でん粉製造設備について
最終更新日:2012年9月4日
でん粉製造設備について
〜かんしょでん粉とばれいしょでん粉製造における役割〜
2012年8月
北斗工機株式会社 代表取締役社長 室井 孝仁
【要約】
平成21年鹿児島県大隅半島の鹿屋、平成23年には薩摩半島の知覧に、大型かんしょでん粉工場が建設されました。
かんしょでん粉製造の基本工程は、ばれいしょでん粉と同じですが、かんしょとばれいしょは全く違う生き物です。すがた形も性格も全く違います、従って同じ機能を持つ機械類でも、かんしょ特有の物性に対して求められる性能は、ばれいしょの場合とは異なります。
原料かんしょはポリフェノール分を多く含み、製品であるでん粉の粒径もばれいしょでん粉に比べて小さいことから、工程にも、機械の選定にも、独自の操作や考え方が必要です。本稿では主に前述の鹿屋、知覧のかんしょでん粉工場で用いられている製造機械について概説するとともに、以前から弊社が関わっており、かんしょでん粉とは特性が異なるばれいしょでん粉工場における使用例も紹介します。
はじめに
北の大地北海道における畑作農業にとって、ばれいしょ(ジャガイモ)は重要な基幹作物であり、遥かに離れた南の鹿児島では、400年の伝統を誇るかんしょ(さつま芋)が基幹作物です。遠く南北2000kmを隔てて、それぞれの気候風土に適合した作物から、でん粉を製造する産業が発展している事は、生産者の努力、先人達の努力や情熱の賜物と感謝致します。
北海道のばれいしょでん粉工場は、合理化工場(高速遠心分離機などの設備を具備した工場)として建設され、平成7〜13年度にウルグアイラウンド対策で、再編整備事業が行われた結果、生産主力の農協系工場は現在10工場に集約されています1)。鹿児島県のかんしょでん粉工場は、「国内産糖・いもでん粉供給円滑化事業」を活用して、平成21年に「JA鹿児島きもつき新西南でん粉製造施設」が、平成23年には「JA南薩拠点霜出澱粉製造施設」が竣工しました2)3)。北海道では高速遠心分離機など近代的機器の導入後、工場の再編整備によって合理化が進んだのに対し、鹿児島では、従来からの生粉溜め方式(注)から、同時乾燥方式へと基本的な生産方式を変更することによって合理化への道を踏み出しました。
「原料の洗浄」「磨砕」「篩別」「精製」「脱水」「乾燥」「精粉・包装」の基本工程は、塊茎あるいは塊根中に含まれるでん粉を取り出す操作として、ばれいしょ/かんしょに共通しています。しかし、原料の形状、原料組成、製品の物性が全く異なるため、処理工程での操作が変わり、選択する装置や要求する性能に、大きな差異が生じます。例えば、ばれいしょはタンパク含有量が多いのに対し、かんしょにはポリフェノールが多く含まれます。ばれいしょでは、タンパク質を水洗いだけで除去できますが、かんしょでは細胞壁を壊して出て来たでん粉粒子にポリフェノールが付着しやすく、アルカリ処理が必要となります。
従来から、「土肉(不溶性不純物)」とか「渋水(水溶性不純物)」と呼ばれる厄介者が、かんしょでん粉の品質に大きな影響を与えるため、これに対する製造工程での工夫が重要課題となっています4)。
ばれいしょ/かんしょに共通している、基本フロー(単位操作)を示します。
磨砕設備について
かつて磨砕機は、おろし金のような目立てロール式のものが使用され、北海道では合理化工場(篩を電動遠心機に替えた工場)登場前の時代に、鹿児島では旧西南工場で新工場建設まで使用されていました。
微細な細胞壁を壊す道具としては、おろし金の様な目立て刃の方が(写真3)繊細な磨り方を感じますが、処理能力や、歯の寿命、目立てに熟練技能を必要とするなどの条件から、ノコギリ刃を円周方向に装着する磨砕機(ラスパー)へと置き換えられ、より大型の高速磨砕機に発展して来ました。
ノコギリ刃は均質で強度があり、交換も比較的容易であり、処理能力や磨砕効率が飛躍的に改善されました。
ノコギリ刃の高速磨砕機の外形を、写真4に示します。ノコギリ刃は裏表で2回使用でき、片側の寿命はおおよそ24時間です。写真4は、かんしょ磨砕能力が4トン/時間の機種で、写真5に刃の交換時のスケール(ヤニ)付着状況を示します。ばれいしょを磨砕する場合もスケールは着きますが、かんしょの場合は非常に強固な皮膜となり、清掃により多くの労力を要します。
