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中国における異性化糖の需給および価格動向

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最終更新日:2014年7月10日

中国における異性化糖の需給および価格動向

2014年7月

調査情報部 山ア 博之

【要約】

 中国の異性化糖産業は、需要の急拡大を受けて積極的に設備投資を行った結果、生産能力が過剰な状態となり、施設の稼働率は低迷している。今後、医薬品などの食品以外の分野での消費拡大を目指すとともに、異性化糖の特性を生かした研究開発を進めるなど、甘味料ユーザーに対するさらなる取り組みが必要であると考えられる。

はじめに

 中国の異性化糖は2000年代半ば以降、競合商品である砂糖の国内価格が、天候不順などによる減産を背景に上昇したことなどを受けて、飲料業界を中心に利用が本格化した。これに伴い、国内生産も年々拡大の一途をたどってきた。

 一方、異性化糖市場の拡大の波に乗って、国内の異性化糖企業が続々と設備投資を進めた結果、生産能力は過剰な状態にあり、施設の稼働率が低迷している。

 本稿では、生産能力の増強が進み、国内の甘味料市場における存在感が大きくなりつつある中国の異性化糖の需給および価格動向を概観する。なお、本稿中の為替レートは、1元=16.58円および1米ドル=102.66円(2014年5月末TTS相場)を使用した。

1. 異性化糖の需給動向

 中国では、1970年代に異性化糖の国内生産が開始された。しかし、生産技術が未熟で品質が不安定であったことなどもあって、砂糖などの他の甘味料からの代替利用に訴求することができず、異性化糖の需要は高まらなかった。その後も、製造時に使用される水の水質に対する懸念が払しょくされず、輸送技術も未発達だったため、品質が安定しなかったことなど、課題が依然多く残されていたことから、需要が喚起されるには至らなかった。2004年の国内の異性化糖の消費量についても1万トン代と依然低く、国内で生産された異性化糖の大半が近隣アジアなどへの輸出に仕向けられる状況にあった。しかし、品質が改善され異性化糖利用に対する認知や理解が浸透していったことや、国内の砂糖価格の上昇により、異性化糖への代替需要が急激に高まった結果、2005年には消費量は10万トンを超えた。その後も砂糖価格の高騰が続いて、砂糖に対する異性化糖の価格優位性が強まったことなどから、飲料業界を中心に異性化糖に対する需要がさらに高まり、2012年の消費量は約200万トンと、2003年からの10年間で130倍にまで拡大した(表1)。また、こうした需要の急拡大に対し、国内の異性化糖企業が生産能力を増強することで対応した結果、生産量も消費量に呼応して増加した。

 一方、異性化糖の貿易状況を見ると、輸入については、消費量が増加する中にあってほぼ一定量で推移しているのに対し、輸出については、国内需要の高まりに押されて生産量に対する割合が減少を続けており、2000年代前半に8割を超えていた輸出割合は、2012年には2割台に低下している。また、輸出量は2012年には過去10年間で初めて前年を割る状況となった。
 

2. 異性化糖の価格動向

 国内価格は2003年以降、ほぼ一貫して上昇傾向にあり、2011年には卸売価格が1トン当たり3600元(5万9688円)、小売価格が同3800元(6万3004円)と、2003年からの10年間でいずれも2倍近くまで上昇したが、2012年には一転して下落した(図1)。これらの動きの要因としては、主に以下の2つが考えられる。
 

(1)砂糖価格の動向と異性化糖企業の生産能力

 2007/08および2008/09砂糖年度(10月〜翌9月)の砂糖生産量は、サトウキビの作付面積の増加などを背景に過去最大級となったものの、 2009/10砂糖年度は、低温や近年まれに見る大干ばつなどの影響を受けて、一転して大幅な減産となり、2010/11砂糖年度も多雨などの天候不順により、さらに減少した(表2)。砂糖価格は生産動向を反映して、2009年以降上昇傾向で推移し、2011年の年間平均卸売価格(7149元/トン: 11万8530円)は、異性化糖の年間平均卸売価格(3600元/トン:5万9688円)の2倍にまで上昇した(図2)。
 
