かんしょでん粉の食品利用の拡大に向けて
〜鹿児島協同食品鰍フ事例〜
最終更新日:2015年3月10日
かんしょでん粉の食品利用の拡大に向けて
〜鹿児島協同食品鰍フ事例〜
2015年3月
【要約】
鹿児島協同食品株式会社では、食感の向上などを目的として、麺類(うどん、そば、焼きそばなど)を中心に、かんしょでん粉を利用する食品のアイテム数の増加に努めている。商品の質の向上と原料コストの低減を両立させた同社の取り組みは、かんしょでん粉の食品利用の可能性を実現した好例といえる。
はじめに
かんしょでん粉の用途別販売量のシェアを見ると、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが70〜80%、菓子、麺類などの食品向けが10〜20%程度で推移している(図1)。かんしょでん粉全体の販売量が減少傾向で推移する中、でん粉製造事業者の収益性の向上を図り、かんしょでん粉を安定的に供給していくためには、糖化製品向けよりも付加価値の高い食品向けへの転換が必要との認識の下、鹿児島県内では、かんしょでん粉の品質向上や用途拡大に向けた取り組みが行われている。ハード面では、JAグループ鹿児島が平成21年から23年にかけて県内のJA系でん粉工場の再編統合を行い、同時乾燥方式の導入により食品利用に適したかんしょでん粉を製造できる工場を新設した。ソフト面では、鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「JA鹿児島県経済連」という)が平成25年7月に、JAや県内食品メーカー、生活協同組合、鹿児島県などで構成する「鹿児島県さつまいもでん粉食品用途拡大推進協議会」を立ち上げ、かんしょでん粉の特性を生かした商品の開発や研修会の開催などにより、かんしょでん粉の食品用途向けの需要拡大などに取り組んでいる。
こうした中、同協議会の構成員である鹿児島協同食品株式会社(以下「鹿児島協同食品」という)は、冷凍うどんなどの麺類を中心にかんしょでん粉の利用を進め、かんしょでん粉を利用した商品のアイテム数の増加に努めている。本稿では、鹿児島協同食品におけるかんしょでん粉の食品利用拡大に向けた取り組みを紹介する。
1. 鹿児島協同食品の概要
鹿児島協同食品は昭和58年6月、薩摩半島の北端に位置するいちき串木野市に設立された(図2)。現在は、ハムやソーセージなどを製造する食肉加工品部門、コロッケや冷凍ギョーザなどを製造する総菜・冷凍食品部門、うどんやそばなどの麺類と豆腐などを製造する日配品部門の3部門、従業員230名(平成26年12月末現在)を有する食品製造企業である。JA鹿児島県経済連グループの一員として、原料に鹿児島県産の農畜産物を積極的に使い、地産地消に取り組むなど地域に密着した事業展開を行っている。
2. かんしょでん粉を利用した商品開発
(1)開発のきっかけ
鹿児島協同食品がかんしょでん粉を利用した商品を開発するきっかけとなったのは、新設されたでん粉工場で、食品利用に適したかんしょでん粉の製造が開始されたことであった。工場の新設に当たり、JA鹿児島県経済連グループでは、かんしょでん粉が食品利用に適していることを自ら示そうと、グループ内の食品製造企業での利用を推進していた。鹿児島協同食品においても、新工場で製造されるかんしょでん粉が従来のものに比べ、かんしょでん粉特有のにおいが除去され、白度などの品質が向上したことから、利用に向けた検討を開始した。
平成23年当時、鹿児島協同食品では、価格競争の激化や冷凍麺の普及などにより、チルド麺の販売が低迷していたことから、冷凍麺の開発に取り組んでいた。小麦粉にかんしょでん粉を配合して冷凍うどんを試作したところ、麺のモチモチ感が増加するなど麺質の向上がみられたことから、かんしょでん粉を利用した冷凍うどんの開発に着手した。新工場の稼働と鹿児島協同食品における新商品の開発のタイミングが合致し、かんしょでん粉を利用した新商品が誕生することとなった。
商品開発の過程では、かんしょでん粉の特性を最も生かすことができる配合率を決めるための試作が繰り返された。社内での試食を経て、かんしょでん粉の配合率は25%に決まった。一方、製造ラインでは、従来の製品に比べ弾力が増し、生地の伸縮が大きくなることから、麺を伸ばすローラーや切断工程において調整が必要であることが判明し、ラインテストが繰り返し行われた。開発に半年を要し、平成23年12月、かんしょでん粉を利用した冷凍うどん「鹿児島のうどん」が発売された(写真)。冷凍うどんは消費者の評価も高く、順調に売り上げを伸ばしていった。24年8月には冷凍そば、25年6月には冷凍冷やし中華と、かんしょでん粉を利用した冷凍麺を次々と発売していった。25年度の冷凍麺の販売額は、23年度の2.4倍にまで増加し、麺類全体の販売額の約16%を占めるまでに成長した。
(2)利用の拡大
冷凍麺の売り上げが好調だったこともあり、既存の商品のチルド麺でも利用が検討された。既存の商品で原料を変更する場合、味や歯応えが変わることで消費者が離れてしまう恐れがあるため、商品開発は慎重に進められた。特に、チルド麺の9割以上がAコープ鹿児島や生活協同組合のプライベートブランド(PB)商品として販売されているため、販売先の営業担当者に試食をしてもらいながら配合率を決めるなど、原料の変更には販売先との調整を要した。
