大規模法人におけるでん粉原料用かんしょの生産
〜農業生産法人株式会社イーストファームの事例〜
最終更新日:2015年4月10日
大規模法人におけるでん粉原料用かんしょの生産
〜農業生産法人株式会社イーストファームの事例〜
2015年4月
鹿児島事務所(現 調査情報部) 丸吉 裕子
調査情報部 坂西 裕介
【要約】
でん粉原料用かんしょの生産者が減少する中、露地野菜との輪作作物として原料用かんしょを生産する法人組織が増加している。鹿児島県南九州市の農業生産法人株式会社イーストファームは、キャベツと原料用かんしょの輪作による規模拡大に取り組むことで、経営の安定化を図っている。
はじめに
近年、でん粉原料用かんしょを生産する法人組織が増加しており、でん粉原料用かんしょ生産の重要な担い手となりつつある。これらの法人組織は、春から秋にかけてでん粉原料用かんしょを作付けした後、秋から春にかけて野菜を作付けする輪作体系を確立し、年間を通じた土地の有効利用により規模拡大と経営の安定化を図っている。
本稿では、鹿児島県南九州市頴娃(えい)町で、キャベツと原料用かんしょ(でん粉原料用、焼酎原料用)の輪作を行う農業生産法人株式会社イーストファーム(以下「イーストファーム」という)の事例を紹介する。
1. でん粉原料用かんしょの生産構造
でん粉原料用かんしょの生産者は平成19年産の1万537戸から、26年産には5899戸と大幅に減少しており、このうち、60歳以上の生産者が全体の60%以上を占めている(図1)。また、1戸当たりの作付面積は微増傾向にあるものの、収穫面積が1ヘクタール未満の小規模な生産者が全体の70%以上を占めており、依然として、でん粉原料用かんしょの生産構造は脆弱であるといえる(
図2)。
こうした中、でん粉原料用かんしょを生産する法人組織が増加している。でん粉原料用かんしょの生産者のうち法人組織は、平成19年産では46法人であったが、26年産には106法人となっている(図3)。26年産の生産者数に占める法人の割合は1.8%とわずかではあるものの、法人による収穫面積は3万7566ヘクタールで、収穫面積全体の7.0%を占めている。また、1法人当たりの収穫面積は354アールと、個人経営の86.2アールと比べると約4倍の規模で、でん粉原料用かんしょ生産の重要な担い手となりつつある。
2. 南九州市の概況
南九州市は薩摩半島の南部に位置し、平成19年12月に頴娃町、知覧町、川辺町の3町が合併して誕生し、人口は3万7784人(平成27年1月31日現在)である(図4)。耕地面積は9170ヘクタール
(注1)で、かんしょと茶の生産が盛んである。かんしょはでん粉原料用、焼酎原料用、青果用が生産されており、でん粉原料用かんしょの作付面積は、鹿児島県全体の15.5%
(注2)を占めている。
南九州市における販売農家数は2258戸で、鹿児島県全体の4.9%を占めている(表)。また、販売農家のうち法人化している経営は149で、法人経営の比率は6.6%と、県内でも法人化が進んでいる地域である。イーストファームのほ場がある旧頴娃町は、南九州市における販売農家の約半数に当たる1097戸が所在し、法人経営の比率は7.7%と、南九州市平均よりも高い。
(注1)農林水産省「平成26年作物統計」(平成26年7月15日現在)
(注2)平成26年産でん粉原料用いも交付金要件審査結果
3. イーストファームの概要
イーストファームは、運送事業を行っている鹿児島トランスポート株式会社が平成22年1月に設立した農業生産法人である。現在、従業員は15名、30ヘクタールのほ場で、キャベツを中心に焼酎原料用かんしょ、でん粉原料用かんしょ、ニンジン、スナップエンドウの生産を行っている。
(1)積極的な規模拡大
イーストファームは設立以降、規模拡大を積極的に進め、平成26年の経営面積は30ヘクタールで、設立時の9倍以上になった(図5)。このうち、自己所有地は1.2ヘクタールのみで、規模拡大は農地の賃貸借により進めている。借地料は南九州市農業委員会が定める借地料を基に、ほ場条件などを加味して農地所有者と協議の上決定している。新規参入した法人にもかかわらず、短期間で規模拡大を進められた理由について、イーストファームの都外川業務部長は以下の2点を挙げている。
第一に、条件の悪いほ場でも借り受けている点である。一般的に小面積のほ場は、農業機械を使用できないことなどから敬遠されがちであるが、病害虫などが発生しても被害を最小限に抑えることができることや、肥培管理がしやすいといったメリットもあるため、イーストファームは貸し付け希望があれば、積極的に借り受けている。また、荒廃した耕作放棄地を借り受け、再整備したケースもある。これらにより、条件の良いほ場も一緒に借り受けることが可能になったケースもある。
第二に、きめ細かいほ場管理である。貸し手である農地所有者は常に自分のほ場がどのように使われているのか注視していると考え、ほ場周辺の清掃を徹底するなど、ほ場管理には細心の注意を払っている。このため、優先してほ場を貸し付けてもらえるようになった。
これらの取り組みにより、農地所有者からの信頼を得られるようになり、既に農地を借り受けている所有者から別の農地も借り受けられるようになった他、評判を聞きつけ新たな貸し付け希望者が増加しているという。平成27年には、さらに5ヘクタールの規模拡大を見込んでいる。
(2)生産概況
