種子島におけるさとうきびおよびでん粉原料用かんしょ生産の現状
最終更新日:2011年10月7日
種子島におけるさとうきびおよびでん粉原料用かんしょ生産の現状
〜輪作体系再構築に向けた取り組み〜
2011年10月
調査情報部 中司 憲佳
鹿児島事務所 所長代理 一丸 忠生
【要約】
種子島農業の中心作物であるさとうきびおよびでん粉原料用かんしょは、以前から病害虫のまん延防止や連作による地力低下を避けるため、交互に作付けされてきたが、現在、その輪作体系のバランスの崩れが生じて島内経済にとって深刻な問題となりつつある。こうした事態を打開するために、関係機関が連携して、輪作体系の再構築に向けた取り組みを始めている。
はじめに
種子島におけるさとうきびは、機械収穫の推進や農業生産法人の組織化により栽培面積と生産量を拡大してきたものの、でん粉原料用かんしょは、近年、生食用の「安納いも」などの新興作物の台頭やさとうきびなどへの作付け変更で栽培面積は減少傾向にあり、でん粉工場の操業率も低下している。
このような状況下、基幹作物であるさとうきびとでん粉原料用かんしょをとりまく状況、その背景、地域の対応、輪作体系の再構築への取り組みなどについて紹介する。
1.種子島の概要
種子島は、総面積4万5390ヘクタール、北北東から南南西の方向に細長く伸びた中くびれの紡錘型の形状で、北東部および南西部は海抜200メートル前後の丘陵性の山地が連なり、最高点は282メートルという平坦な島であり、鹿児島市の南方約115キロメートルの海上に位置する。西之表市、中種子町、南種子町の1市2町で構成されており、総人口は約3万4000人である。
気象は、年平均気温19.6℃、年間降水量2345ミリメートル、年間日照時間1804.2時間の亜熱帯性気候であり、沿岸部は1年中ほとんど霜が降りない地帯が帯状に取り巻いている。
土壌は、黒色火山灰土が大部分であるが、温暖多雨条件が加わって過湿になりやすく、浸食度が大きいので、地力が消耗しやすい。このため、深耕や有機質肥料投入などの対策が必要な畑地が多い。
平坦な畑地が多いことから、さとうきび、かんしょ、畜産を組み合わせた複合経営が盛んであり、島全体の農業生産額161億円(平成21年度)のうち、さとうきびが39億円、かんしょが29億円、肉用牛が24億円となっている。また、総作付面積8800ヘクタールのうち、さとうきびが2500ヘクタール、かんしょが2400ヘクタール、飼料作物が1300ヘクタール、米(水稲)が1200ヘクタールとなっている。さとうきび、かんしょ、肉用牛の3作目で島全体の生産額ベースの約57%を占めている。
2.品目別経営安定対策に係る種子島の状況
さとうきびおよびでん粉原料用かんしょに係る生産者交付金交付対象者要件区分別の生産者数の推移を見てみると、両作物の生産者とも全体数が減少する中で、認定農業者(A−1・B−1)が増加するなど、制度の適用を通じて担い手の育成が図られていることがうかがえる。
また、制度開始当初に受託組織等が存在しない地域における特例として、担い手の育成を目的とする組織の参加者(A−5・B−5)も交付対象者とする特例が設置されていたが、この特例が21年産で終了することを踏まえて、産地が将来に渡って安定的な生産ができるよう、共同利用組織や作業受託組織の範囲の拡大、基幹作業の種類の追加等の要件の見直しが行われた結果、さとうきびについては共同利用組織の活用や作業受委託の促進が図られ、共同利用組織の構成員(A−3)、基幹作業の委託者(A−4)がそれぞれ19年産と比較して3倍近く増加した。一方、でん粉原料用かんしょについては、基幹作業の委託者(B−4)も19年産と比較して3倍近く増加した。
しかし、さとうきびの作付面積が増加傾向であるのに対し、でん粉原料用かんしょの作付面積は減少傾向にある。これは近年、「安納いも」などの新興作物の台頭や機械収穫が普及しているさとうきびなどへ作付転換によるものである。
3.輪作について
(1)輪作体系の現状
これまで両作物は病害虫のまん延防止やさとうきび連作による地力低下を避けるため、交互に作付けされてきたが、現在、その輪作体系のバランスが崩れつつあり、輪作体系の再構築が求められている。
