先進地域と発展途上国のばれいしょ機械化体系
最終更新日:2013年7月10日
先進地域と発展途上国のばれいしょ機械化体系
2013年7月
東洋農機株式会社 常務執行役員 営業本部長 大橋 敏伸
【はじめに】
ばれいしょは世界中で栽培されており、国によって栽培様式や収穫方法に違いがある。
国内でも規模拡大に伴い栽培や収穫システムの大型化、省人化が不可避であり絶え間なく変化し続けている。ばれいしょの相場は国際的な市場動向に左右される。直近では欧州産でん粉の大幅な減産で発展途上国などの供給状況を敏感に反映し、急きょ、ばれいしょの増産が必要不可欠となっている。
今回、先進地域と発展途上国のばれいしょ機械化体系の違いと併せて国内の状況について紹介する。
1.ばれいしょ栽培の現状
東洋農機株式会社は1909年に帯広で創業した畑作機器のメーカーである。
主な製品は、農薬散布機とばれいしょやてん菜の収穫機などで、北海道を中心に営業展開を行っている。その中でもばれいしょの収穫機は、近年、府県にも導入が進み、特に独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(共同開発時は生研機構(生物系特定産業技術研究推進機構))と共同開発した自走式の汎用いも類収穫機は、ばれいしょおよびかんしょ収穫の合理化に貢献している。
また、北海道は小麦の栽培が増加し、バランスの良い輪作体系を維持することが難しくなっており、農林水産省では、ばれいしょの栽培収穫体系合理化を提唱し、平成17年度に「高生産性畑輪作システム確立」のためのプロジェクトにおいて「ばれいしょ新栽培システム」を開発し、農業試験研究機関が中心となり省力的で高能率なシステムを構築した。
でん粉の自由化、生産農家の減少や高齢化で、ばれいしょの栽培面積や生産量は減少しており、さらに海外からの輸入加工原料が増加傾向にある。この様な中、主産地である北海道の畑作地帯では、ばれいしょ生産量の維持・増大は農家経営の根幹であり、重要なテーマである。
2.世界のばれいしょ関連展示会
欧米では、ばれいしょに特化した展示会が毎年開催されている。主なものでは「世界ばれいしょ大会」「英国ばれいしょ展」「ポテトヨーロッパ展」がある。特にドイツ、オランダ、フランス、ベルギーが持ち回りで開催する「ポテトヨーロッパ展」は、展示実演を伴った大がかりなスタイルであるが、「英国ばれいしょ展」は、ここ数年実演を省略した展示と技術セミナー形式の展示会になっている。それは資金的な側面と、英国のばれいしょ栽培収穫システムと、欧州の大陸側では若干の違いがあるため、同時開催されることはないとのことが理由である。また、各国の主催団体にも特徴があり、特にドイツ農業協会(DLG)は、その組織力から圧倒的な影響力がある。ちなみにDLGは、隔年で同国ハノーバー市で開催される世界最大の農業機械展「アグリテクニカ」の主催者であることからも理解できる。
アジアでは、数年前に中国の雲南省で世界大会が開催されたことがある。「ポテトヨーロッパ展2010」開催前夜祭での講演会で、ペルーにある国際ばれいしょ協会から2010年にアジア太平洋ばれいしょ研究所を中国に設立したとの発表があり、生産量世界一の市場を巡り、各国のばれいしょ関連産業は中国進出を最優先する動きがある。
2011年2月に開催されたウクライナの農業機械展「インターアグロ2010」でも開催前日に市内でアグリビジネスフォーラム「ウクライナにおけるジャガイモの生産(成長、収穫、保管および処理)」が在オランダ大使館主催で行われた。
近年オランダは、東欧圏にばれいしょ関係の品種、機器の技術提携、または、ノックダウンの条件を無償で(注)提供するプロジェクトを、国の後押しで行っており、ロシアで成功しているとのことである。これは、同じEU圏内のドイツなどに対する対抗策と言われ、国際的に過酷な競争を演じているばれいしょ関係者の様子を垣間見た感じがする。
(注)「ノックダウンの条件を無償で」とは、一般的には技術移転に伴う契約の場合は、何らかの利益を期待して行われるが、技術移転費やロイヤリティーなどがなくても、部材の一部を輸入するだけで、商業権や意匠権に対する対価が、要求されない破格の条件で契約することができること。
