地域連携によるでん粉の用途拡大
最終更新日:2012年7月10日
地域連携によるでん粉の用途拡大〜低カロリー食品への利用〜
2012年7月
調査情報部 中司 憲佳
鹿児島事務所 丸吉 裕子
【はじめに】
国内産いもでん粉の用途として糖化製品向けが高い割合を占める中、でん粉工場の収益性の向上、ひいては生産者の経営安定を図るため、糖化製品用からより市場評価の高い加工食品用等への販売用途の転換を促進することが必要となっている。
このような状況下、地域で連携して商品の高付加価値化・販路拡大を目指す取り組みを行っている鹿児島県食料産業クラスター協議会の概要、かんしょ澱粉が膨化する性質を利用したスナック菓子を製造・販売する昭和製菓(株)の同協議会への参加によるスナック菓子開発の背景、同菓子の特徴、今後の課題等について紹介する。
1 鹿児島県におけるでん粉産業の位置付け―地域経済を支えるでん粉産業―
(1)でん粉原料用かんしょ生産の概要
鹿児島県では、温暖な気候や広大な畑地などの特徴を生かした多様な地域特産農産物が生産され、平成22年度の県全体の農業算出額は4011億円、全国第4位の地位を誇っている。同県の農業において、かんしょは畑作地帯における輪作体系や防災営農においても重要な作物となっている。平成22年度のかんしょ産出額は171億円に上っており、耕種部門では米、茶と並ぶ主要作物となっている(表1)。また、平成23年産のかんしょ生産量は35万トン、作付面積は1万4000ヘクタールと、ともに全国第一位であり、このうち、でん粉原料用かんしょの生産量は14万8800トンで県内かんしょ生産量のおよそ43%を占め、でん粉原料用かんしょの作付面積は5450ヘクタールで県内かんしょ作付面積のおよそ39%にあたる(表2)。
(2)かんしょでん粉製造について
平成23年産のかんしょでん粉製造数量は、鹿児島県内のでん粉を製造する19工場合計で約4万4000トンを見込んでいる(表3)。同県下にはこのでん粉を加工する事業者も多数あり、でん粉産業が同県の地域経済において重要な役割を担っていることが伺える。
2 鹿児島県食料産業クラスター協議会の取組
―地域における「産学官」の連携によるかんしょでん粉用途拡大支援―
鹿児島県では、盛んな農業生産活動に関連して、食品関連企業も地域経済を支える重要な産業となっている。近年食品関連企業は、食の安心・安全の確保や多様な消費者のニーズに対応するため、地域食材を活用した商品の新規開発や販路拡大が求められている。県内の生産者と加工・流通関係企業、研究機関、行政等の連携を図り、県内の農水産物を活用した、高付加価値食品の供給を推進することにより、地域食料産業の活性化を図るべく、平成17年度に鹿児島県食料産業クラスター協議会が設立された。同協議会は、図のとおり複数の産学官の組織が連携して運営されている。
同協議会では、農林水産省の補助事業を利用し、県内食品企業による県産農畜水産物を活用した新商品開発の促進やマーケティング、人材育成のほか農商工等連携に向けた情報交換会・各種研修会・講習会等の開催を行っている。また、関係研究機関が開発した技術を公表するセミナーや、「かごしま食&アグリマッチングフェアー」等の商談会を開催するなど、地域特産農産物の利用拡大と地域食品関連企業による商品の高付加価値化を促進する橋渡しを行っている。
同協議会の事務局が置かれている鹿児島県農産物加工推進懇話会は、昭和62年に設立され、かんしょの加工研究からその活動を開始した。現在も同協議会内で「さつまいも加工研究会」として活動が続けられており、青果としてのかんしょやかんしょでん粉を使用した新しい技術の提供と商品開発・販路拡大に向けた活動が行われている。
3 昭和製菓(株)の取組
(1)かんしょを使った低カロリー食品開発の背景
かんしょ加工品は、和菓子、洋菓子、油加工品など多種多様な新製品が毎年市場に投入されているものの、古い商品が姿を消し、全体としてかんしょ加工品の消費量は変わらないため、加工用途の需要は横ばい状態である。一方で、じゃがいもやとうもろこしを原料としたスナック類は、消費者に好まれ消費を伸ばしているが、脱メタボリック症候群に向け健康に留意した低カロリー商品の開発が進んでいる。このような中、健康によいイメージを持つかんしょ食品に改めて注目が集まっているが、手軽に食べられるチップや芋かりんとう等のかんしょ加工品は高カロリーであり、低カロリー食品の開発が望まれていた。