農家の大規模化による作物(さとうきび)の一本化、さとうきび収穫機械の普及による収穫作業の効率化、株出管理機が普及し株出管理作業の軽減による株出し周期の延長などでさとうきびの作付面積が増加した一方、でん粉原料用かんしょは農家個人の栽培技術による収量差が歴然となることへの懸念やブームにも後押しされ取引単価が高い「安納いも」への作付転換などによって、でん粉原料用かんしょの作付面積が減少することにより輪作体系のバランスが崩れてきている。
(2)輪作体系の崩れがもたらす問題点
こうしたバランスの崩れは、生産者とともに一体となって地域経済を担う国内産糖および国内産いもでん粉製造事業者、関連産業の事業運営にも影響を及ぼすため、島内経済にとって深刻な問題となりつつある。具体的な問題点は、以下のとおりである。
1)前述のとおりさとうきびを長期連作すると収量が低下する。
2)さとうきびの面積がこのまま増加すると、さとうきび生産量の増加に伴い、製糖工場は操業期間を長期化する必要があるため、操業開始時期を現在の12月から11月へ繰り上げることを検討する必要も出てくる。早期高糖品種である農林22号の普及が十分とはいえない現在の状況で11月に操業が実施された場合、さとうきびは糖度が十分上がらないまま収穫することとなり、農家は手取り額の減少、工場は糖度の低いさとうきびの搬入による歩留まりの低下など、さまざまな問題を抱える可能性がある。
3)でん粉原料用かんしょの面積がこのまま減少すると、原料処理量の減少により島内のでん粉工場の操業率が低下することとなり、その存続が危ぶまれる。
4)でん粉原料用かんしょの植え付けは、さとうきびの収穫後の株出管理作業、新植作業(春植え)、水稲作業(3〜4月)などに追われ、現在でも早期(4月植え付け)の実施が難しく5月中旬から6月下旬の植え付けとなっており、生育期間の短期化が収量に影響を与えているが、さとうきびの作付面積が増加すれば、かんしょの植え付け作業時間をさらに圧迫する可能性がある。
4.輪作体系再構築に向けた取り組み
こうした事態を打開するため、同島の農業関係者は、さとうきびおよびでん粉原料用かんしょに関するすべての情報を連絡協議会、行政、支庁、JAなどで共有するとともに、生産者および関係機関が連携をして両作物の安定生産を目指し輪作体系の再構築に向けた取り組みを始めた。主な取り組みについて紹介する。
(1)中種子町きび甘藷振興会の取り組み
さとうきびとの輪作の重要性を生産者に再確認してもらい、単収向上を図りながらでん粉原料用かんしょの作付面積維持・拡大および基本技術の普及・啓発に努めている。具体的には、無病苗の普及および早期植付けや肥培管理など収量向上に結びつく栽培技術の導入推進を目的に、傘下の8支部(工区)独自に育苗講習会(1月)、土壌酸性化対策学習会(8〜9月)などを開催するとともに、農家の生産意欲を喚起し単収向上を目指すため各支部が連携し、でん粉原料用かんしょの競作会なども開催している。
(2)農業開発総合センター熊毛支場の取り組み
鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場の作物研究室では、北限さとうきびの品種選定と省力・低コスト・高品質生産技術の開発、「安納いも」などの高品質・安定多収技術の開発などさとうきびおよびかんしょの生産振興に寄与している。その中でも同島では従来からさとうきびとかんしょが輪作により共存・共栄関係を築いてきたものの、最近、でん粉原料用かんしょの早期植え付け(4月植え付け)が、さとうきびの収穫後の株出管理作業、新植作業(春植え)、水稲作業(3〜4月)などに追われ出来なくなっている現状があり、輪作体系再構築に向け、でん粉原料用かんしょの早期植え付けのためさとうきびの株出管理作業の効率化やでん粉原料用かんしょの収量確保などの取り組みを行っている。以下に具体的な取り組みを紹介する。
1)さとうきび
種子島のさとうきび生産は、収穫後早期の株出し管理とマルチ栽培が基本である。ハーベスタ収穫が7割を超え収穫残渣(ハカマ)が残った状態では株出し管理の障害となるため、その多くは焼却処理されているが、この焼却作業に伴い火災や事故が発生し問題となっている。同支場では、安全で省力的なハカマ処理と株出し管理のため、株揃え後、ディスクタイプの根切り排土機を使用することを提案している。同機の使用によって効率よくハカマのすき込みができ、その後のマルチ被覆も可能となり、ハカマ処理に要する時間が不要になるので、株出し管理作業は従来の1/4の時間で完了するなどのメリットがあるとしている。