3.「ポテトヨーロッパ展」の視察
2010年9月にドイツで開催された「ポテトヨーロッパ展2010」は、ハノーバー市近郊で2日間開催され、来場者数は49カ国から8,000人以上と、ばれいしょ収穫シーズンにもかかわらず多くの見学者があった。世界の国々では、ばれいしょがいかに重要な位置づけかが窺い知れた。展示内容は栽培、収穫システムのみならず、種子ばれいしょの栽培展示コーナー、その他資材関係の展示があり、最新の情報が一堂に会する大規模な催しである。
圧巻は圃場で行う収穫実演である。欧州で開催される農業機械展は、巨大な屋内展示会場内で展示されるため、運転に対する実感が伴わない。しかし、大型の収穫機が実際の圃場で稼働する様は、カタログや資料でしか知り得ないことが一瞬にして把握できるため、大変参考になる。会場は農家の畑を借りて行われ、展示会場が5ヘクタール、プランターや収穫機の実演圃場が5ヘクタールの規模で、この内種子ばれいしょ育種メーカーの出展が会場の半分を占めていた。種子ばれいしょの流通は、民間企業が開発した品種を直接販売できるため、多数の新品種を作出している。会場内には市場の要望に合わせた物であると、春から植え付けを行い、塊茎の形状や品質をアピールしていた。
ちなみに、EU圏でのばれいしょ生産はドイツが一番多い。一方、種子ばれいしょ生産はオランダがもっとも多く、その内の8割を輸出している。世界に輸出している事例は今後、日本においても参考になると感じた。会場では、プランターやポテトハーベスタ、貯留移送機器の実演には1台ずつ特徴、性能などを見学者にアピールする演出がなされる。午後は実演作業している機械に試乗することができるが、限られた時間と見学者が多く、全ての機械に試乗することは難しい状況であった。
ポテトハーベスタの実演には6社が出展しており、自走式や2畦以上でタンカー式が多かった。
メインタンクは日本で一般的な排出高を上下する機構ではなく、タンク先端が排出式のコンベヤになっており、タンクに貯まったばれいしょを途中で伴走のトレーラーに積み替えができるようになっているため、稼働率を高めることができるシステムである。
また、排出する際の損傷を軽減するために排出コンベヤの構造が先折れ式になっており、排出高をタンクの形状に合わせて極力低くできる構造である。
コンベヤ類はゴムや樹脂、キャンバスなどを多用し、打撲や損傷を少なくする様に工夫されている。4畦の自走式収穫機はタイヤ駆動からゴムクローラ方式が主流になっている。これは、自重が重いことや圃場を固めないなどの考えの他に圃場でのスムーズな運用を図ることができるためでもある。
北海道では収穫後のばれいしょの移送は大型スチールコンテナ(1.5トン)が一般的であるが、今後大規模化が進んだ場合には伴走式のタンカータイプが必要となると考えられ、これに伴い欧州の様に補助作業者を必要としない収穫後の粗選別や保管庫などを整える必要性を強く感じた。
4.発展途上国の栽培と収穫方法
ばれいしょ収穫作業は、中国やインドでは機械(ポテトディガー)で掘り上げた後、人手で集める人海戦術が一般的である(希に大規模なシステムも導入されている)。
昨年、中国内モンゴル自治区に渡航し収穫状況を確認してきた。ばれいしょの生育状況は、中国北方の黒龍江省と違い、収量、品質とも悪くない。しかしながら、年間の降水量が400ミリメートル以下であるため、かんがい施設は不可欠でコストが掛かっている(ピボットタイプの散水機874メートル半径)。また、気象条件により低温障害を受けることがあるとのことで、病気の発生が少ないメリットはあるが、条件的には厳しいものと感じた。
植え付けはカップ式のポテトプランターで畦幅:90センチメートル、株間:25センチメートルであった。
種子ばれいしょは切って使用されるため、一株の塊茎数が少ないことが塊茎の肥大には良い条件になっており、見せて頂いた圃場での収量は10アール当たり3.7トンで中国の平均より多い(中国の平均反収はFAO STAT2010年データで10アール当たり約1.5トン弱)。
