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種子島におけるでん粉原料用かんしょの単収向上に向けた取り組み

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最終更新日:2014年1月10日

種子島におけるでん粉原料用かんしょの単収向上に向けた取り組み

2014年1月

鹿児島事務所 所長代理 遠藤 秀浩
調査情報部 坂西 裕介

【要約】

 鹿児島県の種子島では、でん粉原料用かんしょの単収が鹿児島県平均と比較して低い。このため、行政、JA、研究機関などが連携し、ほ場の土壌酸性化対策や適期植え付けなどによる単収向上効果を検証した結果、実証ほにおいては石灰施用によるpHの改善とともに単収も向上した。また、バイオ苗と適期植え付けによる顕著な単収向上効果が見られた。このことについて、研修会などを通じて、生産者に情報提供を行っている。また、中種子町のでん粉原料用かんしょ生産者の塩浦守男さんは、土壌改良とバイオ苗などの利用などにより単収向上に取り組んでいる。

はじめに

 鹿児島県において、かんしょは台風などの気象災害に強い土地利用型作物として、輪作体系や防災営農上、欠かせない作物である。さらに、種子島ではサトウキビの輪作体系の一部を担う重要な作物であるが、鹿児島県平均に比べ、低単収であるとの問題を抱えている。

 本稿では、種子島における行政、JA、研究機関が連携したでん粉原料用かんしょの単収向上に向けた取り組みと、大規模なでん粉原料用かんしょの収穫面積を誇り、土壌改良やバイオ苗などの利用などによる単収向上に意欲的に取り組む鹿児島県熊毛郡中種子町のかんしょ生産者、塩浦守男さんを紹介する。

1.種子島の概要

 種子島は、九州本島最南端の佐多岬より、南東約40キロメートルの位置にあり、南北約58キロメートル、周囲約150キロメートルと、南北に細長い形状が特徴的である。北から西之表市、中種子町、南種子町の1市2町からなる人口約3万3000人の島である。気候は、年間平均気温19.6℃、年間降水量2,345ミリメートル、年間日照時間1804.2時間(注)の亜熱帯気候である。平坦な畑地が多く、サトウキビ、かんしょ、畜産の複合経営が盛んである。

 (注)鹿児島県農政部農産園芸課「平成24年産さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」
 

2.でん粉原料用かんしょ生産の現状

 種子島(西之表市、中種子町、南種子町)におけるでん粉原料用かんしょの生産者交付金交付対象者数の推移を見ると、生産者交付金制度開始当初の平成19年度には、2,661名であった対象者数が年々減少を続け、平成25年度では1,591名と、平成19年度比で40パーセント減少している(図2)。また、作付面積は、平成19年度には、1,794ヘクタールであったが、平成25年度では、1,222ヘクタール(平成19年度比32%減)まで減少している。このように、種子島におけるでん粉原料用かんしょ生産は、生産者および作付面積ともに減少傾向にある。この要因として、高齢化による離農や担い手不足に加え、より収益性の高い青果用の「安納イモ」への作付転換が進んだことなどが挙げられる。

 また、種子島におけるでん粉原料用かんしょ生産の問題として、県内平均と比べて低単収であることが挙げられる。平成24年産の種子島における10アール当たりの平均収量は2,277キログラムと、同年産の鹿児島県における同2,460キログラムと比較すると、8パーセント下回っている(図3)。

 種子島では、生産者数および作付面積が減少を続ける中、でん粉原料用かんしょの供給量確保のために、単収の向上が喫緊の課題となっている。
 
 

3.単収向上に向けた取り組み

 前述のとおり、種子島では低単収が問題となっている。これを打開しようと、鹿児島県熊毛支庁農林水産部農政普及課(以下「熊毛支庁農政普及課」という。)が中心となり、種子島内の3市町(西之表市、中種子町、南種子町)、JA種子屋久、鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場(以下「農開センター熊毛支場」という。)が連携し、平成22年から、土壌酸性化対策などのでん粉原料用かんしょの単収向上に向けた取り組みを実施している。これらの取り組みを紹介する。