掃除と刃物交換による時間ロスを無くし、連続運転が出来るよう、磨砕機は複数台設置して予備機を待機状況にします。ばれいしょでん粉工場では、磨砕処理量が50〜60トン/時間であり、15〜20トン/時間能力の大型高速磨砕機を複数台設置して、1台を待機機械としています。かんしょでん粉の場合も同様に待機機械を設置します。同一の磨砕機を使用しても、かんしょよりばれいしょの方が1.5〜2倍の処理能力を発揮します。かんしょの原料サイズには極端な大小差があり、磨砕機稼働の抵抗が大きくなって、処理速度の低下をもたらします。
脱汁設備(デカンター)について
高速磨砕機ですり下ろされたかんしょは、ポンプでデカンターに圧送されます。デカンターは高速で回転する外筒(ボウル)とその内部でわずかの回転差で回転するスクリューとからなり、磨砕汁は固形分(繊維とでん粉)と原料中の汁液とに分離されます。デカンターは精製工程に入る前に出来るだけ汚れ物質を除去し、精製工程に使用する水の量を低減して精製工程の精度を上げる目的で導入されました。写真6は、かんしょでん粉工場に導入した、スウェーデン製のデカンターで、ボウルのG(遠心効果)は3500(重力加速度の3500倍)、内部スクリューの回転差の設定によってでん粉の回収ロスを最小限に調整します。写真7は、ばれいしょでん粉工場で用いられている大型デカンターの1種を示します(国内外に特徴ある多くのメーカーがあります)。
篩別(ふるい別け)設備について
篩別設備は、繊維質(でん粉粕)とでん粉を、水洗いしながら分離するもので、古くは揺動式や傾斜スクリーン等が使用されていました。ばれいしょでん粉製造工程の合理化に伴い、磨砕機と同様に篩も改良され、遠心式に置き換えられました。
回転する円錐コーンの内側に、ステンレス鋼(SUS)製の金網を張り、円錐の頂点から原料を供給して網面に清水を散水すると、でん粉は金網を通して、でん粉粕は遠心力で金網表面を滑って底面外周方向に、それぞれ分離されます。この操作を3〜4回連続的に繰り返します。
でん粉粕は、粕脱水機で水分を絞り、副産物として飼料等に利用されます。
精製・濃縮設備について
篩別工程で分離されたでん粉には、微細な繊維や不純物が含まれており、更に精製して純粋なでん粉粒にする必要があります。
この精製操作には、大きな遠心力のノズル・セパレーターを使う方式、弱い遠心力を多数の段数で繰り返して同じ効果を得るハイドロ・サイクロン方式、これら2つの方式を組み合わせた方式があります。
ノズル・セパレーターでは、ノズルの口径や回転数を調整することによって最良の運転条件を探し易く、ハイドロ・サイクロンでは条件が一定に決定できれば保守性に優れるなど、それぞれ特徴をもっているため、どの方式を選択するかは運転の条件によります。
ただ、小粒子回収などには、小径のサイクロンを適用する方が良いと判断しています。
機械的な遠心力、又は流体の遠心力、いずれの場合も遠心力を利用し、より純度の高いでん粉を分離し、汚れ成分は廃水として系外に排出します。加水する清水の量によって、精製主体の機能か、濃縮主体の機能を重視するか、運転方法を選択できます。
精製工程は、でん粉製造工程の心臓部であり、信頼性の高い高能率の機械が要求されますが。日本製、外国製とも、特徴のある、優れた機械が選択可能です。
脱水設備について
ばれいしょでん粉では、基本的に真空脱水機を使用しています。中空の真空ドラムの表面にSUS製ネットを張り、でん粉自体をプリコート層として利用して、吸着したでん粉をナイフエッジで掻き落とします(写真12)。水分38%前後の脱水ケーキが得られます。
真空脱水機は低動力で経済的な機械のため、かんしょでん粉工場での応用が試みられたこともありますが、かんしょでん粉粒子が小さいため、安定したでん粉層が得られず、適応できませんでした。
かんしょでん粉では、遠心脱水機が基本的に使用されており、小粒子でん粉を、34〜35%まで脱水できます。回転するバスケットの内側にろ布を張り、でん粉乳を投入し、遠心力で厚いでん粉ケーキ層を通して脱水が進行します。
構造上バッチ処理(工程の途中で処理対象物の出し入れをせずに行う処理)となり、1バッチ10分程度のサイクルになります。写真13に遠心脱水機の代表例を示します。
ケーキ厚さ方向での水分差や、バッチ処理のため待機時間がある事から、次の乾燥への定量供給に注意を要します。
乾燥設備について
でん粉用の乾燥機には、気流乾燥機が多用されています。粒子のままで流通し、分散性の良いでん粉粒子を乾燥するためには、最適な乾燥方法と言えます。
かんしょでん粉では、水分35%前後と比較的低水分の脱水ケーキを18%まで乾燥します。かんしょでん粉は、小粒子で分散性が良く、乾燥は容易ですが小粒子であるが故に、回収方法が課題となります。