北限地である種子島の畑地の多くは降霜地帯に位置するため、地温を上昇させるため春植え・株出し時にマルチ栽培が行われている。同支場では、このような地域的特性から農林8号や22号は、春植え・株出栽培においてマルチ栽培を行えば3回の株出しは可能としている。農林8号のみが無マルチ栽培が可能としており、農林18号の導入により労働力の分散化・省力化を推進しており、品種の適期更新を推奨し安定多収生産を目指している。
2)でん粉原料用かんしょ
現在、種子島では前述のさとうきびの基幹作業などにより、でん粉原料用かんしょの植付け時期が遅延する傾向にあり、従来のでん粉原料用品種の収量を確保できていない実状がある。同島における平均的な収量は55〜60俵(約2200kg:1俵=37.5kgで換算、以下同様)/10aであるが、早植えと基本技術の励行で収量は倍にすることが出来るとしている。具体的には、優良種苗で種いも作り(種いも更新)と早めの苗床準備(2月に伏せ込み)を行う。土壌ph値、マルチ栽培、早期植え付け、優良種苗のすべてが揃うと150俵(約5600kg)/10aまで収量が上がるとしている。奨励品種は重量型ではなく個数型の「ダイチノユメ」を早植えすることで、苗の植付け本数を少なくし、安定収量を確保できるとしている。こういった事項を生産者に紹介し、収量の安定化を目指している。
(3)その他関係機関の取り組み事例
このほか、種子屋久農業協同組合、種子島地区さつまいも・でん粉対策協議会といった他の機関も輪作体系再構築のため、さまざまな取り組みを行っている。以下に具体的な事例を挙げる。
・生産者大会時や各地区振興会の研修会を開催し、高収量を得るための基本的な栽培技術や輪作の必要性を周知。(種子島地区さとうきび振興会連絡協議会、種子島地区でん粉原料用甘しょ部会、種子屋久農業協同組合等が主催して行う各種研修会)
・収穫作業の省力化のため、地域振興推進事業(でん粉原料用さつまいも省力機械整備事業)を活用し、収穫機械を平成23年度に2台導入(約500万円、1/2補助)。(有限会社永松産業、平山からいも生産組合)
・植え付けの遅れや土壌酸性化などにより収量が低いことが問題となっているので、ウイルスフリー苗利用やマルチ栽培に取り組み単収向上を図るため、地域振興推進事業(でん粉原料用さつまいも生産性向上事業)を活用し、実証ほを1市2町に設置。(種子島地区さつまいも・でん粉対策協議会)
・平成23年度から、でん粉原料用かんしょの収穫作業の軽減を図るために、尻根部分の除去をせずに集荷できるように改善し、それに伴う歩引きは実施しない。(種子島地区原料用甘しょ一元集荷連絡協議会)
・原料代の取引価格を289円/俵*注)に1円(でん粉工場負担)を上乗せして290円/俵に設定。(種子島地区原料用甘しょ一元集荷連絡協議会)
*注)平成23年度の原料代7683円/トンを俵換算
おわりに
さとうきびおよびでん粉原料用かんしょは、種子島の地域農業を支える基幹作物であるとともに、農家および地域経済を支える重要な作物である。同島では、両作物の輪作体系再構築のため、すべての情報を連絡協議会、行政、支庁、JAなどで共有するとともに、生産者および関係機関が一体となって両作物の安定生産を目指している。
さとうきびおよびでん粉原料用かんしょを取り巻く環境は厳しく、今後の同島の農業振興には困難を伴うことも想定されるが、関係者の方々の努力で種子島の農業が共存し発展することを望みたい。
最後に、今回の取材に対し、お忙しい中ご協力していただいた種子屋久農業協同組合本所経済部販売生産課石堂課長、鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場上野作物研究室長、中種子町きび甘藷振興会西田会長ほか関係者の方々に深く感謝いたします。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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