家畜ふん堆肥の連用が原料用かんしょの収量、土壌化学性に及ぼす影響
最終更新日:2013年10月10日
家畜ふん堆肥の連用が原料用かんしょの収量、土壌化学性に及ぼす影響
2013年10月
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場
環境研究室長 森 清文
【要約】
環境保全と生産性が調和した持続可能な農業の展開を目指し、家畜ふん堆肥の連用が原料用かんしょ生産に及ぼす影響について試験を行った。20年20作、家畜ふん堆肥のみで春夏作の原料用かんしょを栽培した結果、平均収量は、ほぼ慣行化学肥料栽培と同程度以上の収量が得られたが、土壌化学性について見るとおおむね収支はプラスであるが、土壌中の石灰、苦土含量は減少する傾向であった。
1.はじめに
鹿児島県は全国有数の畜産県で、排泄される家畜ふん尿は膨大な量であるため、その有効利用が大きな課題となっている。この豊富に存在する有機物資源を最大限に生かすことによって、土づくりの推進および化学肥料を最少限に抑えた施肥など環境保全と生産性が調和した持続可能な農業を展開できる可能性がある。このような背景を踏まえ、地力保全基本調査基準点ほ場として設置された有機物連用ほ場において、鶏ふん堆肥、豚ぷん堆肥、牛ふん堆肥を用い、1989〜2008年度までの20年間、春夏作で原料用かんしょを20作、秋冬作で麦類を20作、合計40作栽培し、原料用かんしょ、麦類の生育、収量に対する各家畜ふん堆肥の連用が収量性、土壌化学性、養分収支に及ぼす影響について検討した。なお、本稿では原料用かんしょについて述べる。
2.耕種概要および試験区の構成
試験場所は鹿屋市串良町細山田農総センター大隅支場内ほ場、土壌条件は多腐植質厚層黒ボク土、原料用かんしょの品種はコガネセンガンで6月植え付け、11月収穫の無マルチ栽培とした。試験区の構成は、化学肥料区を対照区とし、施肥量は、窒素10アール当たり8.0キログラム、リン酸同8.0キログラム、カリ同24.0キログラムとした。家畜ふん堆肥区は窒素肥効率50パーセントとして設定し、年間施用量は鶏ふん堆肥で10アール当たり約500キログラム、豚ぷん堆肥で同約750キログラム、牛ふん堆肥で同約2,500キログラムであった。
3.各成分総投入量
20年間に投入された窒素(N)について肥効率を50パーセントとしたことから、家畜ふん堆肥区の投入量は、化学肥料区10アール当たり284キログラムのほぼ倍量で、同574キログラムとなった。リン酸(P2O5)の投入量は、化学肥料区10アール当たり320キログラムに対し、鶏ふん堆肥区同872キログラム、豚ぷん堆肥区同936キログラム、牛ふん堆肥区同938キログラムであった。カリ(K2O)の投入量は、化学肥料区10アール当たり640キログラムに対して、鶏ふん堆肥区同772キログラム、牛ふん堆肥区同896キログラムで、化学肥料区の1.5倍程度投入されているが、豚ぷん堆肥区は含有量が少ないため化学肥料区を下回る同414キログラムの投入量にとどまった。石灰(CaO)は、化学肥料区10アール当たり538キログラムに対して、鶏ふん堆肥同1,276キログラム、豚ぷん堆肥区同972キログラムで、牛ふん堆肥区はほぼ化学肥料区と同程度の同624キログラムであった。苦土(MgO)は、鶏ふん堆肥区10アール当たり280キログラム、豚ぷん堆肥区同306キログラム、牛ふん堆肥区同388キログラムであった(図1)。
4.原料用かんしょ収量
1個50グラム以上の原料用かんしょ上いも収量指数の推移について、化学肥料区を100とした各家畜ふん堆肥区収量を指数化して示した。鶏ふん堆肥区、豚ぷん堆肥区、牛ふん堆肥区とも作付け開始1989年以降、化学肥料区を上回る収量で推移しているが、豚ぷん堆肥区は1999年以降2005年まで徐々に収量は低下する傾向であった。20年20作の平均収量指数は鶏ふん堆肥区128パーセント(2,630kg/10a)、豚ぷん堆肥区111パーセント(2,550kg/10a)、牛ふん堆肥区111パーセント(2,550kg/10a)で、いずれの家畜ふん堆肥区とも、化学肥料区を上回る収量が得られた(図2)。
5.土壌化学性の変化
(1)pH(H2O)の推移
