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〜鹿児島県大隅地域の事例〜

でん粉原料用かんしょと露地野菜の輪作体系による経営安定化の取り組み
〜鹿児島県大隅地域の事例〜

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最終更新日:2014年5月9日

でん粉原料用かんしょと露地野菜の輪作体系による経営安定化の取り組み
〜鹿児島県大隅地域の事例〜

2014年5月

鹿児島事務所 丸吉 裕子

【要約】

 鹿児島県大隅地域では、温暖な気候や畑地かんがい整備の推進などの有利な条件を生かし、かんしょと露地野菜の輪作体系が確立されつつある。でん粉原料用かんしょを含む輪作体系は、コストや作業労力を抑えつつ限りある農地を有効活用できるため、農業生産法人をはじめとする地域の担い手の経営維持・発展、ひいては、地域の農業・食品産業の収益性向上に貢献している。

はじめに

 かんしょは、鹿児島県の農業において、防災営農上のみならず、輪作体系上も重要な土地利用型作物である。特に、大隅地域(注)では、温暖な気候や畑地かんがい整備など有利な条件を生かし、露地野菜の生産性が高まっていることから、大規模経営体を中心に、でん粉原料用かんしょと露地野菜の複数品目を生産する輪作体系を取り入れて、経営安定を図っているケースが増加している。

 本稿では、大崎町の優良な農業生産法人の取り組み事例を中心に紹介する。

(注)本稿における「大隅地域」は、鹿児島県大隅地域振興局が所管する、大隅半島の北部の2市1町(曽於市・志布志市・大崎町)および南部の2市4町(鹿屋市・垂水市・東串良町・錦江町・南大隅町・肝付町)の4市5町とする。
 

1.大隅地域の農業の特徴

 大隅地域の耕地面積は、県全体の約3割を占め(注)、広大な土地や豊かな自然を生かした農林水産業が盛んに展開されている。年間平均気温は、北部の曽於地区が16℃、南部の肝属地区が17℃で、県下でも日照時間が長く農作物の生育に適している。

 地域内の販売農家数は、県全体の28パーセントを、認定農業者数は同33パーセントを占めている(表1)。また、5ヘクタール以上の経営体数は県全体の30パーセントを占め、経営耕地面積が大きくなるほどその比率が高く、50ヘクタール以上では同59パーセントを占めている。大隅地域は、県内でも大規模経営体の多い地域である。

 また、大隅地域内で法人化している経営体数は、平成22年度において273法人で、平成12年度比321パーセントと、県全体よりも高い増加率となっている(表2)。大隅地域は、県内でも法人化の進んでいる地域であると言える。

(注)平成24年耕地及び作付面積統計
 

2.鹿児島県による地域支援

―鹿児島県曽於畑地かんがい農業推進センターの取り組み―
 大隅地域北部の2市1町(曽於市・志布志市・大崎町)を管轄する鹿児島県曽於畑地かんがい農業推進センターでは、畑地かんがい事業を活用した大規模経営体の育成や畑地かんがい営農の確立に向けた支援などを行うことで、管内地域の農業の活性化を図っている。そのような取り組みの一環として、管内地域で生産が盛んなかんしょと露地野菜の輪作体系の確立に向け、かんがい施設の利用に関するパンフレット(図2)を作成し、生産者に配布するなど、生産者への技術支援・普及活動を行っている。

 特にかんしょと露地野菜の輪作体系を取り入れる経営体の多い曽於市と大崎町において、輪作体系に係る実証試験を行い、その成果の普及活動を行っている。

 平成25年度においては、JAそお鹿児島主催の講習会にて、かんしょと露地野菜の輪作体系における施肥体系の実証結果について説明を行ったところ、生産者の自発的な土壌分析が促進されるなど、輪作体系の確立に向けた意識啓発につながったとのことである。
 

3.でん粉製造事業者による取り組み

―株式会社都食品の取り組み―
  かんしょでん粉やかんしょを原料とした加工品の製造事業者である株式会社都食品は、農業生産法人との連携を強化し、原料の安定確保に努めている。

 同社では、でん粉原料用かんしょ搬入量の減少、加工原料用かんしょの価格高騰への対応、正社員の夏期の雇用対策などのため、10年前からかんしょの自社生産を開始した。このほか、生産規模が大きく、大きいロットでの出荷が見込まれる農業生産法人との関係性を強めることで、原料の安定確保を目指している。同社では、かんしょを作付けしている12ヘクタールのほ場のうち4ヘクタールについて、冬場にだいこんなどの露地野菜を作付けする2法人に貸し付けることで、当該法人が他のほ場で作付けするでん粉原料用かんしょを搬入してもらうよう契約している。平成25年産において、同社は宮迫農産を含む6法人からでん粉原料用かんしょの搬入を受け、その搬入量が全体の3分の1強を占めるに至っている。限りある農地を製造事業者と生産者の両者で効率的に活用することで、相互利益の関係を構築している。
 