かんしょを原料とした油を使わないスナック菓子製造については、これまで鹿児島県農産物加工研究指導センターにおいて、特殊な機械による製造技術を開発したが、コストの面から実用化に至っていない現状にある。このため協議会では、専門的知見を持つ同センターと連携し、鹿児島県特産のかんしょを主原料に、加熱によりでん粉が膨化する性質を利用し、より安価で簡便な膨化スナック製造法の開発と新商品開発を図ることとした。
(2)かんしょでん粉を活用したスナック菓子の特徴
かんしょでん粉が膨化する性質を利用したスナック菓子「こんがりとんスナック」は、鹿児島県産素材のかんしょの品種「紅さつま」と「むらさき芋」による二種類の原料に、鹿児島県産のかんしょでん粉を原料とした加工でん粉を加えて製造している。かんしょの皮を焼成混合することで製品の不揃いを解決し、風味が向上したということであった。「紅さつま」は、この地域でよく採れ1年中手に入ることから、このスナック菓子に使っているとのことであった。
このスナック菓子は、鹿児島県が技術開発した新製法で膨化(膨張剤、乳化剤、卵等不使用)させ、油脂、小麦粉を使用せず、かんしょの風味、色彩をそのまま活かし、食物繊維の豊富な低カロリー食品として軽い食感に仕上げたスナック菓子である。 商品名と菓子の形状については鹿児島県の黒豚が、かんしょをたくさん食べることで、品質の良い豚(六白黒豚をイメージ)となることにヒントを得て、決定された。
(3)平成23年度優良ふるさと食品中央コンクール受賞
近年、消費者の健康、本物、ふるさと志向が強まり、優れたふるさと商品に対する関心が高まっており、これを生産している地域の食品産業は、地域経済における基幹的産業として地域の活性化、農産物販路の安定的提供先等の役割を果たしている。こうした中、ふるさと食品の品質向上等を目的とした平成23年度(財)食品産業センター主催の「優良ふるさと食品中央コンクール」において、かんしょでん粉を活用したスナック菓子を鹿児島県食料産業クラスター協議会の推薦によって同コンクールに応募したところ、原料にはかんしょを7割使用していることから、鹿児島県ならではの特産品としてスナック菓子にとどまらず、今後の用途拡大への期待も込めて新技術開発部門の農林水産省食料産業局長賞を受賞した。
(4)今後の展望
現在かんしょでん粉を使用した商品には原料として「コガネセンガン」を使っている例が多い。1年中手に入りやすい「紅さつま」を使用することで、「コガネセンガン」を使用するよりある程度安いコストで商品化できるが、さらなるコスト低減のための生産ライン(量産化)の確立が望まれる。菓子の流通ルートは限られているので、昭和製菓では独自ルートの開発や飲食店向けなどに新たな用途拡大に向けた試作を行うとしている。その他の課題として、市場評価の強化と製品PRなどを挙げていた。さらに、「こなみずき」の用途拡大への取組みとして、東北大学との共同研究によりかんしょを使った新たな製品の開発を行うとのことであった。
また、低温糊化性でん粉品種「こなみずき」を原料として使う場合は有機栽培を前面に打ち出し、消費者ニーズや海外ビジネスにも目を向けたり、他業者と連携を図りながらかんしょでん粉の新たな可能性を探っていきたいとのことであった。
4 おわりに
でん粉原料用かんしょは、鹿児島の地域農業を支える基幹作物であるとともに、農家および地域経済を支える重要な作物のひとつである。
糖化製品用からより市場評価の高い加工食品用等への販売用途の転換を促進するため、今回紹介した地域における「産学官」連携によるかんしょでん粉用途拡大のための枠組みも出来ている。実需者ニーズに即した更なる品質の向上を図るとともに低温糊化性、低老化性等の新たな性質を持つでん粉を含有する新品種「こなみずき」を活用し、新たな需要の拡大に期待するところである。
当機構も生産者、JA、でん粉製造業者など関係者に対して、新たなでん粉の用途について、幅広く情報を収集し、さまざまな事例などの情報を提供していきたいと考えているので、皆様のより一層のご協力をお願いしたい。
最後に、今回の取材に対し、お忙しい中ご協力していただいた昭和製菓株式会社常務有村洋三氏並びに関係者の皆様に深く感謝いたします。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713