 砂糖価格の上昇に伴い、砂糖に対する異性化糖の価格優位性は徐々に高まることになる。その結果、異性化糖企業の価格交渉力が強まり、異性化糖の価格は砂糖価格と軌を一にして上昇傾向で推移した。

 しかし、異性化糖企業がさらなる利益を追求して積極的に設備投資を行ったことから、業界全体の生産能力は過大となり、実需を大幅に超過する状況に陥った。異性化糖企業の多くは、中国国内の景気上昇や甘味料需要の高まりに伴う販売量の増加を見込んで、協調することなく製造量を増加させた結果、多量の過剰在庫を抱えることとなった。これにより異性化糖企業は、砂糖などの他の甘味料との競合から一転して、同業者間における値引競争に陥ることとなり、その様相は徐々に激しさを増していった。さらに、砂糖価格の下落とも相まって、2012年の異性化糖価格は前年比で1割下落した。

(2)コーンスターチ価格の動向

 中国で生産される異性化糖は、主にコーンスターチを原料としており、原材料費が生産コストのおよそ6割を占める異性化糖にとって、コーンスターチ価格の動向は異性化糖価格に大きな影響を及ぼすことになる。コーンスターチ価格を見ると、原料であるトウモロコシの価格が、食肉需要の増加に伴う飼料用消費の増加や、食料安全保障の観点から工業用消費が政策的に抑制されたことなどを背景に上昇傾向にあることから、2005年以降上昇傾向で推移している(図3)。

 異性化糖企業は、前述の価格交渉力を武器に、コーンスターチ価格の上昇に伴う製造コストの上昇分を販売価格へ転嫁したことから、コーンスターチおよびその原料であるトウモロコシの価格上昇は、直接的に異性化糖価格の上昇につながる要因となった。
 
 USDAの報告(注)によると、主要生産地である吉林省におけるトウモロコシの平均卸売価格は、2012年後半以降、1トン当たり2200元(3万6476円)を挟んで推移しており、トウモロコシ価格とほぼ連動しているコーンスターチ価格についても、2012年には同400ドル(4万1064円)を突破したと推測される(注:「China-Peoples Republic of Grain and Feed Annual」(2014年4月2日))

 トウモロコシについてUSDAは、中国の2013/14年度および2014/15年度の総消費量は、経済発展に伴う食肉消費の伸びを反映して、飼料向けを中心に増加すると見込んでいる。

 一方、中国政府は2012年12月以降、政治、政府への信頼を回復することを目的とした倹約・浪費削減運動(公務員の職務規定である「八項規定」および「六項禁令」の徹底、公費(三公経費)の抑制など)を展開し、官費の無駄遣いなどに対する取り締まりを強化している。これにより、中国国内では宴会が減少し、最近、豚肉やトウモロコシを原料とする酒類などの消費は落ち込んでいるという。中国政府は、今後も綱紀の粛清を図るものと考えられており、トウモロコシ需要は減少するとの見方もある。今後の異性化糖価格は、トウモロコシの価格がどのように推移するのか、また、以前と比べ低下しているとはいえ、依然価格交渉力の高い異性化糖企業がどのような対応を執るのかによって、影響を受けるとみられる。

おわりに

 中国の異性化糖企業は2000年代後半より、需要の高まりを見込んで、生産能力の拡張を図ったものの、その規模は需要の伸びを上回るものとなったことから、現在は生産能力が過剰な状態にある。中国のでん粉産業の業界団体である中国淀粉工業協会によると、2012年の工場稼働率は、異性化糖企業全体で5割程度と低迷している。中国政府は、異性化糖企業による工場新設を規制する方針を掲げているものの、異性化糖業界の厳しい状況は当面続くと考えられる。

 こうした状況の中、中国の異性化糖業界では、国内の異性化糖市場が、主に飲料生産向けとなっていることから、今後は、菓子類などを含めたその他の食品産業向けや、将来を見越して、医薬品や保健食品、日用化学品などといった分野における消費拡大を目指す必要があるとの考え方が大勢となっている(注)

