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炭水化物との上手な付き合い方

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最終更新日:2012年10月10日

炭水化物との上手な付き合い方〜適量摂取で肥満・やせを予防〜

2012年10月

女子栄養大学短期大学部 教授 松田 早苗
 


【要約】

 日本人の炭水化物の摂取量は、減少傾向にある一方で、脂質の摂取量は、増加傾向にあることから日本人の健康障害が危惧される。そこで、炭水化物の種類、体内における消化・吸収、栄養学的特徴、過不足による健康への影響、炭水化物の供給源となる食品の適正な摂取量を通して、炭水化物に対する正しい理解を深め、炭水化物の重要性を伝えることで、生活習慣病予防をはかりたい。

はじめに

 日本人の栄養素摂取量の年次推移を表に示した。エネルギーや炭水化物の摂取量は減少しているが、たんぱく質や脂質の摂取量は増加の傾向にある。これは、食生活の欧米化、穀物離れによるものと考えられる。摂取エネルギー量は少なくても、たんぱく質、脂質、炭水化物の摂取バランスが悪いことによって、体格、健康状態にも影響を及ぼし、現在、中高年男性の肥満や、若年女性のやせが増加している。肥満は、生活習慣病の引き金となり、更には動脈硬化を招く。一方、やせの女性は、妊娠しても栄養素摂取量が少ないため、低出生体重児(出生時体重2500g未満)を出産するケースが多い。やせの女性から生まれた低出生体重児は、胎児期に少量の栄養で育ったため、成人になって肥満、生活習慣病を呈し、特に心疾患の罹患率が高いことが報告されている。今回、炭水化物の基礎知識のみならず、炭水化物の供給源となる食品の適正な摂取量についてもふれ、肥満・やせの予防につなげたい。
 
 

炭水化物の種類

 炭水化物は、単糖類、少糖類、多糖類に分類される。単糖類は、これ以上加水分解できない糖で、構成する炭素数によって五炭糖、六炭糖等に分けられる。五炭糖には、核酸の構成成分であるリボースや、デオキシリボースなどがある。六炭糖には、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどがある。栄養学的に重要な単糖類はグルコースで、生体内では血糖として存在している。少糖類は、単糖類が2〜10個結合した糖で、結合する単糖の数によって二糖類、三糖類等に分けられる。栄養学的に重要な少糖類は、単糖類が2個結合した二糖類で、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)がある。スクロースは、グルコースとフルクトースが、マルトースは、グルコースが2個、ラクトースは、グルコースとガラクトースが結合したものである。多糖類は、多数の単糖類が結合した糖で、でん粉、グリコーゲン等がある。でん粉もグリコーゲンも多数のグルコースが結合した糖だが、所在が異なり、でん粉は、植物の貯蔵多糖類、グリコーゲンは、動物の貯蔵多糖類で肝臓、筋肉に含まれる。

炭水化物の消化・吸収

 摂取した炭水化物は、体内で消化・吸収され各組織で利用される。

でん粉

 穀物、芋類に多く含まれるでん粉は、摂取後、口腔内で唾液アミラーゼが作用し、デキストリンを経てマルトースに変化する。しかし、口腔内の消化は時間も短く、完全ではないため、口腔内で消化しきれなかったでん粉は、十二指腸で膵アミラーゼが作用し、マルトースに変化する。マルトースは、小腸粘膜上皮細胞微絨毛にてマルターゼの作用を受け、グルコースに分解し、小腸粘膜上皮細胞内に吸収される。グルコースは、吸収後、腸間膜静脈、門脈を経て肝臓に取り込まれる。肝臓では、グルコースはグリコーゲンの合成や、エネルギーの生成等に使われる。また、血液中に血糖として放出され、脳、筋肉、脂肪組織に取り込まれる。グルコースは、脳ではエネルギーの生成、筋肉ではグリコーゲンの合成や、エネルギーの生成、脂肪組織では脂肪の合成等に使われる。

スクロース

 砂糖の主成分であるスクロースは、摂取後、小腸粘膜上皮細胞微絨毛にてスクラーゼの作用を受け、グルコースとフルクトースに分解し、小腸粘膜上皮細胞内に吸収される。グルコースとフルクトースは、吸収後、腸間膜静脈、門脈を経て肝臓に取り込まれ、フルクトースはグルコースに変化する。