4.農業生産法人株式会社宮迫農産の取り組み

 大崎町の農業生産法人株式会社宮迫農産と株式会社ソルフェール(以下これらを総称して「宮迫農産」という)は、でん粉原料用かんしょ3ヘクタール、焼酎原料用かんしょ3ヘクタールのほか、だいこん33ヘクタール、キャベツ25ヘクタール、ごぼう10ヘクタール、青果用トウモロコシ1ヘクタールの複合経営(認定農業者)である。同社代表取締役の宮迫健作氏(48歳)は、平成16年に夫人とともに新規就農し、10〜12ヘクタールでだいこん・ごぼう・焼酎原料用かんしょの生産をスタート。その後加工用だいこんの生産を開始しつつ、規模拡大を図り、平成20年11月に法人化した。平成26年3月現在の従業員数は、2法人合わせて22名(研修生含む)で、別途シルバー人材センターから派遣されるアルバイトも活用している。法人化以降、平成22年からは、でん粉原料用かんしょの生産を開始し、現在の生産品目となり、近隣の離農者の畑を借り受けるなど作付面積を徐々に拡大していった。現在は宮迫氏が、大隅地域曽於地区の大規模経営体集団部会「にじの会」の役員を務めるなど、地域でも先進的な大規模経営体となっている。

 また、宮迫農産は、 1)でん粉原料用かんしょを含む輪作体系による生産性向上 2)畑地かんがい設備の利用による収量向上 3)効率的な作業体制の構築と従業員教育の徹底 4)出荷体制の工夫による実需者ニーズへの対応などによる収益確保―といった取り組みにより、自社の経営安定を図っている。以下で、その取り組みの内容について紹介する。

(1)でん粉原料用かんしょを含む輪作体系による生産性向上

 宮迫農産では、でん粉原料用・焼酎原料用かんしょを含む複数の露地野菜を組み合わせて栽培している。各作物収穫後の約1カ月間で残さ処理、雑草処理のための耕起・整地作業を行い、各作物の適正生産規模を計算しながら、作付け時期や施肥体系などに留意しつつ、計画的に輪作を行っている。

 また、品目別にほ場ごとの作付面積・播種日・品種・作型・株間などの情報を記録した栽培管理簿を整備しており、各品目の播種時の契約状況や収穫時の出荷要請の予測といった現況のほか、同管理簿の過年度の収穫実績も踏まえて生産計画を立て、適切な生産規模の維持や作業の適期実施を心掛けている。
 
 
 宮迫氏は、輪作体系にでん粉原料用かんしょを取り入れることが、以下の点から有用であると考えている。

 第一に、通年の雇用体制を維持できることである。主力品目であるだいこんに係る作業量の少ない夏期においても、かんしょは、防除(ブームスプレイヤーによる散布作業)、除草といった作業があるため、最盛期の秋〜春に合わせた労働力を通年雇用できるような、従業員の周年作業計画を立てるうえで好都合である。

 第二に、コストや労力を抑えられることである。地温が十分に確保できる4月下旬以降の植え付けはマルチ被覆が不要であることから、資材費が抑えられる。かんしょつるはすき込めば緑肥となることから、肥料費も節減できる。さらに、焼酎原料用に比べ大きさなどの規格が厳格でなく、選別の手間もかからないことから、作業労力を抑えられる。

 第三に、収穫日の融通が利くことである。でん粉工場の操業期間内であれば、他の品目の出荷日や作業日の合間に収穫日を設けることができる。従業員総出で行えば、1日当たり1ヘクタールを収穫し3日で終了するので、他の品目の作業状況や出荷予定も考慮しながら収穫作業を行うことができる。

 このように、でん粉原料用かんしょを含む輪作体系は、でん粉原料用いも交付金を含めた一定の収入が見込まれ、経営全体の収益性向上に寄与しているという。

(2)畑地かんがい設備の利用による効率的な生産

 宮迫農産では、平成22年度に県営畑地帯総合整備事業(担い手育成型)を活用して走行式散水器具「スマートレイン」を導入するとともに、畑地かんがい事業で整備された給水栓を利用し、定植後に十分な水分を必要とするキャベツほ場に、夜間に20ミリのかん水を行っている。スマートレインの散水幅は30メートルで、30アールの畑を3〜4時間でかん水できるため、天候に左右されず、生産計画どおりに定植できる。また、スプリンクラーに比べて風の影響を受けずかん水範囲の調整が簡単で、動力噴霧器の使用に比べ作業時間や労力も低減でき、かつ、苗の活着や生育の揃いもよくなり生産効率が向上したことから、生産量の増大につながったという。
 

(3)効率的な作業体制の構築と従業員教育の徹底

 宮迫農産では、生産規模の拡大やコスト低減のため、作業の機械化を進めている。トラクター10台、だいこん用収穫機2台、キャベツ用移植機1台、キャベツ・かんしょ用のブームスプレイヤー(乗用管理機)1台、堆肥散布用のマニュアスプレッダー1台などを所有し、これらの機械の活用と従業員の手作業を組み合わせて、作業の省力化を図っている。