(1)土壌分析と生育状況などの実態把握

 種子島においては、近年、でん粉原料用かんしょやばれいしょ、飼料用作物など主要な畑作物を中心に、ほ場の土壌酸性化が原因とみられる欠株や萌芽遅れ、生育不良が多発している。この土壌酸性化がでん粉原料用かんしょの低単収の要因の一つと考えられている。

 そのため、でん粉原料用かんしょ、サトウキビ、安納イモなどの栽培ほ場のうち、各市町ごとに20カ所のほ場を選定し、平成22年と23年の2カ年において、土壌分析および施肥管理状況、生育状況・収量の実態把握のための調査を実施した(表1)。

 土壌分析の結果、60ほ場における土壌pHの平均値は、22年、23年とも4.7であった。作物栽培の基準値pH5.5〜6.0を下回るほ場の割合が9割以上(H22:54地点、H23:55地点)を占めるという結果が得られた。でん粉原料用かんしょのほ場では、平成23年における土壌pHの平均値が4.6と基準値を下回った(図4)。また、調査ほ場における施肥管理状況や生育状況などの聞き取り調査を行ったところ、かんしょの生育が不良であったほ場では、化学肥料を基肥としており、石灰資材を施用していないか、施用量が少なかった。

 この結果、種子島全域において土壌酸性化が進行しているとともに、石灰不足の状況にあることが分かった。
 
(2)実証ほの設置

ア.土壌酸性化対策
 石灰資材の施用による酸性土壌改良および単収向上効果を調査するため、平成23年に中種子町と南種子町にでん粉原料用かんしょの実証ほを設置した(表2)。実証ほは、苦土石灰施用区(10アール当たり100キログラムの苦土石灰を施用(以下「100キログラム区」という。)および同200キログラムの苦土石灰を施用(以下「200キログラム区」という。)と苦土石灰無施用区を設置した。

 土壌のpHの推移を見ると、南種子町の実証ほの場合、苦土石灰施用前のpHはいずれも4.5であった。収穫後のpHは、苦土石灰無施用区では4.6であったが、100キログラム区では4.7、200キログラム区では4.9と苦土石灰施用区が無施用区に比べ、いずれも高い数値が得られた。

 また、収量を比較すると、苦土石灰無施用区では10アール当たり2,460キログラム、100キログラム区では同3,180キログラム(対無施用区比29%増)、200キログラム区では同3,200キログラム(同30%増)と、苦土石灰施用区が無施用区に比べいずれも高い数値となったが、100キログラム区と200キログラム区では収量に大きな差は見られなかった。この結果、10アール当たり100キログラムの苦土石灰を施用することにより、単収向上が図られることが分かった。
 
イ.バイオ苗の利用および適期植え付け
 種子島では、サトウキビとでん粉原料用かんしょの輪作を行っていることから、サトウキビの収穫作業の終了後に、でん粉原料用かんしょの植え付けを行う。このため、植え付け時期が5月下旬から6月上旬と、他の地域に比べ遅く、かんしょの生育期間が十分ではないことも低単収の要因であると考えられている。

 このため、平成23年度にバイオ苗(注)の利用と適期植え付け(4月末〜5月初旬植え付け)による実証ほを、中種子町と南種子町に設置し、効果を調査した。その結果、10アール当たりの平均収量が5トン以上と、種子島の同2.5トンはもとより鹿児島県平均の同2.7トンをも大きく上回る結果が得られ、バイオ苗と適期植え付けによる単収の増加が認められた(表3)。

(注)バイオ苗
 本稿において、「バイオ苗」とは、茎頂部を培養し、育苗、増殖させた苗のことを言い、「バイオ苗など」とは、バイオ苗とバイオ苗の種イモを利用して増殖した苗のことを言う。2013年8月号「でん粉原料用かんしょ栽培におけるバイオ苗の民間企業などの取り組み」参照。
 