(注)中国淀粉工業協会の推定では、中国国内に流通する異性化糖の60%程度が飲料向け、25%程度がその他の食品産業向け(菓子類、調味食品、ベーカリー食品など)であり、全体の85%程度が食品向け用途、残りの15%程度がその他医薬品、保健食品、日用化学品などの食品用途以外に仕向けられている。

 また、直近の状況(注)を見ると、2013年後半の全国の砂糖平均価格は、1トン当たり5500元程度(9万1190円)であるのに対し、異性化糖を含むでん粉糖全体の平均価格は同3000元程度(4万9740円)と、格差は縮まったものの、依然、異性化糖が砂糖に対して価格優位性を有する状況に変わりはない(注:USDA「China-Peoples Republic of Sugar Semi-annual 2013」(2013年10月29日))。このため、異性化糖企業は、異性化糖の特性を生かした研究開発に取り組み、甘味料ユーザーに広くアピールするなど、さらなる取り組みが必要であると考えられる。

 さらに、ここ最近、国内の需要に押され、勢いが弱まりつつある輸出についても、輸出先国の需給状況や商品ニーズ、為替の動向などを見極めつつ、改めて仕向先として見直すことも肝要であろう。


【参考:ステビオサイドの需給動向など】

 ここでは、天然甘味料として異性化糖や砂糖と競合関係にあるステビオサイドの中国における現況について紹介する。

(ステビアの栽培)
 1976年、中国農業科学院などが日本からステビア種子と種苗を導入し、試験栽培に成功し、1980年代からステビオサイドの生産が開始された。作付面積を見ると、甘粛省と新疆ウイグル自治区の西北部で全体の5割程度、東北部(黒龍江省、吉林省、遼寧省)および江蘇省、江西省、山東省の6省で5割程度となっている(図4)。

 ステビアは、特別な栽培技術が必要でないことなどから、零細農家による手作業での栽培が主流となっている。ステビオサイド製造企業により長期契約を結ぶステビア生産者に対し、農業機材を提供するなどして生産の効率化が進められているが、今後は産地の集約化や農家の規模拡大など、さらなる効率化を図る必要があると考えられている。
 
(ステビオサイドの需給動向)
 ステビオサイドの需要は、中国における甘味料需要の高まりを反映して増加傾向で推移し、2010年の消費量は1720トンと2003年の4倍強に達した。

 需要増加に伴い生産量も拡大し、2010年には5000トンと、2003年からの7年間で5倍になった(表3)。中国における販売価格を見ると、2011年は、過剰在庫の投げ売りなどによる値引競争により、前年に比べ15%程度の下落となったものの、依然上昇傾向にあり、2012年は卸売価格が1トン当たり1万8000元(29万8440円)と、2003年に比べ5割程度高い水準となっている。

 ステビオサイドは、植物であるステビアから抽出された天然甘味料であるにもかかわらず、その需要は合成甘味料であるサッカリンよりも劣っている(2012年のサッカリンの消費量:3800トン)。このため、ステビオサイド業界においては、安全性などの正しい知識の普及や合成甘味料に対する優位性に関する情報提供といったマーケティングの展開による中国国内での消費拡大が課題となっている。また、新しい動きとして、一部の企業では、ステビアに含まれる植物性の有効成分に着目した研究開発も検討されており、業界全体の存在価値を高めていく取り組みも進められようとしている。

 中国のステビオサイド産業は、生産量の7割程度が輸出に向けられる輸出志向型であることから、その需給動向が中国国内の異性化糖マーケットに与える影響は比較的軽微であるものと考えられる。しかし、ステビオサイドは異性化糖と同様に天然甘味料であり、今後の国内消費拡大に向けたプロモーションの展開次第では、異性化糖の需要がステビオサイドにシフトする可能性もある。こうしたことから、ステビオサイドの動向は、異性化糖の需給動向を見るうえで重要になるものと考えられる。
 
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