平成24年度に冷やし中華と焼きそばで利用を開始し、さらに25年度には、うどんやラーメンなど14アイテムで利用を開始した。現在では一部の業務用商品を除くすべての麺類でかんしょでん粉が利用されており、かんしょでん粉を利用した麺類の商品アイテム数は、チルド麺が18、冷凍麺が5、合計23アイテムにも及ぶ(図3)。麺類の売り上げの80%以上を占めるチルド麺に利用が拡大した結果、25年度のかんしょでん粉の使用量は28トンと、24年度の17トンから大幅に増加し、26年度も25年度の使用量を上回る見込みである。
(3)麺類への利用のメリット
鹿児島協同食品によると、かんしょでん粉を麺類で利用するメリットは、以下の3点にあるという。
第一に「麺質や調理性の向上」である。かんしょでん粉を利用することにより、 1)モチモチ感が増す、 2)ほど良い弾力となる、 3)ゆで伸びが遅くなる、 4)焼きそばなどでソースがからみやすくなる、といったことが可能となる。
第二に「地産地消」である。鹿児島協同食品は地産地消に取り組んでおり、鹿児島県の特産品であるかんしょでん粉を利用することは、経営方針にも合致している。鹿児島協同食品では、商品のパッケージに「甘藷でんぷん使用」マークなどを印刷したり(図4)、麺類の販売コーナーに啓発用のPOP広告を設置するなど(写真)、鹿児島県ならではの商品として、積極的にPRしている。
第三に「コストの低減」である。かんしょでん粉は小麦粉に比べると、仕入れ価格が2〜3割程度安価であることなどから、コスト低減が可能という。チルドのうどんでは、小麦粉の10%をかんしょでん粉に置き換えたことにより、1パック(180グラム)当たり約0.1円のコスト低減となった。
鹿児島協同食品は、商品の差別化とコストの低減を両立させながら、かんしょでん粉を利用した、魅力ある商品づくりを展開している。
(4)消費者ニーズの把握
鹿児島協同食品は、Aコープ鹿児島の店舗ごとに開催される一般消費者との懇談会に参加して、消費者の意見の把握にも努めている。「モチモチしておいしい」「味の乗りが良い」など良い評価や、そば本来の食感や風味を好む消費者からの「モチモチしすぎる」といった否定的な声などさまざまな意見を把握できるようにしている。
こうした消費者の意見を基に、商品の改良を行った例もある。焼きそばでかんしょでん粉の利用を開始した際、「麺がほぐれにくく調理がしにくくなった」との意見があった。かんしょでん粉により保水力が高まり、麺がくっつきやすくなったことが原因であったが、真空パック工程でパッケージ内の空気含量を調整することにより解決できた。鹿児島協同食品では、このように消費者の声を取り入れながら、より良い商品づくりに取り組んでいる。
3. 今後の展開
鹿児島協同食品は、冷凍ギョーザの皮にかんしょでん粉を配合して、皮にもっちり感を持たせるなど、麺類以外の商品でもかんしょでん粉の利用を開始している。生パスタやピザ生地、揚げ豆腐などへの利用に向けて開発を進めているところである。
かんしょでん粉を利用した商品は、現在、主に鹿児島県内で販売されているが、大手量販店の九州フェアへの参加やJA鹿児島県経済連の商談会への同行などにより、宮崎県や熊本県の他、関西地方での販売も少しずつ増加している。また、少量ではあるが、米国や香港への輸出も行っている。鹿児島協同食品は、新商品の開発や販路の拡大により、かんしょでん粉を利用した商品の定番化に積極的に取り組んでいる。
おわりに
かんしょでん粉は、近年、食品利用に適した製品が製造されるようになってきているにもかかわらず、かつての製品にあった特有のにおいなどの先入観があり、食品向けへの販売の拡大に結びついていない状況にある。鹿児島協同食品は、かんしょでん粉を利用することで、鹿児島県ならではの商品として付加価値を高めるだけではなく、商品の質の向上とコストの低減に成功している。同社の取り組みは、鹿児島県内のみならず全国の食品製造企業において参考になり得る事例であると思われる。
取材を終えて、かんしょでん粉を利用したチルドのうどんと冷凍ギョーザを購入し、実際に食べてみた。かんしょでん粉を利用したうどんは、従来のうどんと比べると、食感がモチモチしており弾力もほど良いものであった。ギョーザは焼いても皮が硬くならずもっちりとした食感が保たれ、鹿児島県の銘柄豚であるJA鹿児島茶美豚を原料とする具は、肉汁が閉じ込められてジューシーに感じられた。かんしょでん粉は大きな可能性を秘めた素材と言えるのではないだろうか。
今後、かんしょでん粉の食品利用を拡大していくためには、実需者にかんしょでん粉の利用方法を知ってもらう必要があるだろう。実際に使ってもらえれば、効果を実感してもらえるはずである。当機構としても、「かんしょでん粉の製造事業者と実需者の交流会」の開催などを通じて、かんしょでん粉の食品利用の推進やかんしょでん粉に対する理解の醸成に取り組んでいきたいと考えている。
最後に、お忙しい中、取材にご対応いただいた鹿児島協同食品の池田課長、柿森さんをはじめとした関係者の皆さまに改めてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713