pH(H2O)の推移では、化学肥料区の低下傾向が大きく、pH(H2O)は約0.6下がった。牛ふん堆肥区、豚ぷん堆肥区も若干低下傾向でpH(H2O)は0.2〜0.3低下し、鶏ふん堆肥区はほぼ横ばいで推移した(図3)。
(2)交換性石灰含量の推移
交換性石灰含量は、各家畜ふん堆肥区、化学肥料区とも、ほぼ栽培開始直後から減少する傾向であった。特に化学肥料区の低下傾向は、家畜ふん堆肥区に比べて著しく、1991年にはCaO基準値(4,100〜5,630mg/kg)を下回り、これ以降、更に低下する傾向であった。家畜ふん堆肥区の中では、鶏ふん堆肥区、豚ぷん堆肥区の低下傾向は小さく、徐々に減少する傾向であった。牛ふん堆肥区は、2001年以降、CaO基準値を下回り推移した(図4)。
(3)交換性苦土(MgO)含量の推移
交換性苦土含量は、各家畜ふん堆肥区、化学肥料区とも、ほぼ栽培開始直後から減少する傾向であった。特に化学肥料区の低下傾向は家畜ふん堆肥区に比べて著しく、1991年には基準値(590〜1,100mg/kg)を下回り、これ以降、更に低下する傾向であった。家畜ふん堆肥区の中では、鶏ふん堆肥区の低下傾向が大きく、次いで豚ぷん堆肥区の減少傾向が大きく、いずれもMgO基準値を下回って、ほぼ横ばいで推移した。牛ふん堆肥区は基準値の下限付近を推移したが基準値は下回らなかった(図5)。
6.養分収支(収支=肥料投入量−作物吸収量)
(1)窒素(N)収支
窒素収支は、化学肥料区では10アール当たり67キログラムのマイナスであったが、鶏ふん堆肥区同125キログラム、豚ぷん堆肥区同172キログラム、牛ふん堆肥区同216キログラムと、家畜ふん堆肥区ではすべてプラス収支となった(図6)。
(2)リン酸(P2O5)収支
リン酸収支は、すべての処理区でプラス収支であった。豚ぷん堆肥区と牛ふん堆肥区のリン酸収支はぼぼ同じで10アール当たり約760キログラムのプラス、次いで鶏ふん堆肥区は同697キログラムのプラスであった。化学肥料区のリン酸収支が最も小さく同182キログラムであった(図7)。
(3)カリ(K2O)収支
化学肥料区と鶏ふん堆肥区のカリ収支は、ほぼ均衡しており、化学肥料区で10アール当たり15キログラムのマイナス、鶏ふん堆肥区で同33キログラムのプラス収支であった。牛ふん堆肥区は、カリ投入量は最も多いものの原料用かんしょ吸収量が多く、同122キログラムのプラス収支となった。豚ぷん堆肥区では、堆肥からの供給量が少ないため、カリ収支は同178キログラムのマイナス収支となった(図8)。
(4)カルシウム(CaO)収支
カルシウム収支は、各家畜ふん堆肥、化学肥料区ともプラス収支、最も投入量が多い鶏ふん堆肥区は10アール当たり1,059キログラム,次いで投入量の多い豚ぷん堆肥区は同781キログラム、最も投入量の小さい牛ふん堆肥区は同495キログラムのプラス収支となり、投入量を反映した結果となった(図9)。
7.まとめ
鶏ふん堆肥、豚ぷん堆肥、牛ふん堆肥のみで春夏作の原料用かんしょを20年20作栽培した結果、原料用かんしょの平均収量は、いずれの推肥でもほとんどの年次において、慣行化学肥料栽培と同程度以上の収量は得られた。しかし、2000年頃から豚ぷん堆肥区の収量が徐々に減少する傾向で、これは豚ぷん堆肥に含まれるカリが低いことから、カリ収支がマイナスとなったことが原因と推察された。また、土壌化学性では、同じ黒ボク土を有する他県における各種有機物の20年間の連用試験事例では、土壌のpH(H2O)、交換性石灰、交換性苦土含量は、いずれの家畜ふん堆肥についても連用10年目以降上昇したとしている。一方、鹿児島県では、石灰や、苦土の溶脱、pH(H2O)が低下する結果となった。これらの土壌化学性の変化の違いは、南九州特有の温暖多雨な気象条件による地力の消耗、肥料成分、特に塩基の溶脱などによるものと考えられた。また、収量に対する家畜ふん堆肥の長期連用効果が現れ難い要因とも考えられた。特に石灰、苦土については、それぞれの収支はプラスであるにも関わらず、土壌中の減少傾向が著しいことから、長期間にわたっての原料用かんしょの収量の安定的確保、並びに土壌化学性を健全な状態に保つためには、栽培作物と施肥量および養分収支に注意しつつ、苦土石灰などの土壌改良資材による塩基類の補給についても留意する必要がある。
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