カンボジアのキャッサバ生産動向
最終更新日:2011年6月10日
カンボジアのキャッサバ生産動向 〜広がる役割と急がれる病害虫対策〜
2011年6月
日本財団バンコク 間遠 登志郎
要約
近年、カンボジアにおいてキャッサバ生産は伸び続けている。特に、2003年頃から近隣国への輸出が開始されて以来その生産増加は著しい(表1)。こうした変化は、カンボジアにおいてキャッサバが従来の食用に加え、家畜飼料、でん粉加工、エタノール原料といった産業用作物としての役割をより多く担うようになってきた事を示している。
現在、キャッサバ生産が集中しているコンポンチャム(Kampong Cham)州とバッタンバン(Battambang)州での生産増加要因としては、近隣国からの需要増を背景にしたキャッサバ栽培面積の拡大と高収量品種の導入が挙げられる。カンボジアでは、キャッサバの国内利用として、従来の食用に加え家畜飼料用の需要も伸びている。こうしたキャッサバ加工品需要の好調は続くと思われるが、そうした機会を引き続き活かすためにも、懸案となっている病害虫被害に対して早急に現状被害の把握と技術に裏付けされた対策を立てる事が望まれる。
1.カンボジアのキャッサバ生産推移
カンボジアの農業は、稲作が際立って大きな役割を果たしている(表1)。生産量では稲作が主作物生産量の60%、栽培面積では80%を占める。それに続いてキャッサバ27%(生産量)、4.9%(栽培面積)、とうもろこし8%(生産量)、6.8%(栽培面積)となっている。キャッサバは1999年に大きな増加を見せ、一度停滞した後に2003年以降回復して、2006年からはさらに大きく増加している。
国内生産量の約49%(2007年)を占めるコンポンチャム州はベトナム国境にも近く、流通業者を介して多くのキャッサバとでん粉が輸出されている。続いて生産量約20%(2007年)を占めるバッタンバン州では、周辺地域で進められてきた地雷除去活動のお陰で畑作面積が次第に増えて来た事と、タイ国境周辺で活動する流通業者を介して多くのキャッサバ芋がタイに輸出されている。バッタンバン州内、特に、タイ国境に近い地域はクメール・ルージュ軍の拠点だった事から1990年代後半まで激しい戦闘が繰り広げられ、多くの地雷が埋められた地域である。日本をはじめ多くの国々からの地雷除去支援活動が行われ、農家が安心して畑を耕せる地域が少しずつ広がってきている。
2.キャッサバの国内飼料利用
輸出産品としてのキャッサバが注目されている中で、国内消費として食用や家畜飼料利用の重要さも忘れてはならない。2008年に行われたカンボジア農業研究機構によって行われた農村調査では、ベトナム市場に近いコンポンチャム郡のキャッサバ栽培農家は主に販売目的(99.3%)で栽培している一方、タイ国境に近いバッタンバン郡では調査農家の26.5%が自家消費、そして、2.1%が家畜飼料用目的として栽培している。
キャッサバ栽培農家の多くが販売目的に栽培しているコンポンチャム郡においてもキャッサバの家畜飼料利用が全く行われていない訳ではない。ベトナムとカンボジア民間会社の共同出資で2009年にコンポンチャム市内に建てられた飼料加工工場Green Feed Co.,Ltd.は地元流通業者からとうもろこし、キャッサバ、コメなどを調達して3,000トン/月の養豚・養鶏用飼料を製造し、コンポンチャム郡内にある20の卸売り店を通して加工飼料を販売している。現在、飼料製造に使われるキャッサバの配合率は10%だが、それに使う原料として4,000トン/年のキャッサバ(乾燥チップ)を地元流通業者から購入している。つまり、農家が販売したキャッサバが輸出されずに郡内で飼料に加工され販売されている。
また、コンポンチャム郡は小規模キャッサバ加工場が集積している事でも良く知られている。こうした小規模キャッサバ加工場ででん粉のほかにデザートとして消費されるサゴなどが製造され地元や首都プノンペンの市場に出されている。(写真1)コンポンチャムからのサゴは市場でも良質として知られている。
3.病害虫対策
タイではコナカイガラムシ(Cassava Mealybug)被害への対策として、農家が作付け前にPlanting Materialを薬剤に漬けて洗浄することや、生物的防除(Biological Control)を2010年から既に導入している。カンボジアでは、コナカイガラムシの広がりが報告されているが、まだ、はっきりした対策が立てられていない。こうした中で、作付け期が近づくと、ベトナムとタイ両国から流通業者を介して検疫を受けていない栽培用茎が多く輸入・販売されている。流通業者を通してタイから茎を買ったという農家ではコナカイガラムシが認められた(写真2)。
コナカイガラムシが広がっていく中で、良質なPlanting Materialの確保・入手が難しくなってきている。そうした中、熱帯農業センター(Ishitani, M., CIAT)では、「細胞培養」技術を使って病害虫の無い栽培用茎を増産する方法の導入を計画している。カンボジアでも既に「組織培養」によって蘭やバナナなどの増産は既に行われており、そうした施設を使えば新たな施設を造らずに病害虫の無いキャッサバの栽培用茎の増産も可能となる。病害虫対策には総合的な取り組みが地域として行われる必要があり、早急に地域間協力としての情報の共有と対策が望まれる。
参考文献
カンボジア国農業年報2008年、2009年、2010年
Proceeding of the 8th Regional Workshop held in Vientiane, Lao PDR, Oct 20-24th, 2008
“A New Future for Cassava in Asia” sponsored by The Nippon Foundation
-Howler, H. Reinhardt. “Cassava in Asia”
-Sopheap, Ung. “Current Situation and Future Potential of Cassava in Cambodia”
-Sotheary, El. “Result of the Cassava Survey in Cambodia”
-Alvarez, Elizabeth. “Cassava Disease in Latin America, Africa and Asia”
-Bellotti, A.,“Three Major Cassava Pests in Latin America, Africa and Asia”.
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