ばれいしょ生産コスト低減に向けて
最終更新日:2012年6月11日
ばれいしょ生産コスト低減に向けて
〜ソイルコンディショニング栽培用セパレータの開発〜
2012年6月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター
生産システム研究部 市来 秀之
【はじめに】
ばれいしょの収穫機は、機上で土塊・石礫を選別するための作業者が必要で、投下労働時間に多くを要します。そこで生研センターは、播種前に土塊・石礫を除くソイルコンディショニング栽培法において、簡素で北海道の栽培様式にあった日本型セパレータを開発しました。開発機を基に、さらに改良を加えられた、低価格な国産セパレータが市販化されていますので、その概要をご紹介します。
1.開発の経緯
北海道輪作体系の基幹作物であるばれいしょの収穫機は、収穫物と同時に土塊・石礫を掘り上げ、バーコンベアで機上に搬送する構造となっています。搬送中に、径が概ね30mm未満のものは、コンベアの隙間から落下しますが、それ以上の土塊・石礫は収穫物に混入して、機上まで上がってしまいます。そのため、それらを選別・排除するのに、通常3〜6人の作業員を必要とします。また、土塊・石礫が多く、選別作業が追いつかない場合は、作業速度を下げての対応となり、能率が低下します。このように、土塊・石礫の混入は、投下労働時間を増大し、生産コストの増加、経営規模拡大の障害となってしまいます。
近年、英国ではばれいしょの播種前に播種床から大きな土塊、石礫を取り除く、新しい播種床造成栽培法(ソイルコンディショニング栽培法)が開発されました。この技術により、畝内の土塊、石礫が減少し、収穫機にあがってくる土塊、石礫が大幅に減少します。そのため、収穫時の選別作業員を削減、および収穫機のフル稼働が可能となり、大幅な省力化が図れます。北海道には、この技術を導入している農家がいくつかあり、良い評価を得ていますが、機械が輸入機のみで、価格が高いという普及上の問題点がありました。
2.ソイルコンディショニング栽培法の概要
ソイルコンディショニング栽培法は、ベッドフォーマで土寄せ作業を行い(図1−1)、その後セパレータで砕土・石礫分離作業を行って播種床造成し(図1−2)、深植えポテトプランタで植え付けと同時に培土を行う(図1−3)技術です。もう少し詳しく説明すると、2対の相対する土寄せ板を有するプラウに似たベッドフォーマで耕起し、谷部、および反転した土で三角形の山部を形成します(図2)。次に、セパレータで山部1列をまたいで走行し、土塊を掘り取り、機体内に土塊を搬送し、砕土するとともに、小さな土塊・石礫をふるい落とし、播種床を造成します。一方、落下しなかった大きめのものは、さらに後方で選別し、中ぐらいのものは谷部に排出します。ふるい落ちなかった大きな石礫は、タンクに回収し、ほ場外に持ち出します。
3.輸入セパレータの概要
これまでに国内で輸入実績のあったセパレータを紹介します。主なものは、Megastar RPS-2と、CombiStar CS1500です。国内での普及台数は、20数台と見られます。RPS−2(図3)は、英国ピアソン社(現、STANDEN PEARSON社)製で、一方、CS1500は独国GRIMME社製です。詳しい説明は省略しますが、両機種とも欧州の様々な畝幅形態に対応するため、輪距が1.5〜1.8mに調整可能な構造となっています。
4.農家でのセパレータ作業状況
北海道芽室町、新得町、津別町、斜里町の4地域で、畑地のうち面積割合の多い黒ボク土、褐色低地土、褐色森林土で本栽培法を導入、または導入を予定している農家2件、農業法人3件、営農集団(農家17戸)1件の合計6件を対象に、セパレータの作業状況を調査しました。対象農家の概要は、経営面積は45〜210ha、ばれいしょの作付面積は、8〜182ha、労働力(常時)は、3〜37人、所有トラクタは150PS以上が1戸平均で1.1台、80〜120PSが4.6台、80PS未満は3.7台でした。農作業については、労働力の確保は困難な現状である、春と秋に作業が集中する、出荷時期が決まっている作目もあり、特に秋は厳しいスケジュールで作業を行っているとのことでした。
セパレータの作業状況の調査結果は表1、概要は次のとおりでした。
1)作業速度:平均0.76m/s
2)設定畝幅:1.5、1.6、1.7mの3種類
3)平均畝深さ:36.6cm
4)播種床の平均土塊径:黒ボク土ほ場で6.4mm、褐色低地土ほ場で7.2mm、褐色森林土ほ場で9.0mm
5)1ha当たりの畝間への排出土塊量:黒ボク土0.7t/10a、褐色低地土5.4t/10a、褐色森林土3.1t/10a
5.日本型セパレータの試作
調査結果等を基に、日本型セパレータの開発目標を次のとおりとしました。