(3)普及啓発活動

 これらの結果を踏まえ、熊毛支庁農政普及課および農開センター熊毛支場が主体となり、「土壌酸性化対策」「適期植え付けなどによる単収向上効果」の普及啓発資料(図5、6)を作成し、市町やJAが協力し、集落の座談会や研修会などを通じて、生産者に対し普及活動を行っている。
 
 
 また、種子島内のでん粉工場では、平成24年度から26年度の3カ年において、バイオ苗の購入に対し1苗当たり4円を助成するなど、バイオ苗の普及に取り組んでいる。

 熊毛支庁農政普及課によれば、これらの取り組みにより、島内の石灰資材の取扱数量およびバイオ苗の供給数量が増加しており(図7)、平成25年産以降、単収の改善が見込めるのではないか、とのことである。同課は、「今後も、土壌改良や適期植え付けなどによる単収向上に向けた普及活動を継続的に取り組むことなどにより、種子島におけるでん粉原料用かんしょの生産振興につなげたい」としている。
 
 

4.生産者による単収向上に向けた取り組み

 中種子町ででん粉原料用かんしょとサトウキビを中心とした経営を営む塩浦守男さん(60歳)のでん粉原料用かんしょの単収向上に向けた取り組みを紹介する。

(1)中種子町の概況

 中種子町は、種子島の中南部に位置し、北は西之表市、南は南種子町に隣接し、面積約138平方キロメートルの町である。緩やかな丘陵をなし、北部は山林地帯が多く、最も高い山が標高282メートルで、中央部から南部にかけて比較的平坦で、耕地が多くなっている。総人口8,696人、総農家数1,407戸で、耕地面積3,420ヘクタール(注)である。

(注)農林水産省統計情報「わがマチ・わがムラ」より(耕地面積のみ平成24年値、その他は平成22年値)

(2)塩浦さんの経営概要

 塩浦さんの営農作物はでん粉原料用かんしょ、サトウキビおよび水稲の3品目である。

 ほ場は、中種子町南西部の西海岸沿いに位置し、平成25年産の作付面積は、でん粉原料用かんしょが3.2ヘクタール、サトウキビが1.9ヘクタール、水稲が0.5ヘクタールである。

 塩浦さんは、平成18年にJA職員から専業農家に転向し、今年で8年目を迎える。それまでは主に妻がほ場の管理をしており、塩浦さんは、休日に農作業を行う兼業農家であった。専業後は、集落内の高齢生産者が離農した後の農地を借り受け、規模拡大を進めてきた(表4)。平成24年産のかんしょの作付面積は3.34ヘクタールである。これは、種子島のかんしょ生産者の平均作付面積(0.75ha)の約4.5倍、鹿児島県のかんしょ生産者の平均作付面積(0.83ha)の約4倍と、ともに大きく上回り、県内でも大規模経営であると言える。
 農業機械は、トラクタ2台のほか、耕運機、イモ収穫機(つる切り・掘り起こし用)、土上げ用管理機をそれぞれ1台所有している。塩浦さんはJA職員時代、主に農業機械の整備・販売を担当しており、中古で購入したトラクタなど、農業機械の整備は今もご自身で行っている。

 農作業については、サトウキビの収穫作業の一部を委託している以外は、でん粉原料用かんしょ、水田などの作業もすべて、塩浦さんと妻の二人で行っている。
(3)単収向上に向けた取り組み

 鹿児島県におけるでん粉原料用かんしょの生産は、植え付け期の天候不順による活着不良や日照不足などの要因が重なり、平成22年産から平成24年産まで、3年連続の不作であった。塩浦さんの単収(10アール当たり)も3トンから2.2トンに落ち込んでいる。このような厳しい栽培環境の中、でん粉原料用かんしょの単収向上に向けて、塩浦さんが取り組む栽培のポイントは、「土づくり」と「バイオ苗などの利用」である。

