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土壌診断・施肥設計システムの畑作物栽培への利用

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最終更新日:2012年11月9日

土壌診断・施肥設計システムの畑作物栽培への利用

2012年11月

十勝農業協同組合連合会 農産部 農産化学研究所 岡崎 智哉
 


【要約】

 十勝農業協同組合連合会(以下、十勝農協連)では、昭和57年より土壌分析事業を開始し、同時に施肥設計事業にも取組んでいる。事業開始以降、分析点数は増加傾向で推移しており、土壌診断は十勝管内に定着していった。一方で、分析項目の拡充を進めていき、平成18年より「総合的土壌診断システム」の運用を開始した。また分析結果は、土壌総合診断票や対面型施肥設計システムによって施肥設計が行われ、生産者への施肥指導に活用されている。

 土壌診断を活用した取組みでは、近年の肥料価格高騰に対応するため、十勝管内の関係機関で平成19年に適正肥料銘柄の選定を行った。選定された肥料銘柄の普及推進にあたり、減肥料銘柄を用いた肥料コスト低減実証試験を実施した結果、減肥料銘柄を供試した区のほうが慣行よりも増益となった。

 今後は土壌物理性情報の活用や有機物の評価方法の確立により総合的土壌診断をさらに発展させ、適正施肥・土づくりを基本とした農業生産技術の構築を目指していくこととしている。

1.はじめに

 十勝農協連は、昭和23年8月に十勝管内の農畜産の生産指導事業を主とする地区連合会として設立され、その後の変遷を経て、現在は24会員(農協)で構成されている。農産部門では畑作・園芸作物の生産振興に取組んでおり、その一環として十勝農協連が運営する土壌分析センターと連携し、土壌診断を活用した作物生産指導を行っている。今回は、十勝の土壌診断事業の変遷と業務の流れについて説明しながら、てん菜やばれいしょを始めとする十勝の畑作物での施肥指導の取組みについて紹介していく。

2.土壌診断事業の変遷

1)土壌診断事業の発足

 昭和50年代に入り十勝では経営規模の拡大と機械化に伴い、畑作の専業化が進み、堆厩肥などの有機物の投入量が減少し、化学肥料や農薬への依存が高まるようになった。また、特定作物の連作が農産物の収量、品質を低下させ、土壌病害の発生も問題になっていた。一方で、農家の「土づくり」に対する関心は高まり、有機資材の見直しとともに、科学的な土壌分析に基づく施肥診断が求められるようになった。そのような情勢の中、昭和53年に十勝管内の農業試験場、農業改良普及所、農協などの関係機関が集まり、土壌診断基準の検討と土壌診断技術の普及を目的とした「十勝管内土壌診断事業推進協議会」が設立された。その後、昭和55年に「十勝における土壌診断の手引き」(十勝農業試験場、十勝管内土壌診断事業推進協議会、十勝農協連)が発刊され、これを契機に、管内の土壌診断方法の統一化が進み、昭和57年に会員農協の強い要望もあって、十勝農協連での土壌分析事業がスタートした。

2)分析点数の推移

 事業初年度の分析点数は3969点であったが、5年後の昭和61年に9987点まで増加し、さらに平成8年以降は毎年1万2000点を超える点数を維持しており、土壌分析は十勝管内に着実に定着していった。その後、点数は横ばいに推移していたが、平成20年には肥料高騰対策事業の影響もあり、分析点数は一気に2万5000点を超えた(図1)。事業終了後、分析点数は減少傾向にあるが、それでも2万点前後の搬入が続いている。
 
 

3)分析項目の拡充

 分析項目については、会員農協の要望に応じて拡充を進めていき、昭和57年に土壌分析を開始後、昭和58年に無機態窒素を、昭和62年には熱水抽出性窒素のほか、微量要素分析を加えた。平成10年以降になると物理性・生物性の分析項目についての拡充を行い、これまで化学性分析を中心に進めてきた土壌診断にこれらの拡充項目を加え、総合的な土壌診断を推進するため、平成18年より「総合的土壌診断システム」の運用を開始した。このシステムが導入された背景としては、耕盤層(作土の下にできる硬い層)の発生による排水性の悪化や根の伸張阻害、さらに輪作年限の短期化や連作による土壌病害・線虫被害の発生が顕在化し、化学性・物理性・生物性の観点から総合的に圃場の生産性を評価する新しい土壌診断の確立が必要となったためである。同システムでは従来の化学性分析結果を基にした施肥設計のみならず、物理性・生物性結果も含めて総合的に土壌診断を行い、評価コメントを出力するよう整備されている(図2)。