1)作業速度は、0.6〜1.0m/s程度
2)作業後の畝深さは、35〜40cm程度(播種床土量の確保)
3)畝間に排出する土塊量は、最大でも3t/10h程度(播種床土量の確保)
4)砕土・石礫分離部内幅の最小化(コストのかかる星型ディスク(輸入品)の削減)
5)輪距は固定(北海道の慣行畝幅に合致)
6)土壌の流れを制御する機構を簡素化
これら目標の下、砕土・分離部の内幅が輸入機より約7%狭く、星形ディスク総数が9%少ない試作1号機(図4、全長:6.73m、全幅:2.60m、全高:2.05m)、および砕土・石礫分離部の内幅が輸入機より約10%狭く、星形ディスク総数が12%少ない試作2号機(図5、全長:6.64m、全幅:2.60m、全高:2.39m)を試作しました。対応畝幅は両者とも1.5〜1.6mです。粉砕ローラの砕土性能の向上を図るため、1号機は偶数列の粉砕ローラの回転速度を、奇数列に比べて10%減速できるようにしました。2号機では、粉砕ローラを減速させる他、土壌の流れに抵抗を与えるため、偶数列の高さを奇数列に比べて6cm高くし、さらに飛散した土塊がなるべく粉砕ローラに接触するように、上方に肉厚のゴム板で覆いました。
基本的な構造、機能の概略を説明します。試作機はトラクタけん引式で、前方にトラクタのドローバーに接続するけん引部があり、処理部と頑強なフレームで接続されています。けん引部には機体昇降油圧シリンダが配置され、ドローバーを支点として作業機を昇降し、作業時には掘り取り深さを調整します。フレームの内側にはゲージ輪があり、掘り取り深さの変動を抑制します。処理部の前方にはショベル型の掘り取り刃があり、これにより土壌を掘り上げます。砕土・分離部には星形ディスクを29枚、または30枚連ねた粉砕ローラーが12列並んた星形ロールコンベアが配置され、掘り上げた土塊を後方に搬送しながら砕土するとともに、星形ディスクの隙間から粉砕した土壌をふるい落とします。ふるい落とされなかった土塊・石礫は、更に後方の選別ローラの隙間から100mm未満のものとそれ以上のものにふるい分けします。ふるい落とされたものは、クロスコンベアと呼ばれる横送り機構で搬送し、未造成側の谷部に排出します。往復作業時は排出する方向が左右逆になりますので、クロスコンベアの張り出し、および回転方向は切り替えて使用します。落下しなかった大きな石礫は、機体最後部にある石礫タンクに回収し、ほ場外などの場所にダンプさせ排出します。機体昇降油圧シリンダ、クロスコンベアの張り出し、回転方向、石礫タンクの油圧ダンプの作動は、オペレータが手元でコントローラにより操作します。
6.試作機の性能
(1)砕土・石礫分離性能
セパレータの重要な性能の1つは、砕土・石礫分離性能です。掘り上げた土塊を粉砕して、ふるい落とす機械ですから、畝間に土塊が少ないほど性能が良いと考えられます。2005年に1号機を用いて(対照区はRPS−2)、新得町農家ほ場(褐色低地土)でこの試験を行った結果、粉砕ローラの回転速度に差をつけた方が砕土性能が良かったものの、畝間排出土塊量は約4.0t/10a(対照区は2.2t/10a)とやや多めでした。次の年、2号機を用いて同様に、試験を行った結果、対照区の3.1t/haに比べて、2号機で天板が有区が0.5t/haと少なく、無区でも2.9t/10と遜色のない性能を示しました。
(2)実証試験
北海道新得町と芽室町において、1号機、2号機で播種床造成後、トヨシロを播種する実証試験を2006から4年間行った結果、全ての試験で収量、品質は対照区に比較して遜色がありませんでした。また、実証試験における収穫機に上がる土塊・石礫混入量は慣行区が49〜965kg/10aであったのに比較して、試作機区0.0〜76kg/10aとなり、大幅に少なくなりました。収穫作業にかかった投下労働時間は慣行区64.0〜86.2人時/haに対し、試作機区36.5〜45.9人時/haと30%減から半減となる結果が得られました。
7.おわりに
東洋農機(株)の協力を得ながら、試作、性能試験、実証試験を行い、北海道のばれいしょ栽培様式に適合した日本型のセパレータを開発しました。この試作機を基に、同社がさらに改良を加え、2008年から国産セパレータを輸入機よりも低価格で販売しています。ばれいしょの生産コスト低減に役立てば幸いです。なお、本開発は、農林水産省委託プロの「担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発」により行いました。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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