土壌中の線虫頭数は、冬季から春季にかけて減少するが、土壌下層では多くが夏季まで残存する。このことは、かんしょ植え付け前の春季に耕うん・畦立てを行う慣行の栽培体系では、土壌下層に残存している線虫を畦の中に混ぜ込んでしまうことを示している。線虫害の発生には畦内の線虫密度が大きく影響するので、畦内の線虫密度をどう制御するかが、被害を軽減する鍵と言える。畦連続使用栽培は、この線虫の混ぜ込みを回避できる点で、合理的な栽培法といえる。なお、この研究ではネコブセンチュウを対象としており、ネグサレセンチュウについては検討をしていないが、似たような効果が期待できるかもしれない。
ただし、この技術は線虫を殺すわけではないので、線虫害の軽減効果は必ずしも強くはないことには留意が必要である。実際に、この効果は、ダイコン栽培前に殺線虫剤を使用した場合には及ばなかった
4)。従って、この畦連続使用栽培技術のみで完全な被害回避を目指すのではなく、環境条件と線虫頭数の状態を考慮しつつ、さまざまな防除手段を組み合わせて、被害を経済的な許容水準以下に維持する、いわゆる総合防除の一環として利用していくことが必要になる。
南九州地域では、かんしょは災害に強く、少肥・少労で収量・価格が概して安定していることに加え、定植期・収穫期に幅があり比較的大面積に作付可能なため、一定面積が栽培されている
5)。しかし、さらなる栽培面積の拡大には、生産コスト削減が不可欠であり、そのためにも、総合防除の考え方を導入し、不要な薬剤防除を減らしていくことが必要であろう。青果用さつまいも産地の一部では普及を想定した取り組みが行われており
6)、今後は、加工用かんしょにおいてもこのような取り組みを進めていく必要がある。
現在、国内で殺線虫剤として登録された農薬数には限りがある。将来、価格が上昇したり、環境への影響の懸念などから廃止に至ったりする農薬があるかもしれない。近年、臭化メチルの使用が廃止されたが、その際、病虫害防除を臭化メチルに依存していた作物については、栽培体系の大幅な変更を余儀なくされた。このように、限られた殺線虫剤に防除を過度に依存することは、生産上大きなリスクを伴う。今後は、線虫の動態に基づいた合理的な防除方法について、研究と普及を進める必要があるだろう。
参考文献
1)九州沖縄農業研究センター畑作研究領域 2013.
ダイコン−サツマイモ 畦連続使用栽培システム.
2)新美ら 2015.
土地、労働生産性ともに高いダイコンサツマイモ畦連続使用有機栽培体系. 主要普及成果(2014年度),農研機構.
3)Suzuki et al. 2014. Nematol Res, 44:1−8.
4)鈴木ら 2014.
ダイコンとサツマイモの畦連続使用栽培ではサツマイモの線虫害が軽減される. 研究成果情報(2013年度),農研機構.
5)久保田ら 2009. 福田晋編, 共生農業システム叢書 第6巻 西日本複合地帯の共生農業システム−中四国・九州. 農林統計協会, 東京. 64−106.
6)佐藤ら 2015.
殺線虫剤削減にむけた砂質土壌におけるサツマイモネコブセンチュウ被害予測. 普及成果情報(2014年度),農研機構.