生を増加させ、さらなる収量低下を招いた。根中糖分についても記録的な高温が根中糖分低下の主な要因と考えられる。
イ−2 褐斑病の多発要因
褐斑病は、夏の高温・多湿年に多発する。本年は、9月〜10月の気温が高く、発生が助長されたと考えられる。また、褐斑病抵抗性の品種間差も大きかったが、防除のタイミングのズレによって発生が助長された。特に、オホーツクでは、春まき小麦の収穫と褐斑病防除の時期が重なり、時期を逸したほ場での多発が目立った。また、防除時期と知りながら降雨や排水不良のため、ほ場に入れずに実施できない生産者も見受けられた。連作や短期輪作圃、また、前年のてん菜栽培圃と隣接したほ場での多発も確認されている。
(2)ばれいしょ
ア 生育経過
北海道全体のばれいしょの生育状況について記す。
植付作業はやや遅れて始まり、植付期は遅れた。植付後の天候は、低温と降雨の影響を受け萌芽期も遅れた。6月は、中旬以降高温・多照で生育は回復し、着蕾期・開花期・終花期は平年並となった。
7・8月とも高温・多雨であったことから、全道平均の茎長は平年を18.5cm上回り(8月15日現在)軟弱徒長*2の生育となった(表2)。茎葉黄変期は、平年並であった。 作況圃の収量調査では、一個重の平均値は平年並であるが、十勝では大きくそれ以外の地域では小さかった。いも数は渡島では平年並であったが、それ以外の地域では少なく全道の収量は低収となった。また、各地区ともでん粉価が低下した。
病害虫の発生状況についてみると、疫病の発生は平年並であったが、8月中旬以降夏疫病が多発生した。アブラムシの発生は、平年より遅く、発生量も少なかった(北海道病害虫防除所調べ)。
*2 軟弱徒長(急速に伸張したため、柔らかくかつ長く伸びたこと)
イ 作柄への影響要因
ばれいしょは生育適温が15〜20℃と他の畑作物に比べ冷涼な環境を好む作物であるが、22年の環境は6〜8月の高温と多雨で推移したことに加え昼夜の温度格差が少なかったため、生育にとって厳しいものであった。また、萌芽期に全道で遅れていた生育は開花期までに一気に回復したため、節間が伸び徒長した生育となった。8月15日現在の作況では、特に後志は77.8cm(平年55.4cm)、オホーツクは103.8cm(平年73.9cm)と平年を上回る茎長となり、倒伏が多発生した。
作況圃の収量調査では、一個重の平均値は平年並であった。これを地域別にみると十勝では大きくそれ以外の地域では小さかった。いも数は渡島では平年並であったが、それ以外の地域では少なかった。また、各地区ともでん粉価が低下し、L規格以上のいもで中心空洞と褐色心腐が多発生した。
3 天候不順対策等について
(1)てん菜
次年度に向けて次のような課題と対策が明らかとなった。
(1)−1病気の初発を観察し、防除タイミングをつかむ事が重要である。
(1)−2ほ場の排水不良が影響して、防除や中耕除草作業ができずに病害の多発や、雑草繁茂を招いたほ場が多数見受けられた。収量・品質向上と労働軽減のためには、ほ場の排水改善対策が重要である。
(1)−3褐斑病抵抗性の違いにより発病状況に差が見られた。抵抗性品種導入の検討も必要である。
(1)−4連作は褐斑病の発生を助長する。連作を避け、4年以上の輪作を守ることが必要である。
(1)−5褐斑病発生ほ場では、被害茎葉を完全に鋤き込むなど、腐熟化をさせることが必要である。
(1)−6次年度、褐斑病発生ほ場に隣接するほ場で栽培する場合は、褐斑病の初発を注意深く観察し、防除のタイミングを逃さないよう注意が必要である。
現地事例
1 地区名:十勝総合振興局管内
2 作物名:てん菜
3 被害名:褐斑病の発生
4 被害状況
5 被害程度の差につながった要因
本年は、夏季の高温・多雨の影響で褐斑病が発生し易い状況にあった。褐斑病に対して、同じ防除を行っていても連・輪作の違いによる差は大きく、輪作(小麦後作)に比べ連作での発生被害が大きくなった。
6 被害軽減対策
○連作及び短期輪作では、各種病害の発生が多くなるので適正輪作(4年以上)を行う。
○過湿により褐斑病や根腐病の発生が助長されるので、土壌物理性の改善により透排水性を改善する。
○防除は、病害の発生状況に応じた防除時期や防除間隔を判断し、発生対応型の防除を行う。
○防除薬剤は同一薬剤の連用は避け、複数の薬剤によるローテーション防除とする。
(情報提供:十勝農業改良普及センター)
(2)ばれいしょ
今後の対策としては、以下のとおりである。
(2)−1明・暗渠を整備し、排水対策を図る。
(2)−2表面排水を促すため、心土破砕を計画的に行う。広幅式心土破砕(プラソイラ)は有効である。
(2)−3地下水位を低下させるため暗渠を整備する。無材暗渠(カッティングドレイン工法)も安価で有効である。
(2)−4堆肥や土壌改良材の施用により、畑の団粒構造化を長期的・継続的に行う。
(2)−5今年の生育状況を把握し、土壌診断も取り入れた倒伏しない施肥管理に努める。
現地事例
1 地区名:オホーツク総合振興局管内
2 作物名:ばれいしょ
3 内 容:土壌診断に基づく施肥改善
4 生育・収量・収入調査の結果
・慣行区、改善区とも生育期節はほぼ同程度であった。
・終花期の茎長では、改善区は慣行区に比べ11cm以上短かった。
・収量調査の結果では、改善区の上いも1個重がやや小さかったが、上いも収量ではほぼ同程度であった。また、でん粉価では改善区がやや高く、でん粉収量では慣行区を6%上回った。このことは、減肥により茎長が抑えられ生育に良い影響を与えたためと考えられる。
・収支の比較では、改善区は粗収入が高く肥料費が少ないことから、差額では10,592円上回った。
5 今後の対策
・土壌診断値や茎長の観察から、倒伏をさせない施肥量を検討する必要がある。
・特にてん菜の後作では、茎葉の養分が残るため施肥量の検討がより重要である。(情報提供:網走農業改良普及センター)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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