3.土壌診断〜施肥設計までの流れ

1)土壌診断の流れ

 土壌診断の流れのフローチャートは図3の通りである。生産者がサンプリングした土壌は会員農協で集約され、十勝農協連農産化学研究所へ搬入される。持ち込まれた土壌は受付を済ませると、分析システムに登録されると同時に、乾燥・粉砕の工程へ進み、その後分析が行われる。分析項目は一般分析がpH、有効態リン酸、リン酸吸収係数、CEC(塩基置換容量)、交換性塩基類等で、そのほか微量要素、窒素分析、交換酸度などの各種オプション分析にも対応している。分析結果は分析機器より記録媒体を経由し分析システムに取り込み、異常値がないかチェックを行った後、土壌総合診断票を作成し会員農協へ発送すると同時に、分析データは会員農協のサーバーへイントラネットを介して送信が行われる。
 
 
 
 

2)分析データの活用

 送付された診断票は、会員農協より各生産者へ配付され、記載されている施肥設計結果や総合評価コメントは、施肥指導や圃場管理の目安として活用されている。

 一方で、送信された分析データは農協のサーバーに取り込まれ蓄積されていく。マッピングシステム(図4:地理情報と圃場情報、農家情報、土壌分析情報を統合管理するシステム)を導入している20農協では、サーバー内の分析データはマッピングシステムと連携しており、土壌分析を過去に実施している圃場であれば、いつでもシステム上で分析結果を閲覧することができる。

 また、平成22年にはマッピングシステムのアプリケーションの一つとして対面型施肥設計システムが構築され、平成24年9月現在で14農協に導入されている。このシステムでは指定した圃場の土壌分析結果や作付希望作物などの情報から、施肥設計や土壌改良資材の必要量等が自動計算される。さらに、システム画面上で使用銘柄や投入量の変更ができるため、生産者と対面しながら綿密な施肥設計が可能である。
 
 

4.土壌診断を活用した十勝での取組み

1)肥料価格高騰

 平成20年からの肥料価格高騰は十勝管内でも大変大きな問題になっている。最近では少し落ち着いてきたものの、高騰前と比較すると肥料価格は依然高い水準にあり、今後も農家経営を圧迫する大きな要因のひとつとなるため、引き続き土壌診断に基づいた適正施肥による肥料コスト低減化が不可欠になってくる。

 また平成20〜22年の3カ年の土壌分析結果を基に、リン酸とカリの施肥対応(増肥、標準、減肥)の組み合わせにより圃場を分類したところ、火山性土では54%の圃場でカリ、低地土では81%の圃場でリン酸の減肥が可能であることが明らかになった(図5)。
 
 

2)適正肥料銘柄の選定

 近年の肥料価格高騰、リン酸・カリの蓄積、この2つの課題に対応するため、十勝管内の関係機関で平成19年に適正肥料銘柄を選定し、肥料コスト低減を推進することとなった。肥料選定はホクレン肥料に協力いただき、道内系統機関が取り扱えるBB(Bulk Blending)肥料銘柄の中から、最も安価で、各土壌タイプ(火山性土・低地土)に適する肥料銘柄を抽出し、十勝共通銘柄としてばれいしょ・てん菜・小麦・牧草の作物を対象に54銘柄を選定した。

 選定された肥料銘柄の普及推進にあたり、平成21〜23年の3カ年、関係機関と共同で減肥肥料銘柄を用いた肥料コスト低減実証試験を実施した。5品目46圃場において試験した結果、減肥肥料銘柄を供試した区では、収量は慣行とほぼ同等となり、肥料代が安価になった分、慣行よりも増益となった(図6)。
 
 

5.今後の課題・展望

 国際的な需要の増加から肥料価格は上昇していくことが予想される状況で、肥料コストの適正化が農家経営の安定には極めて重要となる。

 適正施肥は、土壌分析結果に基づいた施肥設計が基本となることは言うまでもないが、投入した肥料の効果を作物の生育・収量に十分に反映させるためには、土壌の物理性改善や有機物の投入などによる土づくりが必須である。

 十勝では近年、耕盤層の形成が進んでおり、作物の根の伸張阻害、降雨後の滞水などの問題を引き起こしているため、効果的な土壌改良法が求められている。また毎年大量に発生する家畜ふん尿などの有機物は、肥料の代替としての効果が期待できるが、化学肥料と組み合わせて適正施肥を行うには、これら有機物の肥料成分を評価する指標の確立が前提となる。

 今後は、土壌物理性情報の活用や有機物の評価方法の確立により総合的土壌診断をさらに発展させ、対面型施肥設計システムを始めとする様々な営農支援ツールを駆使しながら、適正施肥・土づくりを基本とした農業生産技術の構築を目指していくこととしている。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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