北海道十勝地区におけるばれいしょ生産
最終更新日:2012年8月10日
北海道十勝地区におけるばれいしょ生産
2012年8月
十勝農業協同組合連合会 農産課長 上田 裕之
【要約】
十勝地区におけるばれいしょは、作付面積が北海道の約42%を占め、同地区の基幹作物として存在している。
十勝地区における用途別作付面積をみると、加工用が作付割合の4割強を占め、最も多い。生食用、加工用が一定範囲内の増減傾向で推移しているのに対し、でん粉原料用は減少傾向で推移している。この減少が国内のでん粉需給に影響を与え、国産でん粉の供給不足分が輸入でん粉に置き換わる結果となっている。また、加工用でも猛暑による生産数量の減少によって同様の現象が起きている。
作付面積、生産量減少の要因として収穫作業日数が長いことが考えられる。この点について、高性能機の導入や選別・貯蔵システムの改善、作業委託等による労働支援などを検討し、課題の整理や問題の解決に取り組んでいく予定である。
1 ばれいしょ栽培の現状
日本のばれいしょ栽培面積は約8万haで、内、北海道が約5万4400ha、さらにその42%にあたる2万3000haが十勝地区で作付けされている(平成21年 農林水産省作物統計)。販売農家戸数は約3000戸、生産量は77万7000トンであり、過去には100万トンを超える生産量があったことと比較すると減少傾向にあるものの、依然として十勝地区の基幹作物として存在している。
2 ばれいしょの用途、区分
ばれいしょは、その用途によって区分すると、生食用(市場流通、家庭消費用:男爵薯、メークイン、キタアカリ等)、加工用(ポテトチップス、コロッケ、フレンチフライ、サラダ用等:トヨシロ、ホッカイコガネ、さやか等)、でん粉原料用(コナフブキ、アーリースターチ等)に分けることが出来る。統計上の数字等でもこの区分が適用されることが多いが、実際の流通は複雑である(図1)。生食、加工用の規格外品は、恒常的にでん粉原料用として利用されるが、豊作年の余剰品も同様にでん粉原料として利用される。逆に凶作年では市場での流通量が減り、近年ではでん粉原料用として作付けされているものまで、加工用として利用されている実態がある。
また、これら用途別の作付割合は、それぞれの地区で偏りがあるのも特徴である。振興局別の作付面積を比較すると(表1)、道南・道央方面では生食加工用、網走地区ではでん粉原料用、十勝地区では加工用がそれぞれ多い。十勝地区での加工用品種の作付割合は約44%に上る。
3 用途別作付面積の推移と需給状況
十勝地区における用途別作付面積の推移について、表2に示した。生食用、加工用は、市況の高低、加工メーカーの在庫数量や府県産の豊凶等の影響により、それぞれ6500〜8000ha、7500〜9000ha程度で増減しているが、でん粉原料用は平成16〜18年に一度増加に転じた以外は、減少の一途をたどっている。十勝地区でのばれいしょ生産面積並びに生産量が過去最高水準にあった平成7〜9年当時と比較すると、作付面積は40%弱減少しており、同地区に3カ所あるでん粉工場の操業に影響が出るほどの水準まで低下している。
このでん粉原料用ばれいしょ作付面積の減少は、国産でん粉の需給環境に大きな影響を与えている。近年のばれいしょでん粉の需要量は平成19でん粉年度に23万5000トン程度まで伸長してきたが、平成22でん粉年度の生産量は16万9400トンであり、需要の70%程度しか満たしていない。すなわち、不足分は輸入でん粉に置き換わっており、国産農産物の「貴重な売り場」を海外に明け渡してしまっている現状にある。
この状況は加工用ばれいしょ、特にポテトチップ等のスナック菓子用原料でも同様で、ここ数年の全国的なばれいしょの作付面積の伸び悩みに加え、猛暑による生産数量の減少への対応として、加工メーカーが一定条件の元でのばれいしょ生塊茎の輸入を急増させているのである(図2)。加工メーカーとしては、輸送コストが掛からず、品質の良い国産ばれいしょを使用する方がメリットがあるものの、工場の操業を止める訳にはいかない、いわゆる「苦渋の選択」であるとしているが、国産ばれいしょの安定供給の見通しが立たない以上は、一定量の輸入を今後も継続すると考えられる。これについてもでん粉原料用ばれいしょと同様に、「貴重な売り場」を海外に明け渡してしまった、と言えるだろう。
4 課題と今後の対応
前述のようなばれいしょ栽培面積の伸び悩みの原因は何なのであろうか。収入については、でん粉原料用では平成23でん粉年度より導入された戸別所得補償制度により10a当たりの所得は確実に向上しているし、加工用ばれいしょについても、近年の供給不足を反映し、過去と比較して高い単価で加工メーカーに買い取られている実態がある。
このように、販売環境が比較的良好な中で、作付面積や生産量が増加しない理由は「収穫作業日数が長いこと」である。現行の食用・加工用の収穫速度は、従来型の収穫機(インローハーベスター)で約0.5ha/日、新型の収穫機(サイド掘りハーベスター)で約1.0ha/日、ハーベスター上での選別負荷が低いでん粉原料用ハーベスターでも1.5〜2.0ha/日程度であり、また収穫日数が増えるほど、打撲等の被害塊茎が多くなって品質が低下するとともに選別により多くの時間を要し、収穫速度も低下しがちである。8月下旬から収穫は開始されるが、生育の遅れや圃場の条件が悪い場合は、生産者が1カ月以上もばれいしょの収穫に縛られてしまうことは珍しくない。また、十勝地区では秋播小麦の面積が多く、畑地の約3分の1程度を占めており、その十勝地区での播種適期は9月中〜下旬であるため、秋播小麦の前作となり得るのは、菜豆類の一部とばれいしょである。ばれいしょの収穫が遅れることは、最も労働生産性の高い秋播小麦の作付面積を減少させ、更にはその播種適期を逃し収量低下の原因となるため、生産者には敬遠される。また、一方では秋播小麦作付用の圃場を用意するため、適期より早く収穫してしまうばれいしょも増え、結果的に生産量の低下を招いているのも見逃せない点である。尚、同じく根菜類の期間作物であるてん菜でも、同様の傾向が見られている。
これらの点については、本会の会員農協や生産者からも指摘されている事項であり、具体的には、食用・加工用では、ハーベスター上の選別要員を減らし且つ収穫速度を上げることが出来る高性能ハーベスターの導入や、ハーベスター上での選別を行わず、掘りっぱなしの原料を施設で集中的選別・仮貯蔵を行うシステムの検討、更にはでん粉原料用も含めて、作業委託等の労働支援の検討等が想定される。これらが幅広い生産者に受け入れられる様、課題の整理や問題の解決に、今後、取組んでいく予定である。
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