ばれいしょでん粉では、マルチサイクロンによる回収が一般的ですが、2次飛散を防止するための装置が必要です。 鹿児島県でのでん粉工場建設にあたっては、製品の回収にバッグフィルター(集塵装置)を採用して、排気の2次処理を省略しました。
弊社の気流乾燥機では、乾燥時間が約3秒と短い上、120℃の熱風に接触しても表面蒸発が継続して製品温度は35℃程度にしかならず、糊化の心配は全くありません。
乾燥機に要求される性能としては、水分の安定性が欠かせません。規定水分を若干下まわる所での制御が必要であり、乾燥機への原料定量供給装置の役割が重要です。
写真14に、定量供給装置とスチーム熱交換器を含む乾燥機下部を、写真15に同じ乾燥機のバッグ・フィルター部分を示します。
製品の取り扱いに関しては、乾燥から精粉への移送装置、でん粉の分配などに粉体ポンプを利用して、清掃の負担軽減や異物混入の防止に、積極的に取り組んでいます。
(鹿児島県では、桜島の降灰があり、乾燥機用の自動ロールフィルターはもちろん、建物の換気口もフィルターを設置して、屋内の清浄度を保っています。)
精粉・包装設備について
精粉は、製品中の糊化物を除去し、でん粉粒子の均一化を図り、品質の向上を目指すもので、製品への異物の混入を防止します。
写真17のシフターは、8段のナイロン篩網を2組セットした機種です。このシフターの網破れを想定して、2重のチェックもかけています。
可能なかぎり、「製品になったでん粉には手を触れない」この条件を満たす機器配列を設計条件としています。
その他、金属検出器、自動の量目判定、製品の袋もノリ張り口封用を採用するなど、高品質製品を確保する手段と、作業環境改善のための、集塵システムも採用しています。
省力化を推進する意味から、自動給袋機付きの自動包装機、ロボタイザーの導入を図っています(写真18、19)。
今後の課題
食品工場として、安心安全な食料を生産するためには、原料の集荷体系の問題から、製造に携わる人達の衛生意識、品質管理の問題、さらには機械装置の設計や選択、レイアウトまで、あらゆる観点から経済的な面と併せて、検討が尽くされる必要があります。
地域の農業を守る意味からも、一つの農産物工場が立地し、維持発展するためには、環境的な配慮が重要です。
今後の課題としては、でん粉工場で発生する、大量の廃水の処理が、重要な課題です。経済的に負担になる課題ですが、いろいろな知恵を組み合わせていかねばならない問題だと認識しています。
おわりに
「俺たちは400年も『からいも』を作って来た!これからも、我々の子孫が『からいも』を作り続けるために、工場が必要なんだ!」と、農協の常務さんが、誇らしげに話をされ、鮮明な記憶に残っています。
工場や機械は無機的な感じを受けますが、それを動かす人達によって、血肉となり魂が宿り、感情を持つ生き物のようになるんだ、と私は感じています。
でん粉工場は、その事を最も強く感じさせてくれる工場です、その仕事に携われる幸せを感じます。多くの人達のお世話になって、一つの工場が出来上がります。
紙数の都合で、機械の羅列と表面的な説明に終始している事をご容赦願い、改めてでん粉の生産・製造に係わる全ての皆様に、御礼を申し上げます。
参考文献
1)独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)でん粉情報[2008年8月号]:
ばれいしょでん粉工場の安定的経営に向けた取組
2)独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)でん粉情報[2009年10月号]:
鹿児島きもつき農協新西南でん粉工場の開設について
3)独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)でん粉情報[2011年10月号]:
鹿児島県薩摩半島に大型かんしょでん粉製造工場完成
4)甘藷澱粉の白度低位の要因について:山村頴澱粉糖技術研究会報 第21号
5)アルファラバル株式会社:デカンター:カタログ
6)斉藤遠心機工業株式会社:セパレーター:カタログ
7)三菱化工機株式会社:三菱・KM式遠心分離機:カタログ
(注)精製後のでん粉を屋外の貯留池に一時貯留し、原料いもすり込み作業終了後に再度水洗い、乾燥する方式。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713