 宮迫氏は、「経営体として収益を上げるために最も重要なのは、効率的な作業体制の構築である」と話す。午前の作業の進捗状況により、午後の作業内容や人員配置を決定するなど、全て代表取締役の宮迫氏自らマネジメントしている。就業時間内にどのような作業をするか検討し、従業員が非効率な残業をせず次の日の作業に備えられるよう促す。毎日、夕方に従業員を集めてミーティングを行い、翌日のスケジュール・作業体制を確認し、全員で共有するようにしている。

 効率的な作業体制を構築する一方で、従業員には、一つ一つの作業を注意して丁寧に行うよう指導している。耕起・整地作業のひとつをとっても、普段から資材費などのコスト低減を意識させつつ、耕す深さやどれだけ耕転させるか、播種・植え付けするのにふさわしいほ場の状態に仕上げるための燃料費は惜しまないよう指示する。播種・植え付け時のほ場の調整がうまくいけば、結果的に収穫まで効率よく作業できるからである。従業員自らに経験させて、判断させるようにしている。
 

(4)出荷体制の工夫による実需者ニーズへの対応などによる収益確保

 かんしょは、でん粉原料用かんしょ(シロユタカ)を株式会社都食品に搬入するほか、焼酎原料用かんしょ(コガネセンガン)を焼酎メーカーに販売している。だいこんは、自社の洗浄・選果・カットラインを通して、青果用および加工用(刺身のつまやコンビニエンスストアで販売されるおでん用、漬物用)として市場や県外の商社に卸しており、沖縄県以外のほぼ全国に流通しているという。キャベツは、ファストフード店や量販店などで販売されるサラダ加工用に県外へ出荷し、ごぼうは、加工用は土付きで、青果用は洗浄ラインを通した後に袋詰めし、県内外に出荷している。

 収益割合の最も多くを占めるのがだいこんである。当初、大崎町のだいこんは規格混合で出荷されていたが、宮迫農産独自の取り組みで規格ごとに選別して梱包出荷したところ、実需者に好評となった。また、「大ぶりのものがよい」「小ぶりのものがよい」「規格ごとに複数出荷してほしい」といった実需者の多様なニーズに対応する中で、宮迫農産の方から実需者に余りがちだったMサイズや丈の短いだいこんを出荷提案することで販売ができ、廃棄ロスはほぼなくなるなど、実需者にとっても宮迫農産にとっても、魅力的な出荷体制を構築することができた。また、実需者ごとに、若干の曲がりなどの出荷が認められる規格の範囲を明確にすることも、廃棄ロスの低減に寄与した。実需者ニーズに柔軟に対応し、出荷先との信頼関係を築きつつも、播種時期の契約のほか、シーズン中の市況スライド方式を採用するなど、収益確保に努めている。
 
 宮迫農産では、安心・安全な農産物を出荷する体制を整えており、「かごしまの農林水産物認証(K−GAP)」(注)を取得している。K−GAPは、毎年度、生産・出荷体制に関する審査があるが、だいこん・キャベツにあっては平成21年度から、ごぼうにあっては平成22年度から連続して取得している(21年度に限り、レタスも取得)。宮迫氏は、農産物を出荷する上では、適切な生産・出荷管理をし、認証を取得するのは基本的な対応であるとして、今後も継続して取り組む意向である。もし実需者から出荷内容に関する確認や指摘があった場合も、自社梱包した段ボールに振られた番号をもって生産状況までさかのぼれるよう、生産〜出荷までの帳簿管理によるトレサビリティ体制を整えている。また、各作業に従事した従業員も記録しており、担当した従業員に対しても的確な指導ができるシステムを整えている。
 
 以上のような取り組みにより、宮迫農産は経営安定を実現している。今後の生産規模や生産品目については現状維持する意向だが、でん粉原料用かんしょについては、搬入の要請があれば、1〜2ヘクタールは生産規模を拡大する準備もあるという。先述のとおり、でん粉原料用かんしょは、生産コストを抑えつつ、通年の作業量と一定の収益を確保できるため、作業計画を立てる上でも年間の収益を見込む上でも、農業生産法人の経営安定に貢献しているといえる。

(注)かごしまの農林水産物認証制度(K−GAP)とは、安心・安全な農林水産物を生産する生産者の取り組みを消費者に正確に伝え、鹿児島県産農林水産物に対する消費者の安心と信頼を確保するため、県が策定した安心と安全に関する一定の基準に基づいて、第三者機関である公益社団法人鹿児島県農業・農村振興協会(理事長:伊藤祐一郎鹿児島県知事)が審査・認証する鹿児島県独自の認証制度。

おわりに

 鹿児島県大隅地域は、温暖な気候や畑地かんがい整備の推進などの有利な条件から、県内のみならず国内外の「安心・安全・新食料供給基地」としての潜在能力を有しており、農業生産法人をはじめとする担い手の経営維持・発展が見込まれる地域である。でん粉原料用かんしょを含む輪作体系が確立されることは、地域の限りある農地や労働力を有効活用できるため、でん粉原料用かんしょを含む各品目の総合的な生産振興に結びついている。担い手の経営安定のみならず、でん粉製造事業者ほか地域農業や食品産業の収益性向上にもつながっており、全国有数の食料供給県・鹿児島県農業の今後ますますの発展が期待される。

【参考文献】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713