ラクトース

 乳・乳製品に多く含まれるラクトースは、摂取後、小腸粘膜上皮細胞微絨毛にてラクターゼの作用を受け、グルコースとガラクトースに分解し、小腸粘膜上皮細胞内に吸収される。グルコースとガラクトースは、吸収後、腸間膜静脈、門脈を経て肝臓に取り込まれ、ガラクトースはグルコースに変化する。

炭水化物の栄養学的特徴

エネルギー源

 炭水化物は、1g当たり4kcalのエネルギーを生成する。体内でエネルギー源となる栄養素には、炭水化物の他に脂質、たんぱく質もあるが、脳のエネルギー源は、グルコースのみである。血糖値が下がりすぎると、脳にグルコースが供給されなくなり、意識喪失や、けいれん等の低血糖症状を招くが、健康なヒトでは、各種ホルモンによって、血糖値が70〜110mg/dlに維持されているので、低血糖症状を招くことはない。即ち、食事をして血糖値が上昇すると、膵臓のランゲルハンス島β細胞よりインスリンが分泌し、血糖値を下げ、一方、血糖値が低下すると、膵臓のランゲルハンス島α細胞よりグルカゴンが、副腎皮質よりグルココルチコイドが分泌して血糖値を上げることで、血糖値が一定に維持され、脳への安定したグルコース供給が維持される仕組みとなっている。

炭水化物とビタミンB1

 ビタミンB1は、炭水化物の燃焼に不可欠なビタミンで、炭水化物の燃焼の際に働くピルビン酸脱水素酵素の補酵素チアミンピロリン酸の成分になっている。炭水化物の摂取量が多くなれば、ビタミンB1も多く摂取しなければならない。

たんぱく質節約効果

 たんぱく質には、体の構成成分を合成するという機能がある。しかし、炭水化物の摂取不足等エネルギーが不足すると、たんぱく質からグルコースが合成され、エネルギー供給にたんぱく質が利用される。つまり、炭水化物を充分摂取することで、たんぱく質は体の構成成分の合成という本来の機能をはたすことができる。

炭水化物の摂取上の注意点

過剰摂取

 炭水化物、特にフルクトースの過剰摂取は、中性脂肪の合成を促進し、血中中性脂肪値や、体脂肪の増加を招く。フルクトースの供給源である果物を過剰摂取する方に脂質異常症が多い。

摂取不足

 ダイエットのために極端に炭水化物の摂取量を減らす方がいる。良いダイエットとは、体脂肪を燃焼させ、減らすことである。炭水化物の摂取量を減らすことで、体重減少は認めるが、それは体脂肪が減少しているのではなく、体たんぱく質の減少によって体重が減少しているのである。また、脂質の燃焼に支障をきたし、体に有害な成分(ケトン体)が生成され、血液が酸性化するケトアシドーシスを招く。脂肪の燃焼には炭水化物の燃焼が不可欠で、炭水化物を充分摂取することで、炭水化物が円滑に燃焼し、脂肪も円滑に燃焼するのである。

適正な摂取量

 厚生労働省は、日本人の食事摂取基準2010年版の中で、炭水化物の適正な摂取量について、1日の摂取エネルギー量のうち、50%以上70%未満のエネルギー量を炭水化物で摂取することが望ましいとしている。

炭水化物の供給源と適正量

 炭水化物の供給源として、穀物(パン、麺、ご飯)、果物、芋類、砂糖(ジャム、はちみつ含む)などがある。これらの組み合わせによる1日にとりたい摂取量の例を男女別に示すと、以下のとおりである。

成人女子
 食パン:60g、麺(スパゲティー乾):80g、ご飯:150g、果物:200g、芋類:100g、砂糖:10g

成人男子
 食パン:120g、麺(スパゲティー乾):100g、ご飯:250g、果物:200g、芋類:100g、砂糖:10g

 もちろん食事で摂取する炭水化物を含む食品の組み合わせ、それぞれの摂取量は、毎日変化する。そうした中、食事全体に対して炭水化物の摂取割合を一定範囲に保つことが重要である。

 炭水化物の摂取量は、多すぎても、少なすぎても健康には良くない。適正な量を摂取して、肥満、やせを予防することで、生活習慣病を予防し、健康生活を送りたいものである。
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