収穫には2畦のディガーで掘り上げ、30キログラム入りのビニール袋に手で集めている。選別は袋に入れる際に大きなばれいしょと小さなばれいしょとが選別され、選別の役割を担っている。生産コストは12〜13円で販売価格は19円程度である。ちなみに、1日当たり30アールの収穫するのに40名程度の人員が必要である。しかしながら、内モンゴル全体で約33万ヘクタールの圃場があるにもかかわらず、北海道より広大な地帯に人口が沿岸地帯より少ない600万人程度では、今後ますます人手が不足していくと予想される。収穫の合理化が急務となっていることから収穫機の導入が強く望まれている。
対して黒龍江省の試験場の要請を受け培土機を輸出し、その指導のため訪問する機会があった。これまでいろいろな現地を視察した経験からすると、この地は培土が浅いこと、緑化が多いこと、高温障害により2次成長の塊茎が多数見られることなど、改善の余地が見受けられた。地域によって栽培上の問題が多いと考える。
倍土が浅いため外気温に影響されやすい。
下層土を上げない工夫がされているが、土量が十分でない。
中国において、日本で普及しているタンカータイプの収穫機が普及できない理由は、掘り上げた塊茎をプラスチック製の袋に収納し、末端の需要家まで袋単位で流通させる体系であること、収穫後の調整選果選別を行える状況にないことや、農協のような組織がないため、収穫後の処理施設を作る状況にないことが要因と考える。圃場に置かれた30キログラムの袋の回収も人手であり、小型のトレーラーに積み込む作業は、かなり重労働である。
この様な作業体系は、農村に人口が多い場合は機械化より人件費が安く調達できるため問題がなかった。しかしながら、現在は鉱工業や建設現場の労働力として都会に出て行き、農村には高齢者しか残らないため、要員確保が難しい状況になっている。
イモを人手で集める…重労働で若い人はやりたがらない!
筆者が初めて中国へ行くことになった理由は「中国の農村は人手不足・・・」との情報を聞き、現場を見てみたいと考えたことがきっかけである。
特にばれいしょや、てん菜の産地は黒龍江省や内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区など辺境の地であることから中国全体で見た場合、人口密度が薄く作業員の調達には苦慮している地域である。
従って、収穫の機械化は急務と考え、当社にコンタクトしてくるものと感じた。
圃場から袋に詰めたばれいしょをトレーラーで回収し、貯蔵庫へ運ぶ。末端消費者まで袋単位で流通する。
5.日本の課題
日本におけるばれいしょの搬送体系は、北海道の大型スチールコンテナー(1.5トン)での流通が主力で、補完的にコンテナバッグを使用している。スチールコンテナーは低温貯蔵のため、メッシュ構造で、通気性を加味し3〜4段に重ね積みする。同じ考えで英国では木製のコンテナー1トンタイプが一般的で、これも倉庫内に貯蔵するために考えられている。
筆者が英国ヨーク市近郊に訪問した際に、5トンの木製コンテナーを使っていたコントラクターは、需要家への移送に従来の1トンタイプでは効率が悪いため、大型にしていた。このため、搬送用の大型フォークリフトと、箱から開けるためのテッピング装置などの付帯設備も自分で開発していた。
ドイツ、オランダでは農家の貯蔵庫は木箱を使っているが、大量の需要家は低温庫にバラ積みで貯蔵することが主流で、このための搬送機材が充実しており、人手を掛けることはない体系である。
従って、今後一戸当たりの栽培面積が増大した場合、先進国で行われている移送システムや、収納方法が課題となる。現状より大型の収穫機を導入するためには不可欠なテーマであると考える。
最後に、日本の収穫システムは欧州の10年前のレベルであると考えるが、今後追いつくには収穫メーカーの当社としても責任を痛感している。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713