北海道におけるばれいしょでん粉生産の現状と安定供給に向けた取り組み
最終更新日:2015年3月10日
北海道におけるばれいしょでん粉生産の現状と安定供給に向けた取り組み
2015年3月
はじめに
北海道では、恵まれた自然環境と土地資源を生かし、大規模で生産性の高い専業的な農家を主体とする畑作農業が展開されています。その中で、ばれいしょは、輪作体系を構築する上で欠くことのできない重要な作物として道内各地で生産されており、生食用から加工、でん粉用などさまざまな用途に利用されています。
また、ばれいしょ生産は、運輸、機械、食品加工などの他の産業と結びついて、私たち道民の暮らしを支えており、特に国内では北海道だけで生産されるばれいしょでん粉製造業は、道内で生産されるばれいしょの消費の面のみならず、本道の地域経済において重要な役割を果たしています。
1. ばれいしょの生産状況
本道のばれいしょ作付面積は減少傾向で推移しており、25年産では前年より1000ヘクタール減の5万2400ヘクタールとなりました(図1)。このうち、でん粉加工用として作付けされた面積は約1万5900ヘクタールと、全体の約3割を占め(
図2)、品種別では、でん粉用としては、高でん粉価の「コナフブキ」が約1万3600ヘクタール(種子用などを含む)と作付けの中心となっています(
表1)。
ばれいしょの栽培戸数も減少傾向で推移し、25年では約1万3400戸となりました。1戸当たりの作付面積は微増傾向にあります(図3)。
でん粉原料用ばれいしょの10アール当たり生産費をみると、20年産以降、肥料・農薬などの高騰により物財費が増加しており、また、大型機械化や規模拡大の進展により減少傾向にあった労働時間も再び増加に転じたことなどから、生産費も増加しています(図4)。
2. ばれいしょでん粉の生産状況
本道のばれいしょ生産量は、近年では200万トン弱で推移しており、25年産では187万6000トンとなりました。このうち、82万7000トンがでん粉用として消費されており、生産量の4割以上がでん粉原料用に仕向けられています(図5)。
ばれいしょでん粉は、25年産では、道内に17あるでん粉工場で、合わせて約18万4000トンが生産され、その約6割はオホーツク管内で生産されました(図6)。ばれいしょでん粉の生産量は、21年産以降は20万トンを下回るなど、国が示す計画数量(19年産以降は24万トン)に満たない状況が続いています(
図7)。
3. シストセンチュウの発生拡大
ジャガイモシストセンチュウ(以下「シストセンチュウ」という)は、発生したほ場でばれいしょを栽培すると収量が最大で半分程度に減少する可能性があるばれいしょの重要病害虫で、北海道内では51市町村で発生が確認されています(図8)。シストセンチュウの発生確認面積は拡大しており(
表2)、今後のシストセンチュウの拡大によっては、国内生産量の約8割を占める北海道産ばれいしょの供給が不安定となり、わが国の食生活にも大きな影響を与える懸念があります。
シストセンチュウ対策としては、シストセンチュウへの抵抗性を有する品種(以下「抵抗性品種」という)の導入が効果的ですが、北海道内において抵抗性品種の作付面積は徐々に増加しているものの、本道の全作付面積に占める割合は約21%と普及が進んでおらず(表3)、特に普及割合の低いでん粉原料用品種は抵抗性を有しない既存の主力品種である「コナフブキ」などからの転換が進んでいない状況にあります。
4. 抵抗性品種の開発と普及
ばれいしょでん粉の安定供給を図るためには、でん粉原料用ばれいしょの生産拡大・安定生産を図ることが必要です。しかし現在の主力品種である「コナフブキ」は、シストセンチュウへの抵抗性がないため、安定生産の面から抵抗性品種への転換が課題となっています。
これまでにもでん粉原料用の抵抗性品種が育成されていますが(表4)、枯ちょう期(ばれいしょが自然に枯れた日)の収量や塊茎の早期肥大性などが「コナフブキ」に劣るなどの理由から、広く普及するまでに至っていませんでした。しかし、最近になって、有望な新品種が次々と育成され、北海道優良品種に認定されています(
表5)。
26年に北海道優良品種に認定された「コナユタカ(北育20号)」(図9)は、本年より原種生産が開始となり、29年から一般栽培が開始となる予定です。本年1月に北海道優良品種に認定された「北海105号」は、コナユタカより1年遅れの30年からの一般栽培開始が予定されており、また、HP07(コナヒメ)は、来年の優良品種認定を目指して各種試験を行っているところですが、地域在来品種などの原原種生産の受入制度の適用を受け、コナユタカと同じく本年より原種生産を開始し、29年には一般栽培が始まる予定です。でん粉原料用ばれいしょの安定生産に向けて、これらの抵抗性品種への早期の普及定着に期待が寄せられています。
道では、抵抗性品種の全道的な普及率を34年度に50%とすることを目指し、24年5月に設置した「北海道産馬鈴しょの安定供給に関する検討会」において取りまとめた消費拡大や生産、研究開発、増殖などの各対策について、幅広い関係者の連携のもとに取り組みを進めており、地域に適した栽培技術を検討するために必要な栽培実証展示ほの設置などを通じて、抵抗性品種の普及定着に向けた取り組みを支援していくこととしています。
また、道内の農業団体が設置する「馬鈴しょでん粉の安定供給体制確立に向けた検討プロジェクト」では、ばれいしょでん粉の安定供給体制確立のための対応策の1つに掲げるシストセンチュウまん延防止対策として、34年までにでん粉原料用ばれいしょについて100%抵抗性品種にする目標を設定して、有望品種の早期の増殖や普及推進のための栽培試験の実施に向けた取り組みを進めています。
5. ばれいしょでん粉の安定供給に向けて
近年、ばれいしょの作付面積は、農業団体が定める作付指標を下回っている状況ですが、ばれいしょは輪作体系上重要な作物であり、用途ごとの需要に応じて計画的に作付けしていくことが重要です。特にでん粉原料用は、近年、でん粉生産量が計画量を下回る状況が続いていることから、計画量を確保し、実需者ニーズに応えていかなければなりません。
このため、道では、良質なばれいしょおよびばれいしょでん粉の安定供給体制の確立に向けて、シストセンチュウ抵抗性などの各種耐病性の向上をはじめ、でん粉の品質や収量が高い品種の育成、健全で無病な種ばれいしょの生産・供給、省力的栽培技術の導入促進などに、引き続き取り組んでまいりたいと考えています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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