 まず、土づくり。塩浦さんが土づくりを重視するきっかけとなったのは、平成20年に栽培していたかんしょを腐らせてしまったことである。ほ場のある西海岸沿いは、火山灰が堆積した酸性の強い土壌で、かんしょ栽培に不利であった。そのため、土づくりを重要なポイントと位置付けた。塩浦さんは、「土づくりに関する知識がほとんどなかったことから、JAや近隣生産者と意見交換を行い、良いと思ったことはいろいろ試してみた」という。現在では、堆肥、土壌改良剤(石灰、リン酸)、緑肥を利用した土づくりを行っている。

 まず、かんしょの収穫後、堆肥と土壌改良剤を投入し、ロータリー耕を行った後、緑肥としてナタネまたはイタリアンライグラスを栽培する。その後、4月初めにロータリー耕によりすき込みを行う。イタリアンライグラスを栽培する場合は、塩浦さんが播種を行い、近隣の畜産農家が1回収穫を行う。畜産農家からは堆肥の提供を受けており、かんしょの収穫後に、ほ場に散布してもらっている。

 また、連作障害を防ぐため、種子島では一般的にでん粉原料用かんしょとサトウキビとの輪作が行われている。塩浦さんの場合は、取材時点(平成25年10月)では、全ほ場のうち、主に内陸寄りのほ場でサトウキビとの輪作を行い、潮風害や台風の影響を受けやすい海岸沿いのほ場では、輪作は行わず、でん粉原料用かんしょの連作を行うことにより、気象災害のリスクを軽減するなど工夫している。なお、輪作体系は、サトウキビの新植後、株出しを2回行い、かんしょを1年栽培するというものである(表5)。
 次に、バイオ苗などの利用。平成24年産から導入を始め、平成26年産には全ほ場の1/3である約1ヘクタールで植え付ける予定にしており、徐々にバイオ苗に切り替えている。後々は、全てのほ場でバイオ苗などを植え付ける予定である。
(4)今後の展望

 すべての作業をご夫婦二人で行っていることから、適切な栽培管理を考えると、作付面積は現在の規模が適当であると考えており、今後、でん粉原料用かんしょを中心とした現在の経営規模を維持しつつ、単収向上を図りたいと考えている。

 塩浦さんは、単収向上に向けた課題として、植え付け時期の遅れを指摘する。塩浦さんも、サトウキビ栽培を行うことから、でん粉原料用かんしょの植え付けが例年5月下旬から6月中旬となってしまい、生育期間が十分ではなく、単収が低くなっていた。前述のとおり、種子島では、適期植え付けを奨励しており、塩浦さんも平成26年産以降は、4月中旬から5月上旬頃に植え付け時期を早めるため、全体の作業スケジュールを再点検しつつ、例年よりも多くの種イモを確保した上で育苗ほ場面積を増やし、植え付け用の苗を増殖することで、短期間でより多くの苗を適期に植え付けるなどの工夫をしたいとのことである。

 塩浦さんは、「農業は頭では理解していたものの、実際やってみると大変難しい。関係者とも意見交換しながら、良いものは吸収し積極的に導入していきたい」と単収向上への意欲を話す。バイオ苗などの利用や適期植え付けの実施などにより単収3.3トンを達成したいとの目標を掲げている。

おわりに

 鹿児島県内のでん粉原料用かんしょは3年連続の不作が続いていたが、平成25年産の生育状況は、おおむね平年並みと見込まれていることから、生産量の回復に期待がかかる。一方で、高齢化などの影響で作付面積が減少している状況があり、種子島においても例外ではない。そのような中、種子島における行政、JA、研究機関など関係者が連携した島を挙げての単収向上の取り組みが効果をあげることを期待したい。また、塩浦さんのような単収向上への意欲的な取り組みが県内に広がることにより、鹿児島県全体の生産量の増加につながることを期待したい。

 最後にお忙しい中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆さまに感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713