平成26年産の作付面積は、キャベツが20ヘクタール、焼酎原料用かんしょが14ヘクタール、でん粉原料用かんしょが2ヘクタール、ニンジンが3ヘクタール、スナップエンドウが20アール(ハウスを含む)となっている。
作物別の販売収入をみると、主力のキャベツが全体の70%を占め、次いで、かんしょが同21%、ニンジンが同5%、スナップエンドウが同4%で、かんしょの95%は焼酎原料用で、でん粉原料用は5%となっている(図6)。
主力のキャベツは7割が加工業務用、3割が青果用である。加工業務用は主にギョーザの具などの冷凍食品向けで、関西地方や関東地方の加工業者およびJAいぶすきに出荷している。加工業者までの輸送は鹿児島トランスポート株式会社が行っており、同社のトラックの稼働率向上にも寄与している。
(3)かんしょとキャベツの輪作体系
わが国のキャベツは全国の産地から周年供給されており、南九州市におけるキャベツの出荷期間は12月〜翌6月である。イーストファームは、平成23年からキャベツを作付けており、夏から秋にかけて植え付けを行い、冬から春にかけて収穫している(図7)。また、連作障害を防ぐための輪作を検討し、土地の効率的利用と労働力配分を考慮した結果、収穫時期がキャベツと重ならない原料用かんしょを輸作作物として取り入れている。
主な輪作体系は図8のとおりである。キャベツとかんしょの作付け前にはイネ科のソルゴーなどを緑肥として栽培している。キャベツ収穫後のほ場は葉や根が残っており窒素分が多く、かんしょのつるぼけ(つるや葉ばかりが繁茂し、いもが肥大しないこと)が発生しやすいため、特にかんしょ植え付け前には緑肥が欠かせないという。
イーストファームにおけるでん粉原料用かんしょの栽培面積は、かんしょ全体の12.5%を占める。秋まきキャベツの収穫後に栽培し、主力の晩夏まきキャベツの収穫後には焼酎原料用かんしょを栽培している。これはキャベツの植え付け時期とかんしょの収穫時期の関係によるところが大きい。
晩夏まきキャベツは8〜9月に苗を植え付けることから、緑肥のすき込み期間を考慮すると、遅くとも8月中には前作物の収穫を終える必要がある。このため、主に9月末〜11月に収穫するでん粉原料用かんしょより、早期に収穫が可能な焼酎原料用かんしょを晩夏まきキャベツの収穫後に栽培している。また、秋まきキャベツより単収の高い晩夏まきキャベツの生産が優先されているため、でん粉原料用かんしょの拡大は難しい状況にある。
一方で、4〜5月に収穫する秋まきキャベツは、主に加工業務用として出荷する寒玉キャベツの産地切り換えの時期であり、全国的に需要が多いことから、イーストファームの都外川業務部長は、「秋まきキャベツの単収が向上すれば、秋まきキャベツの栽培面積を拡大する」と話している。このため、南九州市が開催する研修会に積極的に参加し、秋まきキャベツの単収の向上のために取り組んでおり、秋まきキャベツの生産拡大によりでん粉原料用かんしょも生産拡大することが期待される。
4. でん粉原料用かんしょ生産のメリット
イーストファームは、でん粉原料用かんしょを生産するメリットとして、以下の3点を挙げている。
第一に、出荷時期を工場側と調整できることである。でん粉工場の操業期間内であれば、他作物の作業の進捗状況を考慮しながら、収穫スケジュールを調整できるため、効率的な作業スケジュールを作成することが可能となる。
第二に、焼酎原料用かんしょに比べ、大きさなどの規格が厳しくないことである。廃棄ロスが少なく、選別作業も軽減できる。
第三に、販売価格が安定していることである。でん粉原料用かんしょは、年度ごとに販売単価と交付金単価が決まっていることから、収入の見込みを立てやすい。
これらのメリットは、本誌
2014年5月号で紹介した、でん粉原料用かんしょとだいこんの輪作を行う農業生産法人株式会社宮迫農産でも挙げられており、露地野菜とでん粉原料用かんしょの輪作を行う法人に共通したものといえる。でん粉原料用かんしょは、露地野菜を主力とする法人にとって、リスクが少なく、生産コストや労力を他品目に比べ削減できる輪作に適した作物であるといえるのではないだろうか。
おわりに
南九州地域では秋から春にかけての温暖な気候を生かした露地野菜の栽培が盛んで、大規模な生産を行う法人が多い。これらの法人にとって、でん粉原料用かんしょは農産物収入に占める割合は決して大きくはないものの、輪作作物として土地利用や労働力配分などのメリットが多い。生産者数が減少傾向で推移する中、これらの法人による生産は、作付面積や生産量の維持・拡大といった、でん粉原料用かんしょの生産基盤の強化につながるといえる。
しかしながら、イーストファームのように、でん粉原料用かんしょの作付面積を拡大する意向を持ちつつも、組み合わせる露地野菜の品目との栽培期間の調整が難しい場合も多いと思われる。今後、立地条件を考慮した品目選定や栽培方法などの課題解決に向けて、出荷先のでん粉工場や関係機関を含めて地域ぐるみで検討することが一層必要になるのではないだろうか。
最後に、お忙しい中、取材にご協力いただいたイーストファームの都外川部長をはじめとした関係者の皆さまに改めてお礼申し上げます。
参考文献
丸吉裕子(2014)『でん粉原料用かんしょと露地野菜の輪作体系による経営安定化の取り組み〜鹿児島県大隅地域の事例〜』砂糖類・でん粉情報(2014年5月号)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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